アメリカスポーツ三昧

アメリカ永住コースか、または第三国に出国か!?スリルとサスペンスの人生とは別にアメスポは楽しい。

ドーピング・PED

PED以外のテクノロジーの利用

PEDによるドーピングの否定の論拠というのは

1 選手の健康被害を未然に防ぐため

2 特定選手(特に経済的有利な選手)へのアドバンテージを避け公平性を確保するため

3 ルール違反だから

というところです。それぞれの点にツッコミどころがあるわけですが、今回はまずPED以外の人為的なアドバンテージ、用具やトレーニング方法、または栄養補給などについて考えてみて後日のPEDの当否への前段としてみようと思います。

3に関しては後日議論したいと思うので今回はさらっと「じゃあルールが変わればいいんだね?」とだけツッコんでおくにとどめましょう。


今回は2の問題を中心に考えてみます。PEDの否定の論拠として2は実に弱いと思うのです。新興スポーツはともかく、プロでビッグビジネスとなっている競技や五輪に採用されるようなスポーツになると科学に裏打ちされた特殊トレーニングを積まないと上位に食いこむことはもはや不可能と言って差し支えないんじゃないでしょうか。五輪と言ってもいまはトランポリン競技やBMXなんていうのもありますから一概には言えないものの五輪の華と言えるメインの種目でスポンサー(国家扶助含む)からお金をもらってトレーニングをしないで勝てる種目があるんでしょうか?ビッグビジネスとなっているメジャープロスポーツで圧倒的な素の才能と伝統的な練習だけで勝てる種目がどれほどあるんでしょうか。


例えばですが高地トレーニングというのを考えてみます。高地トレーニングという発想自体は自然環境から学びさらに科学的に証明されて一般化したトレーニングですね。ではトレーニングに適した高地のない国の選手はどうするかというと遠く海外遠征するということで実現が可能でした。これだってすでに2のお金の問題に抵触するはずですが、まあそこは問わないでおきましょう。では高地をシミュレートした低圧低酸素施設でのトレーニングはどうなのか?というのはどうでしょう。日本やアメリカならできます。そんな施設へのアクセスがない選手は世界中にいくらでも発生してしまうんでうがこれはOKなんでしょうか。もっと言うと選手の血液性状や適応能力測定によりどれほどの低酸素がその特定の選手の能力向上に最適かを判定できるようになっているんですが、そういうテクノロジーを利用して効率的に酸素を減らし、低圧室内で運動能力を高めるのはOKでしょうか。これは2の理由でのPED否定と構造的にどこも違わないように見えます。ルールで禁止されていないので3はクリア。1の健康被害の可能性については当面はないと思われますが長期の影響はわかりません。だとすると副作用の報告がほとんどないと言えるHGHの投与と事情が変わるとは思えないわけです。なぜ低圧低酸素施設はよくてHGHはだめなんでしょう?その差は唯一3の「現行のルールに触れるから」だけなんですね。先にツッコんでおいたとおりじゃあルールが変わればいいんだね?ということになります。


最新テクノロジーを利用してのスポーツ能力の向上の例はいくらでもあるわけです。一時期話題になった水泳の水着もそうでした。あの場合は一部の製造業者が先行していたため他社が徒党を組んで反対したというまったく別次元のビジネス的理由もあって排除されてしまいましたね。3の理由を後から加えてダメにしてしまったというわけです。

水着は属人的でないから例としてちょっと違う面もありますので、もう少し属人的な色合いのあるスポーツテクノロジーによる競技能力の例を挙げると、例えば野球の打者や投手のフォームの乱れを定点観測して肉眼ではとても見えない・本人にも感知できない微細な変化を指摘・修正できるテクノロジーもありますね。以前なら個人の試行錯誤でスランプから脱出せねばならなかったのが今はこの技術によって早めの手当ができます。極端な場合成績が落ちる前に修正すらできる。試行錯誤の中でフォームをこじらせ悪化させるような事態は起こりにくいことになります。これだって例えば20年前の打撃の職人から見たらインチキに近いものかもしれないんですね。自分の感覚を頼りに修正していくことだって属人的技術のうち・選手の能力だったはずなのです。それがテクノロジーで属人的な部分を排除できてしまった例です。

栄養補給でもそうです。米代表サッカーチームが盛んにやっていますが、試合開始時刻から逆算して何時間前にコレ、さらに30分前にコレ、量も質も管理された(普通の食事ではない)栄養補給をして試合に臨みます。Pre-game mealと呼ばれています。こういう管理された栄養補給はドーピングではないですが、科学的な根拠をもって最大限効率化された栄養補給法が導入されている特殊なやり方とは言えるでしょう。男子サッカーなら国民の関心の高い他国もお金をつっこんでくるところが多いでしょうから突出したアドバンテージとはいえないでしょうが、女子だとそうはいかないのではないか。米国女子サッカーにとっては2のお金を背景にしたアドバンテージと言えます。


だからどうだというとですね、2を理由にPEDを否定するのは詭弁ではないのか?ということが言いたいわけです。ここをまず次回以降のポイントとして押さえておきたいかなと思い一項を設けてみました。

Miami Hurricanesが怪しい

今回の記事は憶測が多いです。ほぼ憶測なのでそのように読んでください。


Biogenesis社の元社員の証言として同社のクライアントとしてNBA、大学スポーツ、プロボクシング、テニス、MMAの選手たちがいた、という話が出てきています。この元社員の知る限りでは同社の顧客にNFLとNHLの選手はいなかったのこと。

Biogenesis社に類するクリニックは他にも存在している・いたわけで同社の顧客にいなかったからNFLやNHLがクリーンだと論ずることもできないですし、MLBやNBAが汚染されているという話に直結するわけでもないですが、そういう実態もあったという話です。

テニスというのはかなり目新しい証言です。わざわざマイアミのクリニックからPEDの供給を受けるということはアメリカをベースとしている選手でしょうね。連想されるのはここ数年急な復活劇を遂げたあの女子選手あたりでしょうか?MMAはPEDが蔓延しているというのは以前から言われていることですが、ボクシングもそうなんですかね?こちらはあまり聞いた記憶がありません。体重での階級制限の細かいボクシングでは筋肥大は必ずしも得になるとは限らないような。サッカーや自転車ロードレースなどと同じく持久系のスポーツですからPEDといっても血液ドーピングの方が効果的なのではないでしょうか。


テニスと並んで目新しいジャンルとしてここで取り上げられているのが大学スポーツ。大学スポーツもフットボールは巨大ビジネスとなっていますからPEDに投資してでも成績を上げたいという気持ちはわからなくもないです。但しPEDは安いものではないですから選手個人で購入するのはスポンサー(親を含む)がいないと難しいのではないかなと思われます。


そこで表題です。マイアミ市の南郊外に位置するUniversity of Miami。21世紀初頭にはニア二連覇、ニア三年連続BCS優勝戦進出とカレッジフットボール界を席巻したチームです。その前後に大量の優秀選手をNFLへ輩出。NFLドラフトでの数々の指名記録を塗り替えていた存在です。NFL内でもその勢力は強大でこういう他を寄せ付けない記録も持っています。そのMiami Hurricanesがここ数年がっくりとその成績を落としています。Miamiはフットボールでも強豪校ですが、実は野球でも全米的強豪。こちらもほぼフットボールを軌を一にしたタイミングで大きく成績が下降しています。

何が言いたいかというとMiami Hurricanesが学校ぐるみで生徒にPEDを供給していた可能性を考えているわけです。推測です。憶測です。完全に憶測ですが状況証拠だけならいくつもあります。Biogenesis社のあるマイアミ市から遠くない学校でフットボールをやっているのはMiami HurricanesとFlorida Internationalしかありません。Florida Atlanticも通える範囲内か。FIUとFAUはFBSの下位校で徐々に力を付けてきているところ。Hurricanesだけが全米トップ校から滑り落ちています。今回の社員からの情報リークで大学チームが顧客だったというのが出てきてまず一番に疑われるのはMIamiのフットボールでしょう。

Miamiが全米戦線を荒らしまくっていた時期によく言われたのはMiamiは三つ星以下のリクルートをスター級に育ててくるのがうまいというのがありました。☆5つの最強リクルートも入ってくるには入ってくるのですが、それ以外の選手の底上げが他校を圧倒していたので強かったんですね。当時は育て方がうまいという表向きの評価でしたが、いまこうなってこういう目で見てみると、ひょっとしてこれはPEDを学校ぐるみで提供していたのではないのかという疑いがあるかもしれない。

ほぼフットボールと同時期に成績が下降した野球の方ですが、こちらはまずRyan Braunが同校出身です。さらにMLBで選手生命が絶たれる可能性が取りざたされるAlex RodriguezはMiami Hurricanesの積極的な支援者で同校の野球場の改装にも多額を寄付したのでAlex Rodriguez Parkと命名されています。A-Rodは毎年オフシーズンのトレーニングをマイアミ地区で行っており、ある年はトレーニングパートナーとして同校の現役選手だったYonder Alonso (その後Cincinnati Redsドラフト指名、現San Diego Padres)を指名して毎朝トレーニングに励んだようです。A-Rodはプロ入り前にMiami進学を考えていて、ドラフト指名を受けて学期の始まる直前に翻意したのでNCAA記録上はMiamiの学生だったことはないですが、実際にはほぼ母校のような緊密な関係になっています。Miamiの野球の方は豪打で過去はならしたものですが近年はとにかく打てない。まったく打てない。これを状況証拠とするのは無理があるのは承知していますが、とにかくそういう事実はあるのです。

MLBは甘いのではないと擁護してみたい

さてRyan Braunをまず晒し者にして始まった今回の一連の粛正についてです。MLBの過去のPED関連の処分が甘いから根絶できないという説・批判は微妙に間違っているのではないかというMLB擁護を一発ぶってみたいと思ってこの項を書くことにしました。違反者のMLBからの追放までに二度も猶予があると明文化され、罰則は出場停止(とその期間のサラリー没収)のみというこれまでのMLBの処分は確かに甘かったですがそうならざるを得なかったのは選手会との取り決めに沿っているからで、選手会側の抵抗が問題なのにMLBを批判するのはちょっと違うかなという気がしているわけです。
50/100試合の出場停止というのが唯一MLBに許された罰則で、三度目違反の永久追放までの期間に重ねた記録、契約=カネ、名声その他もろもろの利益はすべて残るから選手側からすればPEDで成績を伸ばす経済合理性がある。それは事実です。だからいつまで経ってもPED問題がなくならない、というのはその通りですが、では選手会がそれを覆す処分案に同意するでしょうか。これまでも小出しの譲歩でやっと最近のオフシーズンの血液検査は導入に同意した選手会は罰則の強化にこれまでも消極的でした。

今回のBraunの処分発表直前の時期になって選手会側から「証拠があからさまな選手については今後選手会は援護しない」という声明をわざわざ出しています。Braunの陥落を予感させる声明ではありました。しかし逆に言えばこの声明はどうやっても救いがたいクロ選手でも今までは可能な限りフォローしてきたことを認めているのであり、今後もグレー選手は守るべく戦うぞと言っているわけです。選手会という組織の性質上、選手の権利を守るのは最大の責務で選手のために戦うという事自体は正しいわけです。

そういう抵抗がある中、処分が厳しくないとMLBの側を責めるのはちがうのではないか。MLBは年間通じて血液検査をしたくても、選手会側は抵抗してきたのは明かなのです。アンチPEDの流れに抗しきれず2012年からスプリングトレーニングの時期を含むオフシーズンの血液検査は導入されましたがいまもシーズン中の血液検査はありません。一旦シーズンインしてしまえば血液検査はないとはっきりしているのです。長いMLBシーズンでこれが有効な検査態勢でしょうか?足りないでしょう。でも選手会側が合意してくれない検査は実施できないのですからこうなっているのです。FA移籍した某強打者が血液検査導入初年度の2012シーズン序盤に大不振に陥ったのを見て「…」となった関係者・ファンは少なくないはずです。

もちろん選手会側の言い分もそれなりにわかるのです。ランダム検査ですからいつ・何度検査されるかわからない。夏場のスタミナの苦しい時期に血を抜かれる。先発投手がたまたま登板前夜に血を抜かれる。ランダムですからそういうこともあり得る。これがパフォーマンスに影響する可能性は確かにあるから、シーズン中は勘弁してくれ、というわけですね。それはそれで筋が通っている。年間に回数を絞っての検査ではその該当回数を済ませたらあとはやり放題になってしまうのでそういう回数制限はできない。

そういうせめぎ合いがあって現在の処罰基準になっているわけです。出場停止部分だけは無給ですが、その後PED抜きでただのヒトになってしまった高額FAの長期契約を抱えるチームは大損という仕組みです。


いきなり話は飛びますがここ数年、New York Yankeesが大物FAに手を出さないのは実はこの問題が関係があるのではないのか、と思っているのです。YankeesのGM CashmanはたびたびPEDの疑われる成績が急激に伸びた選手について揶揄コメントを出しています(あまり大きく取り上げられないですが、何度もコメントしています)が、あれは近い将来のPED検査体制強化を見込んで大物FA選手達が長期契約を満足に満了できず撃ち落とされていく可能性とその後のパフォーマンス激落を見込んでのことではないのか、と考えているのですがどうでしょうか。よってPED抑制がかかるようになって素の成績でFA相場が形成されるのを待っているのではないか、という見方が可能なのではないか。言ってみればいまのPEDによる成績のインフレ状態が収まるまでは大型長期契約を結ばないのが中期的な戦略として正しいと信じてFA市場から引いて、いわばノンポジを決め込んでいるという風に解釈できないかなと思うのです。

処分の順序立てを読んでみよう

MLB Milwaukee Brewers Ryan BraunへのPEDの処罰が発表になりました。PED関連の処分は労使間の取り決めがあり、これまでは初犯50試合出場停止、二回目100試合、三回目永久追放の三種類しか処分は存在しませんでした。今回のBraunへの処分で最も目立つ点が今季残り試合(プレーオフを含む)の出場停止という内容だったことです。Milwaukeeは処分が発表された時点(=昨夜の試合を含まない)で97試合消化、従ってレギュラーシーズンで65試合の出場停止処分ということになります。Milwaukeeは現在NL中地区最下位19ゲーム差、ワイルドカードを考えても現実的にはプレーオフの望みはほぼなくチームにとって都合の良い処分となったと言えるかと思います。どうせもう今季はトレード期限に向けて選手を処分しに回る側ですからBraunが出場しようがどうであろうがそれはもうどうでもいいことでしょう。


Braun本人の方は2011年のオフシーズンの最初の疑惑がかかったときに「真実は我にあり」「自分は完全に無実」と高らかに勝利宣言してMLBや検査員を真正面から非難してしまったのに、いまになってごめんなさいと言っても言葉の軽さが悲しいだけですが、とにかく今回は全面降伏することで出場停止は今季に限定され、来季は新たなスタートを切れるという処分で済みました。しらじらしく嘘をつき続けたことが白日にさらされたわけで今後人間性を疑われ続けることになりますし、どれだけ成績を残しても殿堂入りは苦しいということになるんでしょうが、とにかく現行の契約の残り部分のお金は稼げることになったようです。

上記でリンクした当ブログの記事はなつかしいです。Braunの潔白主張に同調してしまった人はMLB関係者・ファン含めて多数いたはずで、それらのファンを裏切ったことになるBraun、今後の選手生活はどうなるんでしょうか。ウィスコンシン州のスター同士で友人関係であるNFL Green Bay PackersのQB Aaron Rodgersも恥をかかされた一人ですね。Braunの潔白を訴える強い擁護コメントを過去に出しているんですが、今回のBraunの陥落・自白を受けてのコメントはまだRodgersからは出てません。なんでもBraunとRodgersは共同経営のレストランも所有しているそうで、状況によってはジョイントベンチャーの契約の解約などにも響くことになるので軽々しく言えない部分もあるのかもしれません。


今季のBraunの最終成績は61試合出場    225打数67安打.298、9本塁打38打点。ホームランを162試合換算すると15本程度。MVPに輝いた2012シーズンの33本、昨年の41本から激減です。二塁打も大きく減っており、打率こそ3割近辺となりましたが(但し規定打席には足りません)飛距離ががっくり落ちたことは否定しがたいようです。薬がないと飛ばないんだなあ…という単純な事実をまた見せられたことになるんでしょうか。


さて表題の件ですが、Braun以外にも何人も今回のBiogenesis社からPEDを提供を受けていた選手はいます。昨年の疑似首位打者Melky CabreraやNew York Yankeesの大物Alex Rodriguezも近い将来に処分を受ける可能性が高い。Braunの処分はBrewersがペナントに絡んでいないのでほぼ個人への処分ということですが、プレーオフ争いに絡んだ選手の処分を先行しなかったのはなぜか?という疑問が残ります。つまり違反者・処分予定者がBraunの処分後もプレーオフ争いのチームに貢献してプレーしているわけです。もし処分者がBraunに遅れること数週間の間に活躍してチームがプレーオフに滑り込んだら、なぜプレーオフに関係のないBraunの処分を先行したのだ?という疑問が沸くはずです。

該当者にはつい先日オールスター戦にも出ていたJhonny Peralta (Detroit Tigers)、Oakland A'sの快進撃を支えている13勝3敗Bartolo Colon 、Texas RangersのNelson Cruzなどがいます。なぜBraunの処分を先行したのか。なぜ優勝に関わるこれらの選手の処分を後回しにしているのか。


ここからは完全に推測ですが、Braunをまずは晒し者にしてアンチPEDキャンペーンの宣伝効果を高めることを狙ったと考えるべきなのではないでしょうか。2011年末に捕まえたのにすり抜けた(たかがうまく逃げただけなのに勝利宣言までした)Braunをまずはさらし首処刑というところと読みます。

同時にBraunの処分が比較的軽い(と私は思います)65試合の出場停止にしたことで、他の容疑選手たちに同様の残りシーズンの出場停止をすんなり受け入れるよう誘導しているのだと読むこともできるでしょう。(繰り返しますが労使間の合意通りなら初回の処罰は50試合出場停止のはずですから、合意通りに50試合じゃないのはおかしい、という違反選手側が抗弁することは可能です。二度目の違反の選手は問答無用の100試合から削減されるかどうか疑問)

ちなみにBraunの処分が確定して、残る最大の大物であるA-Rodに関してはリークされているところによればBraunよりも罪状が悪質かつ証拠も多いとされこちらは残り試合の出場停止で済むかどうかわからない。勝利宣言でMLBの顔につばを吐きかけたとも言える情状からすれば比較的軽い処分で済んだBraunの次には、A-Rodには大きめのペナルティが発表されるという可能性があります。小物選手たちのそれぞれの処分はその後かもしれません。

なぜかJohn Rockerに同意してしまう

John Rocker。皆さんご記憶でしょうか?MLB Atlanta Bravesで短期間クローザーとして活躍した大型白人投手です。が、ほとんどの場合John Rockerといえば舌禍事件で悪名を轟かせた鼻持ちならない選手として記憶されているかと思います。当時Greg MadduxやTom Glavineを擁して常勝だったAtlanta Bravesにやってきた恐れを知らない若き新クローザー。人を食った態度でアウェイのファンと悪罵の交換ぐらいは日常茶飯、その後人種偏見を全開にしたインタビュー記事がSports Illustrated誌に掲載後はPublic Enemy(社会の敵)ナンバーワンとなりメディアで取り上げられ、結局その影から逃れられずさすがの悪たれ坊主も成績が下降していって表舞台から消えていった選手です。当時はまだインターネットの普及が進んでいなかった時代ですが、あれがいまのソーシャルメディアの発達した現代だったとしたらどんな騒ぎになったのか。

当時、地元アトランタではRocker支持者というのはけっこういたものです。街頭のテレビのインタビューで堂々Rockerの言ってることは正しいと言い切る女性なんかも見たことがあります(サングラスはかけてましたが)。アトランタは南部ど真ん中、人種的な葛藤の大きい都市ですからRocker的な見方も支持を受けることができたようです。いまの実名ソーシャルメディアの世界だったら逆に支持者は支持を表明しにくくなるのかもしれませんし、どうなんでしょうか。そうやって考えてみると当時のBravesは中心選手の多くがアメリカ人白人だったなという気がします。McGriffなんかもいましたが…検証していないのでいまここでは印象だけで語っておきます。


さて表題の件ですが、その一昔前の人種関連発言についてではありません。最近になってRockerがPEDに関して発言したのですがそれに深く同意してしまったのでそのお話を。

Rockerの主張は、PEDのおかげでMLBもファンも散々楽しんだし、その遺産を今も受けて繁栄しているじゃないか、というものです。特にSammy SosaとMark McGwireのあのホームラン量産競争となったあのシーズンを例として挙げています。

これ、私はつくづく同意してしまったわけです。McGwireはPED使用で断罪されて涙の懺悔まで何年も苦しい思いをしました。Sosaは表向きMcGwireのような断罪モードでメディアに晒される機会はほとんど記憶にないですが静かに表舞台から消された・消えたという風に見えます。二人のあのホームラン協奏曲から遅れること数年、Barry Bondsがこの二人を抜き去って史上最多ホームランを記録したわけですが、毎日毎日、ホームランが出たのか出ないのか気になって仕方ないという興奮を味合わせてくれたという意味ではBondsよりもSosa/McGwireのときの方が上だったように感じます。後から見ればどちらもPEDで伸ばした飛距離と記録だったわけです。それを事後的になかったように扱うのは違うだろうというのは以前からときどき思っていたわけです。McGwireもSosaもBondsもなにかとんでもない悪事を起こしたかのように扱われる。McGwireは復権に向けて打撃コーチになってみたりしていますが、PEDで成績を伸ばした選手に打撃のメカニクスの指導ができるのか?という色眼鏡での否定も当然のようにつきまといます。あれだけの楽しみをファンに与えてくれた功労者を事後的なルール変更を理由に名誉をおとしめる。それは正しいのかなという疑問があります。

もちろんPEDの蔓延を防ぐための心理的防波堤としてPEDを使用した成功者は評価されないんだという実例を晒すことでの教育的効果はあるんでしょうが、あの奇跡のホームラン競争のシーズンがなかったことのようにされているのは悲しむべきことだと思います。間違いなくエキサイティングだったのですから。人々の興味が集中しMLBは多大な金銭的な恩恵と巨大なパブリシティを得たはずです。しかしMLBは当該選手たちを断罪するばかりで自らが当時得た利益は手元に残したままです。それを片手落ちだろという指摘は十分に成立する議論かと思います。

この点を指摘できるのは既にMLBから離れた仕事に従事し、イメージ的にも実際的にもMLBから切り離された立場(将来年金を貰うだけが関わりか)のRockerだから言ってしまえる部分でもあるのでしょう。



クリーンで打てない契約を球団は望まない

本当はWBCの米国チームの話をやりたかったんですが、ニュースネタになっているA-Rodの再度のPED疑惑に触れておこうかと思います。


概要としてはNew York YankeesのAlex RodriguezがPEDを処方するフロリダ州の医療機関の患者リストに名前が残っており、当該機関から継続的にPEDを処方されていたと疑われているというものです。但しA-Rod本人がMLBが実施しているPED検査にひっかかったことはありません。A-Rodは2009年にPEDの過去の使用を告白していますのでそもそも潔白ではありえないのですが、MLBの処分で言えば一度も処分されたことがないため、もし今回の事情から処分を受けるとなった場合は初の違反に当たりよって罰則としては50試合の出場停止が課されることになります。元々A-Rodは股関節の手術で今季の開幕には間に合わないことが確定しており、どこの時点からその出場停止の50試合をカウントし始めるのかからして微妙です。いずれにせよどれほど早くても夏、最悪の場合2013年はまったくプレーできないのに近くなる可能性も残ります。現在37歳、この夏には38歳になる選手が丸一年空くというのがその後のキャリアにどう影響するのか。最悪となれば今季だけでなく引退まで考えなくてはいけなくなるのかもしれません。

お金の面を考えれば2007年にYankeesと10年契約を結んでおりまだ4年も高額契約が残っているので治療に励んでぐずぐずしつつ集金継続するのが得策であり代理人(Scott Boras)もその方向で指導するはずです。これがYankeesの側から見ると邪魔なわけです。


Yankeesが贅沢税回避や来季以降に見込まれる中心選手Robinson Canoの高額FA再契約などを念頭にサラリー圧縮策にここ数年励んでいるのはMLBファンはすでにご承知のことと思いますが、ここで降ってわいたA-Rodの再度のPED疑惑を期になんとか変化球で不良債券化したA-Rodの契約を破棄できる方法はないかと模索しているという報道が出ています。

基本的にはそれはYankeesにはできないというのがルールです。PED使用への罰則は労使協定で三段階の出場停止が定められており、それ以外の罰則を加えることはできません。初回50試合の出場停止、二度目なら100試合、三度目は永久追放というのが現行ルール。罰則が軽すぎるという議論があるのは承知していますが、それは今回の件とは別問題。

メジャースポーツの契約では全ての外部医療行為はチームドクターから照会されて行われるのが原則で、Yankeesのチームドクターに照会せずに独自に外部の医者にかかった事自体が契約違反と言えるので、それを理由に契約解除が可能かどうか、などPED使用以外の部分で責めたい意向とされます。A-Rodサイドも、それをバックアップするであろう選手会もこれには強く反発するのは必至。PED罰則での労使の合意外の迂回処罰ではないか、という反論が当然のように出てくることでしょう。その結論がどう出るのかは見通せないところです。


PEDの使用問題はいくつも問題がからまっています。キャリア晩年の有力選手にとってはお金の問題とすれば50試合の出場停止などさほど痛くないでしょう。そこまでにさんざんお金も名声も得ているわけですから。もちろん殿堂入りという名誉は消える可能性もありますが、90年代以降の名選手がごっそり抜けた状態となったら野球の殿堂自体の価値が減ずるという可能性も否定できないと思うのです。名誉というのはまさに有名無実、形あるものではないのですから。成績の優秀な選手や有名選手がことごとく殿堂入りしない事態になったらどうなっていくのか。既に最多本塁打選手、最多安打選手は殿堂入りできていないですね。

またPEDで成績を伸ばして大型契約で加入してきた選手が契約締結時点でPED使用を止めるというのは球団側にとっては大変なリスクです。頭の中では過去の成績はPED込みかもなぁと思いつつもその選手と契約しているはずで、それが急にPEDを止めて成績降下されたら球団側は大損です。昨春のAlbert Pujolsの春先の大不振なんかはまさにその例で長期契約したばかりのAngelsはひやっとしたはずです。Pujolsの場合はその後復調、それがPED使用を再開したからなのかなんなのかは知るよしもないですが、Angelsから見ればPEDがどうのこうの言ってPujolsにケチを付けることよりも、大型長期契約をしたのに打てないことの方が大問題なわけです。クリーンかどうかなんて球団側からしたら興味がない。クリーンでも打てないんじゃ意味がないのです。

 A-Rodの場合だと、2009年のPED使用告白以前もそれ以降も、A-RodがクリーンかそうでないかはYankeesにとっては大きな関心ではない。要は出場して打ってくれればそれでいいわけです。なにせ10年契約でしたから。2009年の告白のときにもYankees側にとっては成績が大きく下降することが一番怖かったのであってクリーンかどうかは二の次の問題でした。まさかYankeesにしてもナイーブではないですから2007年の長期契約締結時にA-Rodが完全にクリーンだと思っていたわけでもないでしょう。2009年の告白のときもこれからクリーンとなるのかどうかでなく、既に2007年の54本塁打156打点をピークに下降ラインに入った成績がさらに下がるのかどうかの方が関心だったはずです。

それがさらに進んで成績の面では最近過去二年間合計で本塁打34本、打率も.270台、それよりも出場機会が落ちているしポストシーズンにも弱い(ポストシーズンの部分はPED関係ないか)。2013年も股関節手術で前半戦出場が見込めない。その上クリーンですらなかった。PEDで成績をブーストしていてそれでもここまで成績が落ちているとなるとYankeesとしても元々生え抜きでもないA-Rodの契約を尊重する理由がなくなっていると見ていいようです。そういう流れで迂回理由での契約解除を模索するであろうという話になっているようです。


個人的な感触で言わせてもらうと、たぶんYankeesの契約解除模索は失敗するのではないかと感じます。2009年当時のPED使用告白時にもチームドクター以外が処方を行った可能性は高く(そうでないと今度は薬事法違反で違法行為です。処方されたPEDの使用はMLB規定における「違反」行為であっても違法ではない)、それを理由に今回は契約解除を目指すものの2009年当時にはそういう動きをYankeesはしていない。つまり同様の契約違反があったのにまだ打てた2009年当時はスルーOKで、打てなくなった2013年には契約違反だと言い立てるのはダブルスタンダードで、その実は成績不振からの契約解除が真の理由だと反論されてYankeesの動きは裁判に持ち込まれて通らない可能性があります。

まあそれでもYankeesからすればダメもとで大した損はありません。成功すればA-Rodのサラリーがごっそり向こう四年間の予算から外れるわけで、その金はCanoやGranderson、または新先発投手との大型契約に振り向けられる。そういった損得勘定からしてYankeesがダメもとでA-Rod斬りに精を出すのは確定的、但し成功確率はいま表面化している程度の理由付けでは少々弱く失敗しそうなように思われます。

訳がわからない言い訳はしない方がいいと思う

明日から例のLance Armstrongのドーピング懺悔番組がオンエアになるということで一部は盛り上がっているようですが、個人的にはあまり興味がわかないです。あれだけ「やってないんだ!」と何年も言い続けて、昨年クロ裁定が確定してから、実はやってました、とか。なんでもその番組の司会者(日本で言うと徹子の部屋の黒柳徹子)によれば番組制作側が期待したほどには大懺悔大会ではなく、まだいろいろ正当化を付けたりとか全面降伏ではないらしい。私は見ないですがニュースが内容の要約はしてくれるでしょう。

スポーツ界のドーピング問題としては事実関係にはなんら変化を及ぼさないと思われますし、あるとすれば「否定して引っ張るとこうなっちゃうよ」という教訓の新たな一ページと言ったところか。なんでもArmstrongは自転車界からは追放されたが、別競技扱いであるトライアスロンに出場したいんだとかなんとか。まあ確かに一人の男の人生は競技から追放されてからも続くわけですから人生をギブアップしないこと自体は悪いこととは言いません。


ところで今回の表題ですが、Armstrongのことはオマケで本題はここからです。心から意味のわからないもう一つ別の言い訳問題が噴出しているのでそちらのお話。

今季のハイズマン賞(カレッジフットボールのMVPに当たる)のファイナリストだったNotre DameのLB Manti Te'oについて、Te'oの元ガールフレンドが白血病で死亡、その心の傷で自分を奮い立たせて今季頑張ったんだ、という感動のお話が実は全部嘘で、そもそも当該の女性は実在もしていなかった、とかいう話になっています。その女性のSNSアカウントも存在するけれどそれも実在しない人名で作られたアカウントで、使われていた写真は他人の写真だったとかなんとか…

あまりにも話が突飛すぎて理解するのに苦労してしまうのですが、Te'oがお涙ちょうだいを目指してこのストーリー全体を作ったという話…らしいです。それだけでもさっぱりわからないんですが、さらにそれに輪をかけて所属のNotre Dame大からは「Te'oは騙された!」というもっと訳のわからない公式擁護コメントも出てきて、いったい君たちはなにを言ってるんだ?状態です。Notre Dame側から出たコメントが擁護になっているのかすらわからない。

ばかばかしすぎる内容なのですが、たまたま前項で書いた通りアメスポは若干ネタ不足な隙間時期を迎えているだけに数日はこの理解不能な事件の解説や事実関係の掘り起こしで賑わいそうです。アメリカのメジャーSNSは基本実名アカウントなのでもしその人物が実在しないとなるとアカウント消去(それとも停止?なだけでデータは残る?)になるはずですが、こういうのってどうなんですか?関係者が作成したとされますから自主的に証拠隠滅するんですかね?それとも一応死人のアカウントなのでいまになってアクセスすると足が付くから放置か。というかハイズマン詐欺でしょうか?これ。ハイズマンも獲れず、BCS優勝戦も一方的大敗だったからまだいいですが、そうでなかったらどうなったんだろう、とホッとするやら呆れるやら。Notre Dameが擁護するように、そのガールフレンドが偽名でTe'oと交際していたとしても、写真もあるんだから少なくともTe'oはその顔をした誰かとは交際していたはずですよね?その子が死んだ、と連絡が来たとして…葬儀にも行かない、お墓にも行かない、その他名前が確認できるものがないということが… えーと… Notre Dameが言い訳してみようとしている想定状況からしてわかりません。

Te'o本人が言い訳するならともかく、Notre Dameまで訳のわからない言い訳に荷担しているのはよくわからないですね。相当学校側も狼狽しているということか。せっかくの復活シーズン直後にこんなどたばたとは。

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