NASCAR版の労働争議に近い契約問題がこじれています。今季を最後に現行のカネの分配ルールが期限切れ。来季の見通しが立たないままで今季の後半戦に向かうことになっています。混沌としていて着地点が見えない。NASCARという準メジャージャンルのため大手スポーツマスコミからは注目されないままで危険水域に入ってきているようにも見えます。

まず大雑把な状況から。NASCARは昨年から順調に2025年シーズンからの7年間の放映権契約を締結。これまでのシーズン前半をFOX系列が、後半およびプレーオフをNBC系列が放映するという態勢から大幅にグレードアップ。FOXとNBCに加えて夏場にAmazon Primeが5週間、TNTが5週間の短期集中で放映をするという4局態勢へ。下部シリーズのXfinity Seriesも別途地上波のThe CWが放送となりそれも含めると現在の2局態勢から5局態勢へ拡充。個人的にはこの放送態勢は目先が変わって良いのではないかと思っています。
それでNASCARが得た総額が7年$7.7 Billion。NASCAR自体の人気は00年代に既にピークを打ってるのですがそれでも好舵取りでアメスポ準メジャーとして収入面では好ポジションを確保しているというふうに見えます。

それでNASCARへ入るお金は決着しているのですが、そのお金をNASCAR本体・各チーム・開催レース場へ分配する分前の交渉が膠着していて現行の契約があと4ヶ月ほどになってもまとまっていない。チームとNASCAR本体の意向の隔たりは大きく歩み寄りの様子も見られず過去最悪の険悪な状態であるともされます。

それに嫌気が差したのか大手のStewart-Haas Racing(SHR)が今季を最後にNASCARから撤退すると突然表明。手持ちの4枠のチャーター(出走権)も売り払う意向と伝えられたのが1ヶ月ほど前。2023年にはチャーターが$50 millionほどで売買されていたのが、急にSHRの廃業でチャーターが大量に売りにでることになり価格が半額かそれ以下に下がっているとされます。一度に4枠も出せば値が下がるのはSHRもわかっていたでしょうがそれでもNASCARから撤退という大きな決断をしたのですから、SHRから見てNASCARとの交渉がさらにこじれてチャーターの価値が半額以下に下がっていく未来を悲観したという可能性もあります。

人気絶頂とは言えないまでも安定した人気を維持しているNASCARだけにチームとの交渉が来季開幕までにまとまらずシーズン冒頭の大レースDaytona 500のスケジュールに影響が出るようなことは避けたいはずですが双方の主張は平行線で夏まで来てしまってます。

現行のカネの配分はNASCARの収入の10%をNASCAR自身が、レース場が65%、チームが25%という配分になってます。但し開催されるレース場の多くはNASCAR自身が所有しているレース場なので実際はNASCAR自身の取り分は10%どころではない。
チームの取り分を増やすという方向ではNASCARも同意しているがその増額幅でチーム側と大きく隔たりがある上に、チャーターの有効期限を新放映権契約と合わせて7年間に限るとしているのがチーム側が受け入れがたい点となっています。

もともとNASCARのチームは儲かっていない。チームの年間予算に占めるチームのとってきたスポンサー契約は9割とされ、つまりNASCARからの分配金(ざっと1割)だけでは経営はまったく成り立たない。こんな構造では続けられないというのがチームの言い分で分配金を増やせと。しかしその増額の幅で差がある上に7年後にはチャーターを取り上げられてしまうかもしれないという交渉なのでとてもチーム側は同意できないってことなんですね。

比較として野球MLBだとざっと各チームの予算収入に占めるスポンサー契約は10%程度とされます。入場料収入やら物販、放映権料やらがメイン。NASCARはそういう仕組みになっていません。モータースポーツはスポンサーに頼る面が強いのはNASCARに限らないんでMLBみたいにはけっしてならないのはともかく9割をチームの自助努力のスポンサー獲得でというのはしんどい経営ではあるんでしょう。NASCARの方が年間収入が$1.1 Billionという景気の良い話があるのでその分前を我々にも回せというのはまっとうな交渉かなあとは思います。

アメスポではしばしば労働争議が起こりロックアウトやストが起こってきたわけですが、そういう労働法に基づいた紛争処理がNASCARとチームの場合には適用されないという点でチーム側に不利という側面もあるようです。各種労働法や労働争議法は労働者の権利擁護のためにある法律ですが、今回のNASCAR対チームの争いには守るべき「労働者」が存在していないんですね。企業対企業なので。なのでチーム側は出走を取りやめた場合に労働者がストをしたときのような法律上の保護が期待できないらしい。そうなるとカネと運営権を握ってるNASCARが圧倒的に有利な交渉になってしまうとかなんとか。

その辺りまでの先も睨んでSHRはこりゃダメだと急遽今季中のNASCAR離脱を決めた可能性もあります。昨年の相場よりは安くてもいまならチャーター1枠当たり$20-$25 millionぐらいでは売れそうだ。チームとNASCARのいざこざがさらに悪化すれば将来チャーターが無価値に近くなる可能性だってなくはないという読みもありうるんですよね。

まさかNASCARも突っ張りきってカタストロフィを招くような交渉はしないと常識的には思えるんですが昨年中には妥結すると言われていた交渉がいまに至っても乖離が大きいとなるとこれは本当に交渉期限ぎりぎりの時期までチキンレースをするつもりを決めているのかもしれない。