Pac-12の崩壊が訴訟に発展しています。Oregon StateとWashington Stateの2校のみが2025年以降もPac-12に残る見込みになっているわけですが現時点では脱退予定校もメンバーのうち。よってPac-12の現行の理事会では脱退予定校が多数派になってしまっている。脱退予定の学校と残留の学校ではPac-12の運営方針についての意向はまったく異なりますが今のままでは脱退予定校の意向が優先されてしまう。それを阻止するために残留2校が理事会議決の緊急差し止めを求めて訴訟を起こしてます。放っておくと脱退予定校が都合の良いようにカンファレンスの財産を分割したり脱退金を引き下げたり無料にしたりといった事を議決してしまうことを恐れての訴えです。当面の権利保全の申し立て。最終的な財産分割などは時間をとって別途の話合い、それで決着つかなければ別の訴訟ということでしょう。
緊急性のある事態、一度起こってしまったら善悪関わらず元に戻せない事態でやったもん勝ちを未然に防ぐために裁判所が使えるというのはアメリカの社会システムの良いところの一つではあろうと思います。

崩壊後に行き先が決まっている学校は先の見通しが立っている上にPac-12の財産分割などでも多数派を形成して有利。逃げ遅れた2校は身の振り方すら決まっていないのに貰えるはずだった脱退金もチャラにされてしまいかねない危機。以前にもちょっと指摘したPac-12 Networkというカンファレンス手持ちのTV局の権利も脱退予定校が勝手に解体してしまいかねない。

移籍する学校のうち遠距離カンファレンスに加わった4校(Big TenへUCLAとUSC、ACCへCalとStanford)にも悩みはあるわけですが、それはたかだか各スポーツのスケジュール・移動の都合とそれに伴う学生リクルートでの不利ぐらいです。すってんてんになろうかというWashington State/Oregon Stateとは切迫感が違う。


カンファレンス再編の動きは全てフットボールが理由です。巨大なマネーマシンであるカレッジフットボールの稼ぎ出すお金で各校はスポーツ部全体を運営しています。他の競技の都合は二の次三の次。

その肝心のフットボールは週末土曜日が試合のほとんどですし巨大カンファレンスの西の飛び地となった各校は遠征は大陸横断の長距離になるわけですが、Pac-12内で戦っていたときも飛行機で移動していたわけです。Pac-12南のアリゾナ州から北西部の学校へアウェイに行くのは飛行時間だけで3時間以上かかっていたはず。大陸横断移動となれば4時間5時間のフライトとなりますがその差は大きくない。専用機でノンストップで行くわけですから機内での睡眠時間が2−3時間長くなるぐらい。日帰りでの遠征でしょうから時差もさして問題にならないと想像できます。それもせいぜい年4試合といったところのはず。

問題は週中の試合もあるバスケおよびマイナー競技の方。言われているのは1度の東部遠征で転戦2−3試合を消化する形にするというものです。ただそうなってくると時差の影響もより出るし学業にも影響する。マイナー競技は犠牲になれってことで済む可能性がありますが、バスケはリクルート面で不利が発生するかも。バスケのUCLA男子やStanford女子などは名門と言えますがいびつなスケジュールを嫌う選手もありえます。UCLAバスケの将来の弱体化につながる可能性が否定できません。

フットボールには劣るものの男子バスケは各校ともカネを生む側ですが他の競技のほとんどはフットボールの生む巨大予算の受益者。例えばStanfordの女子バスケのような伝統校でも黒字になったとしても金額はしれている。Pac-12に限らず例をあげれば例の8万人動員のNebraskaの女子バレーボールチームとかLSUの野球などが地元の人気はなぜか高く単体黒字ですがそういうのは例外に属します。それ以下のマイナー競技ではコスト面ではフットボールが稼いできてくれるお金に頼って運営されている。よってマイナー競技にはこの問題に限らず発言権は低い。ないに等しい。


別の話として男子バスケのCBS Sports Classicはどうするんでしょうか。CBS Sports Classicというのは毎年冬休みの時期に行われる中立地での特別試合。参加校はBig TenからOhio State、SECからKentucky、ACCからNorth Carolina、Pac-12のUCLAの4校での固定メンバーで3シーズンをかけて総当りをするという企画です。それが今回の移籍騒動でUCLAとOhio StateがBig Ten所属になってしまったので企画側からするとメンバー校の入れ替えをしないと全米から強豪を集めたという感じにならなくなります。
KentuckyはSECから動く可能性はゼロですがNorth CarolinaはBig Tenの拡大のターゲットと目されることもあった学校です。今回ACCも積極拡大策に舵を切ったのでACCが草刈り場になる可能性は低くなったようにも見えますけれど最悪の場合CBS Sports Classicの参加校4校のうち3校がBig Ten所属となる可能性もなくはなかったってことでそんなことになったらCBS Sports Classicという企画自体が根本的な練り直しを迫られたはずです。
CBS Sports Classicは今の4校のままで2026年まで継続すると昨夏に契約更新してますからそこまではしかたなくそのままでしょうか。

なおCBS Sports Classicが創設時に真似をした元のChampions Classicは参加校4校は今回のカンファレンス再編で影響を受けていません。Duke(ACC)Kentucky(SEC)Kansas(Big XII)Michigan State(Big Ten)とバランスよくこちらはこれからも続いていきそうです。ひょっとしたらMichigan Stateを切ってOhio Stateに乗り換える可能性が弱あるかもぐらい。


さて別の話としてひょっとしたらPac-12崩壊から得が発生するかもという種目があります。ラクロスです。
ACCとBig Tenの西海岸への拡張でラクロスは西進の機会を得たかもしれません。
過去に紹介したことがありますがラクロスという競技は普及が国の東側に極端に偏っています。その過去記事を書いたのは2012年のことでその後はBig Tenでラクロスが正式種目として採用されたりと10年以上前からは勢力圏を広げていたわけですが。それが今回のカンファレンス再編でBig Ten所属となった西のUSCやUCLAがD-Iラクロス部の設立に動く可能性が出てきたと思います。Big Tenには男女ともラクロスが正式種目として成立しLos Angelesの2校が加わったことではからずも一気にDivision Iラクロスが西海岸に到達したことになります。
同様にACCにもラクロスが強いDukeやSyracuseがいるのでCalやStanfordも参入がありそう。カンファレンス再編ではラクロスや他のマイナー競技に発言権があったわけもないんですが結果的にラクロスという競技のアメリカ大陸西進というテーマが勝手に進展したことになります。