しばしば指摘していますがアメリカ人のビッグマンの質が欧州各国と比較して悪いです。今回のバスケットボールW杯でも露呈する場面がありました。リバウンドで良いように取られたり、相手のビッグの外からのシュートに手を焼いたり。この問題は米代表メンバーにベストメンバーが揃う五輪でも同じことで過去4大会ぐらいずっとそうです。来年のパリ五輪でも同じ傾向となることが懸念されます。

今回のW杯のロースターだとセンター登録なのはMilwarukee Bucksの Bobby PortisとUtah JazzのWalker Kessler22歳。7 feetのKesslerの今後成長に期待しての今回の代表登用かなという感じはします。Jazzでのルーキーシーズンは74試合に出場、40試合で先発。Portisはガッツ溢れる好選手ですが彼がNBAで好選手のようにプレーできるのはチームメイトのGiannis Antetokounmpoが相手のマークを全部引き受けてくれているからでPortisがソロでガツガツ貢献できるタイプなわけではない。

今回出場していなくてパリ五輪なら出そうとなると東京五輪にも出たMiami Heatの柱石Bam Adebayoであるとか五輪初登場になるIndiana PacersのMyles Turnerが米国人選手センターとしては最良の選択ということになります。2人とも良い選手です。良い日の彼らの試合ぶりはほれぼれするところがあります。ただ2人とも相手のインサイドを圧力でぶち破ってというタイプではない。欧州のサイズのあるビッグに対応されるとBamなんかは腕の長さも違うのか途端に苦しい試合っぷりになるのはNBAでも五輪でも見ました。センターだけでなくてパワーフォワードでもサイズで欧州各国で見劣りするのでミスマッチも作りにくい。

というわけで来年もフロントコートで苦戦しながらシュート・攻め手の手数で勝っていくしかなくなるのかなと思っていたのですが、実は隠し玉があるようです。Philedelphia 76ersのJoel Embiidが昨年秋に帰化して米国籍を獲得しています。なのでEmbiidは米代表に加入してパリ五輪に参戦することが可能です。帰化してバスケ米代表で五輪出場というとTim Duncanがそうでした。Duncanの出場した2004年五輪アテネ大会では米代表は銅メダルに終わっており失敗五輪として記憶されている悲しい大会でしたが。

でEmbiidは米代表入りする気があるのかというとこれが実は少々怪しい。米国籍を取得する数ヶ月前の昨年夏にEmbiidはフランス国籍も獲得しています。ということはフランス国籍と米国籍の取得の作業は平行して行っていたってことですね。出生時のカメルーン国籍と併せて三重国籍ということになります。米国にもフランスにも重国籍者はいくらでもいるのでそれ自体は珍しいことではないです。

問題は優勝最短距離であろう本命の米代表に加入するか、パリ五輪地元のフランス代表としてプレーするか。地元開催のフランスにとっては国威発揚の大きな機会。表には出ていないですが双方の代表関係者から猛烈な勧誘を受けているであろうことは想像ができます。
重国籍選手の国同士の引っ張り合いは他競技でもあること。サッカーだと一度一つの国のシニア代表になっていると後に国を変えられないというルールなのでその選択が重大問題になるわけです。他の競技ではそのルールがなくて所属変更が柔軟なものもありますがバスケの統括団体であるFIBAのルールでは17歳を過ぎての代表活動後は別の国には所属を変えられないというもののようです。
Embiidの場合カメルーン代表での活動歴はなく米国でもフランスでも代表入りできます。

Embiidは現在29歳、パリ五輪の時期には既に30歳になっている。その次の2028年ロス五輪では34歳になってる勘定。どうするんでしょう。所属国を変えられるスポーツだったらパリは仏代表で地元の喝采を浴び、ロス大会は米代表とホーム大会を二度なんてことも可能ですがFIBAではそれはできないようです。どちらかを選ばないといけない。

この辺はEmbiidの人生設計にもよる面がありそう。ずっと残りの人生もアメリカに住むつもりなら米代表で優勝しておいた方が良いようにも思えます。ただEmbiidはいつまで経ってもあまり英語がうまくならない。カメルーンの公用語は仏語と英語なってますからEmbiidは仏語の方が得意で気楽なのかもしれない。NBAのキャリアを終えたら仏語圏でのんびりということを考えているとしたらフランス代表としてパリ五輪の英雄になった方が得という考えも浮かびそうです。メンバーを考えてみてもMVPのピークの状態のEmbiidを米代表のメンバーたちが止められない可能性は十分にありそうです。
Embiid加入前から東京五輪では準優勝だったフランスですからEmbiidのワンマンチームでもありません。Rudy Gobertも代表で地元出場するでしょうから剛のEmbiid、柔のGobertを並べられるフランス代表のフロントコートはどこにとっても脅威。BamやMyles Turnerにあと誰をヘルプに呼んでも耐える展開になりそうなのがドラマ的には良い。

パリ五輪の決勝で米代表を蹴散らして歓喜の優勝したEmbiidがその後NBAに戻って悪役(villain)化してしまう可能性はあるか。試合の流れにもよりますがありえないことではないです。それを覚悟でフランス代表を選べるかどうか。

私個人の妄想だとEmbiidが加入した開催国フランスという米代表バスケ史上最大の強敵にNBAのオールスター選手たち精鋭が立ち向かうという絵図は相当に萌えられそうなのでそっちの方が良いなあと。そしてパリでの激闘の第二幕が2028年のロス五輪で再び。今度はこっちの地元で絶対に負けられない戦いだと煽りまくれるなんていうのが一番楽しそうです。そうなっていくためにはEmbiidが悪のラスボスの怪獣レベルで暴れて貰いたいです。