プロレス業界第2位のAEWが先週末に英Wembley Stadiumで行ったビッグマッチ「All In」のPay Per View(PPV)購入数の数字が出てます。168,000件がPPVでの販売数。それに過去のイベントの例から類推される一部の国でのストリーミングからの視聴者数を加えると184,000人以上が視聴したということになるようです。英国現地会場での盛り上がりと比べて渋い数字かなという気がします。

大会場であるWembley Stadiumは盛況で現地動員は81,035人と発表されていました。最初に大箱のWembley Stadiumでの開催が発表されたときにはそんな大スタジアムで大丈夫か埋められるのかと思ったのですが立派な動員を達成してます。一方ざっとあそこに集結した人たちの倍程度がPPVで見たということになります。アメリカを含む全世界であの倍程度しか視聴していないと表現した方がより現実か。

AEWは2019年の設立。過去のPPV販売の最多記録は2021年の「All Out」が215,000件、2022年の「Revolution」が175,000件で過去2位の実績。ストリーミングからの数をカウントするのかどうか次第ですが前年の同団体2位実績のイベントから減ないしは横ばい程度と評価すべきでしょう。伸びているとは絶対に言えない。
これはここ1〜2年のAEWの定時放送の視聴者数の推移とほぼ同じ傾向と言えます。2021年頃には多くの週で110万人を超える視聴者を持っていたのが2023年にはいってからは100万人超は2度だけ、90万人台70万人台の週もありますが概ね80万人台の狭いレンジで推移してます。昨今のスポーツ番組と比較すれば80万人台でも合格な数字でしょうが伸びははっきり止まっている。2年前からはおよそ2割減での安定。
ついでに言うとプロレス放送の視聴者って裾野が狭い。好きな人は好きですがそうでない人には完全にスルーされるし避けられる。同じ80万人でもクセのある層になってしまうので評価が分かれる視聴者数・層ではあります。数字も安定しているしファン層が狭いのも手伝っていつも同じ人が見ている可能性が高そうなのがスポンサー的にはおいしくないかも。

さて2021年から2022年頃はAEWには勢いがあって業界トップのWWEのMonday Night RAWを視聴者数で瞬間的にでも抜ける週があるかもという期待がAEW支持者にはあったかと思います。WWEのMonday Night RAWはその名の通り月曜夜の放送で、毎年9月にNFLシーズンが始まるとMonday Night Footballの真裏の放送となってしまうため毎年その時期は視聴率が2割前後がっくり落ちる。そこをめがけてAEW Dynamite(毎週水曜日放送なのでフットボールシーズンの影響小)が全力でピークを持って行って一週だけでも抜くことができればスポンサー向けやファン向けにWWE超えと大きなアピールとなったはずでした。WWE一強を崩せるかもという期待感が膨らんだはず。しかし老舗WWEはしぶとく結局一度も抜くことができないまま。そして2023年はAEWの方が退潮停滞期に入ったという流れになってます。

AEWの今回の英国でのビッグマッチが8月末に企画されたのもきっと昨年と同じくNFLシーズン開幕=Monday Night RAWの年間でWWEが一番弱い時期に挑戦する意図もあってその時期にしたんじゃないかと思うんですがいかんせん前年前々年までと違って米国側で視聴率競争を挑めるような状況ではない。最近はRAWとAEW Dynamiteはほぼダブルスコアの視聴率の差になってますからここからRAWがNFLシーズン開幕で2割落としてさらにAll Inからの波及効果ブーストがあっても迫ることはできない差に見えます。そして今回発表されたAll InのPPV数も伸びていないので波及効果は限定的になることが予想できます。


AEWの停滞の理由はいろいろ指摘できます。2022年まではWWEが自陣営のリストラを敢行、大量解雇したレスラーがAEWに移籍。それがAEWの勢力拡大に見えた時期がありました。WWEから放出された選手の大半はAEWが収容したんですけどあとから眺めてみるとWWE側のリストラ選別の目は正しかったのだろうと思えます。AEW移籍デビューを大ニュースのようにAEWファンは歓迎していましたけれど結局のところ移籍そのものが最大のイベントでその後は尻すぼみの展開がほとんど。落ち着いた今から眺めればWWEの選別で落とされた選手ばかりを大量に抱えた状態になってしまってます。深読みすればWWEに抱えさせられた状態とすら言えそう。

先週亡くなったBray Wyattも一時点でフリーエージェントだったんですがAEWは獲得できませんでした。ちなみに先週末のAll InでBray Wyattの定番小道具だったランターンを入場のときに持ち込んでいるシーンがありました。他団体選手からの追悼の表現だったと思います。
他のフリーエージェントの大物では女子のSasha BanksもAEW入りを渋っていてAEWは獲得に至っていない。今もフリーランスのまま。この夏前から英国出身のDrew McIntyreがWWEとの契約更改がうまく進んでおらずTVマッチへの登場が激減。AEWの引き抜きと出身地元英国のシンボル的会場であるWembley Stadiumでのビッグマッチにサプライズ登場という可能性が考えられました。しかし結局はそれも実現せずWWEと契約更新。SashaやBrayがAEWに加入していたらもう少し状況は異なっていたかもなぁと思いますがどういう事情だかそうなっていない。McIntyreの引き抜き失敗も含めなにかAEW加入を躊躇させる裏事情がありそうです。

一方AEWの創始者だったCody RhodesがAEWから離脱、American NightmareのままWWEでベビーフェイス復帰で成功している。タマ数ではWWEからAEWに行った選手の方がずっと多いけれどCody一人だけがAEWからWWE移籍しただけでWWEの方が得をしてるように見えます。CodyはAEWの創始者なのに明確なストーリー上の理由もなくAEWファンから意味不明なブーイングを食っていたりよくわからないAEW離脱経過だったように見えました。あれってCodyの奥さんが黒人女性だからだったんですかね。それとも夫婦で仲良くリアリティTV番組に出ていたのがチャラいとコアなAEWファンからみなされたか。
Codyは最近制作された「American Nightmare - Becoming Cody Rhodes」という本人が半生を語りまくるドキュメンタリー番組でもAEW離脱についてだけは「それについては話せない」ときっぱり断っていました。他の話題はたっぷり語っていたのでその拒否が目立ってました。


AEWは資金のバックがNFL Jacksonville Jaguarsのオーナー家から出ていて資金は潤沢。よって過去のプロレス新興団体のように資金切れで息切れすることは近い将来はないはず。AEWの代表はJaguarsのオーナーの息子Tony Khanでありまだ40歳と若い。Tonyはプロレスオタクだったそうで、その昔Ted Turnerが率いたWCWが退潮になったらあっさりWWEの軍門に下ったような早急な精算での幕引きはまだしばらくはないはず。あるとすればJaguarsのオーナーであり父親であるShahid Khan73歳が退任してTonyがJaguarsの経営を引き継ぐなどでAEWへの熱意や時間が失われたときでしょうか。

資金は潤沢とは言え業界トップから離された万年2位が固定してしまった場合にAEWにつぎ込むエネルギーや資金がどう経営判断されるかはわからない。
今回のAll Inでの英国での成功は今後の展開への期待感をつなぐ成功とは言えるのでしょう。特に海外展開でしょうか。Khan家はパキスタン系。イスラムには親和性はあるということになるので昨今目立つ中東からのスポーツ産業への投資呼び込みや進出という展開もあるのかないのか。ただあの中東マネーってはっきりと一流好みですからマイナー臭がついてしまうとつきあってくれなくなるかもしれないというおそれはあります。マイナー臭がつかないようにAEWをどう迅速に展開発展できるものか。WWEをサウジ資本が買収しようとして失敗したという顛末もあったので方向を変えてAEWを買収、資金投入でWWEから大量の大物引き抜きというようなことがあるのかどうか。そこまでやろうと思うほどの投資の魅力をAEWが出せるかどうか。