MLBがダブルフックと呼ばれる新ルールの採用を考えているとされます。現在委託した独立マイナーリーグで同ルールを先行試行中です。概要は先発投手が5イニングを投げきらないとそのチームはDHを利用できなくなるというルール。先発投手のオープナー起用を禁ずるためのルール変更だと理解しています。以下に論じる通り他の意図もあるかもしれません。


このダブルフックルールの問題点をあげると、オープナー起用はルールを変えてまで廃するべきプレーなのか、それを廃することでどういうメリットがあるのかが良くわからないことがまずひとつ。オープナーがダメとしても5イニングという区切りに妥当性はあるのか。長く投げさせるつもりの先発投手が早めにKOされて降板したチームが試合途中にDHを失い攻撃力を減ずることになり追い上げて逆転をする可能性を損なうのではないのか。それで試合はおもしろくなるのか。ゲームバランスは意図した方向に動くのか。というか意図する方向性は明確にあるのかもよくわかりません。

現行のMLBの一軍ベンチの人数構成では予備の先発投手は持てない。MLBの連戦地獄は投手ローテ泣かせで、よって各チームでブルペンデーというのが発生しているわけです。通常ブルペンの投手を先発させていけるところまで行かせる試合のことですが、もしダブルフックルールがあったらその日はもう試合が始まる前からDHを試合前半で失うことを覚悟での試合にならざるを得ないです。各チームの強打者であろうDHが5回以前の試合途中で試合からの離脱を余儀なくされるというのはファンサービスになるのか。試合はおもしろくなるのか。最初からその選手が試合前半で消えることを想定してDHにイマイチの打者を入れておくべきなのか。もっと極端に言えばブルペンデーやオープナー起用の日は良い打者をムダに失わないために前日の先発投手でも最初からDHに入れておくっていうことすら考えられそうです。

こういう問題点は特別な強打者がいるわけでもないであろう独立リーグでテストしたからといって明らかになっていかないのではないのかということも気になります。Shohei OhtaniだとかJ.D. Martinezといった実績のあるDH専門の強打者が毎試合自軍の先発投手の炎上で試合から強制撤退される危機にさらされるということでもあります。チーム内でDHが持ち回りになっているチームもありますがいずれにせよ強打が期待できる優秀な打者が先発投手の炎上で出場を制限される可能性に毎試合晒されることになることには変わりないです。

ダブルフックが標的の一つにしていると思われるオープナーという起用法の是非ですが、総論としてはこういう創意工夫を「以前までと違うから」というだけの理由で摘むのは反対したいのがまず第一。
野球には先発投手が5イニングを投げきらないと先発投手には勝敗は付かないという記録上のルールがいまも存在します。よって5回途中で炎上しそうになっても温情で続投させてさらに事態が悪化したり、または勝ち投手の権利を目前に降板させられた投手が不機嫌になったりというようなことが野球では過去長く繰り返されてきました。もしダブルフックが採用されたら炎上していてもDHの選手の出場を確保するためにムリに5回終了まで投手を下げないなんていう事態が新たに発生しそうです。

当ブログでは勝利投手の権利の5イニングというのが既に実態に合っていないのではないかということを何度か論じてきています。勝利投手の規定を変えるべきではないかと。
過去蓄積されてきたデータからすれば打順3巡目と対すると投手の防御率や被打率は大きく下がる。よって3巡目が始まる前に投手は変えてしまったほうが良いという戦術はあってよいわけですが、現実的には多くの場合5イニングを投げ終わる前に3巡目は始まる。ダブルフックを採用することでデータに基づいた早めの継投をさせないようにしたいってことでしょうか。それは勝ち投手の権利の5イニングという規定も絶対変えないぞという意味にもとれそうです。
データ的には正しくなくても、先発投手の調子が悪くて投球数が嵩んでもDHを失うわけにはいかないから続投させざるを得ない。ということはダブルフックが標的にしているのはオープナーだけではなく打順3巡目以降をブルペンに任せさせないことで攻撃側が先発投手を打ち込む機会を演出しようとしてるってことですかね。

以上は意図して先発投手を下ろす話でしたが、そういう意図はなくても初回にボコボコに打たれて降板する投手がいたらそのチームのDHの選手は1打席も出場できないままで試合から外れてしまうってことですよね。(運用の詳細は不明ですが)後攻側だったら1回表に先発投手がKO、1回裏にいきなりDHの打順で急遽リリーフに立った二番手投手が打席へってことになりえます。DHの打順が前の方だとすぐ緊急登板の二番手投手の打順が回ってきます。二番手投手に1回裏から代打を出す(=2回表に早くも三番手投手投入)わけにもいかず試合を通して上位打線が寸断ってことになることも想像できます。そして先発DHだった選手はそのまま今日の試合には1打席も出場できない? 1回とか2回での先発投手KOは多くないにしても、5回もたずということはけっこうな頻度で発生しうると思うんですが。


とここまでこの項を下書きしていたところにまさにダブルフックが試合の流れ・采配に影響しそうな試合がありました。6月14日のAtlanta Braves@Detroit Tigersのダブルヘッダー第1試合。この試合はBravesの方が現在奪三振でMLBトップを快走中のSpencer Striderが先発する試合で、Striderの投球が見たくて見ていました。
この日のStriderは序盤から外野に次々とフライをあげられ空振りがとれない。初回に1本、2回に2本のホームランを被弾してAtlantaが0-4とリードされる展開。その後3回4回は抑えたのですが5回にまたもピンチ。投球数は100球に近づく。Tigersは満塁で攻める。満塁から暴投でさらに失点。結果的には計5失点(その時点でBravesが7-5でリード)でなんとか5イニングを投げきったのですが、もしこれでダブルフックルールがあったらあそこでもう一本Tigersの側にタイムリーヒットやホームランが出ても球数が100球を超えてもStriderを変えられなかったかもなあと見ていて考えさせられました。ダブルフックルールのせいでここでAtlantaのエース、それだけでなく今季のMLBを代表する投手であるStriderを潰すような試合になってしまいかねませんでした。それともこれこそがダブルフックルール採用の意図する展開なんでしょうか。
Striderは5回終了時で降板、94球自責点5奪三振6ながら7勝目をあげています。



余談です。ところでDetroit Tigersのホームランセレブレーションは同市内のNHLチームの Detroit Red Wingsの試合用ヘルメットをかぶりホッケースティックを持ってホッケー風動きで祝うものなんですね。この日は大ベテランのMiguel Cabreraが今季1号をStriderから打ってました。Braves側の放送が「今季はCabreraはまだホームランがありません」と言った数秒後にレフトスタンドにぶち込みました。 ちょっと良いものが見られたと得をした気分。Red WingsのヘルメットにはMeijer(大手スーパーマーケットチェーン)のロゴがついていて、これってTigersがタダでMeijerの宣伝してるみたいなもんじゃんと最初は不審に思いました。が、実はTigersのユニフォームの袖についてるロゴもMeijer。TigersもRed WingsもMeijerがスポンサーだからこれでも良いんですね。