女子サッカーのNWSLで噴出したセクハラ等問題が男子MLSにも飛び火する形になって来る可能性が出てきたかもしれません。女子NWSL Portland Thornsおよび男子MLS Portland TImbersのオーナー(正確にはMLSはリーグが全チームを所有しますが)であるMerritt PaulsonがThornsの業務・意思決定から退くことを発表しています。これは前日に公表されたNWSL内においてNWSLでの日常的なセクハラパワハラ行為や体質を問題視する第三者機関による調査結果が発表、それを受けた形でPortland ThornsとChicago Chicago Red Starsのオーナーが自主的に業務から外れると表明しています。

これを日本語にそのまま移し替えるのは少々危うい話です。さまざま報道に接していると日本語のセクハラというのと英語でのsexual harassmentは同じ言葉で違うものを表しているといつも感じていてそれをそのまま同義語のように伝えると意味が違ってしまうことを危惧します。特に言葉を輸入した側である日本がセクハラという言葉をうまく定義しないままでなんでもかんでもセクハラと呼んで放置して茶にしている感じは気になるところです。以下その点を留意の上読んでいただけると幸いです。

約200人の選手関係者から聞き取り調査をしたという元判事による調査結果でNWSL内でのsexual harassmentや言葉による侮辱などが日常的に行われている体質が指摘がされています。このニュースが流れた後に選手たちからは、いままでリーグはなにもしてくれなかった、やっと改善するのかという発言が出てます。
その報告の詳細は公表前に関連各所に配布されたのでしょう、上記のThornsとRed Starsのオーナーが自主的に業務から外れると発表。他にも広がる可能性がありそうです。


つい最近NBAのPhoenix Sunsのオーナーが人種差別的で好悪をあらわにした運営をしたとのことで糾弾され1年間の業務停止をリーグから課され、実質的に1年の猶予期間内にSunsを売却することを余儀なくされたという事例があります。
NBAチームなんていうのはアメスポ業界内でも垂涎の物件。めったに売り物は出ないので現実は放逐でもお金の面ではオーナーは高く売って儲けることはできそうです。Sunsは所属選手との契約状況もChris Paulの巨大契約(年間約$30 million)はあと3シーズン残ってますが、NBAチームの売買の額と比較すれば文字通りのはした金。そういう事情もあってSunsのオーナーの退場はスピード感をもって決着しそうに思えます。


NWSLはNBAとは比べ物にならない小規模なプロ組織です。NBA Sunsならリッチな買い手はいくらでもいるわけですが、NWSLのチームではそうは簡単いかないであろうことは容易に想像できます。
NWSL経営がいくらかでも儲かってるかというとなかなか疑わしい。Portland Thornsはリーグ創設時からNWSLの目玉チームとして優遇されてスタートしたチームで、現在も動員では昨年まで2位以下を2倍以上引き離した状態のトップ。公表されていませんがThornsは単体黒字が達成できている可能性があるとすれば最もその可能性の高いチームでした。

今季2022年は新設されたAngel City FC(Serena Williams始めセレブオーナー多数)が試合平均19,000人近い動員に成功して動員で初めてThornsがトップから滑り落ちてます。それでもThornsは試合平均15,000人以上を集めていますから女子プロサッカーとしては世界でも有数の人気だと言って差し支えないでしょう。
Angel City FCが参入して女子プロサッカーの人気が爆上げのきっかけになるか。なかなかしんどいのではないでしょうか。Angel City FCの初年度動員は刮目すべき新しい動きでしたが、それがNWSL全体の底上げになるかは疑問。Angel City FCやPortland Thornsがプロ興行として利益を生む可能性のある動員の数字を出している反面、平均動員で5,000人に届かず今後も浮上の可能性の薄いチームもいくつもあります。Naomi Osakaが部分オーナーであるNorth Carolina Courageもその域。リーグ全体での利益体質構築までにはまだまだ力不足なのが現状でしょう。Thornsとともにオーナーが業務を退くChicago Red Starsは2022年の動員実績は6,200人。

動員好調のThornsならともかくRed Starsの方は簡単に買い手なんて付くのでしょうか。カネ余りのアメリカですから誰かかれか手を挙げる人はいるのでしょうか。

Thornsの方も売るのは売れるのかもしれませんが、今回の調査で批判を浴びているオーナーのMerritt Paulsonのもう一つの物件=MLS Portland Timbersの経営権への影響も気になります。MLS TimbersとNWSL Thornsは同じスタジアムに同居でこれまで同オーナーだったので一体感のあるマーケティングも行われていたのが分離することでダメージを受ける面もあるかもしれません。

MLSは経営形態としてはMLS自体が1つの会社です。各チームは言ってみれば営業所のようなもので、新規参入する「オーナー」たちは各チームの運営でほぼ全権を振るえますが法律上のオーナーではありません。NWSLの方で経営から徹底しなくてはいけない事態となった「オーナー」の持つPortland Timbersは不問・安泰となるのかどうか不明です。女子選手相手には居丈高だった組織が男子チームとは無問題という理屈はアメリカでは通りにくいように思われ、そうなるとMLSはTimbersに対してなんらかの内部調査をして公表しないと対外的に具合が悪くなるんじゃないでしょうか。その結果によってはNWSLだけでなくMLSの経営権も手放さねばならない事態も想像できそうです。事態を注視です。