前項で男子サッカーMLSの近況を少し書いてみたわけです。ビジネスとしてはリーグ拡張で地盤を米国内各地に広げて好調。2022年には次の放映権契約も決まって向こう8-12年程度の収入の見通しが定まっていくと予想されます。
プロスポーツリーグとしては後発のMLS。全米の大都市には収容5万人以上の規模の大スタジアムが大量に配置されているものの、大きすぎて集客力がそこまでないイベントでは使いづらい面もあった。そこへMLSが各チームに義務付けた収容2万人程度の小スタジアム建設という施策が見事に当たって現在のリーグ拡張ブームにつながってます。

潮目が変わったのはSeattle Soundersが加入した2009年。Seattle参加以来毎年のように加盟が増えて16チームが新規に増加してます。来季から参入のSt. Louisを含めて29チーム(うちカナダ3)構成。アメスポメジャーのNFLが32チーム、MLB30(カナダ1)、NBA30(カナダ1)、NHL32(カナダ7)と総チーム数ではほぼ並ぶネットワークを構築したことになります。4大リーグ以外でアメスポの過去でここまでの拡張を成し遂げたプロチームスポーツはなく、その意味ではメジャーに近い存在にまでMLSは登ってきたことになります。

MLSの創設初期から見ていた私としては感慨深いところがあります。初期の盛り上げ策、しかし踊らないアメリカ市場に失望してオーナーが次々と欠けていってリーグ崩壊が現実問題だった時期を経て、もうよほどのことがない限りさすがに潰れることはないところまで育ちました。
リーグ拡張の引く手もまだ多い。Las Vegasが次の拡張先の筆頭と先日コミッショナーが発言していました。他にもPhoenix、Detroit、Indianapolis、San Diego、Louisville、Sacramentoなどが誘致を展開。フランチャイズ都市数ではメジャーを超えるものになっていく可能性も見えています。

一方TV視聴者数は伸びておらず低位安定。TVを見る人の数が減っているご時世なので減っていないだけでも健闘だという評価もあっても良いですが、他のアメスポジャンル各種と比較してもMLSの視聴者数の弱さはリーグ拡張で成功した時期以降もあまり変わっていない。
複数のメジャー局が定時放送をするTV放映の態勢や全米規模の拡張の成功と足元の状況は大きく改善したのに見てる人の裾野が広がっていないのは変わらなかったわけです。

ここが変わっていかないと上の4大メジャーに加わって5大メジャースポーツと呼ばれるようにはなりにくい。何をもってメジャーとするかは定義次第の面があって、4大メジャーと呼ばれる場合でも第4位のNHLは明らかに上3つからは離されているのでNFL/MLB/NBAがメジャーという括りもありえないことはないのですが、ここでは良く言われる4大メジャーという概念でNHLもメジャー側に入れておきましょう。

MLSがメジャー側にカテゴライズされるためには4大メジャー最下位のNHLに近いビジネス規模を達成する必要があります。上で見てきた通りチーム数や都市数では既に追いついている。野外スタジアムでの開催なので1試合当たりの観客の収容平均ならばインドアのNHLを既に上回っています。これは4万人5万人という段違いの動員力を誇るSeattle SoundersとAtlanta United FCのNFLスタジアムでの試合開催が平均の数字に入ることでの数字のマジックではあるのですが。

しかしリーグの総売上だとMLSはNHLの4分の1程度。新規参入権販売で新チーム加入ごとに$100 millionだ$200 millionだのの収入はあって最近のMLSは潤っていますが、それは臨時収入。いつまでも入ってくるカネではない。ありえない仮定として今MLSの拡張先候補になっている5−6都市がそれぞれ$200-300 millionを払って今年参入したとしてもMLSの収入はNHLに及ばない。それぐらい大きな差がNHLとMLSのビジネスの間にはあるのです。
ちなみにMLSの総売上は日本のNPBとほぼ同じ規模になっています。12チームのNPBと来季から29チーム態勢となるMLS。試合数もまったく違うので比較して云々はないですが参考までに。

この先MLSが収入を倍増3倍増してNHLの規模に迫れる可能性、メジャー側に括ってもらえるようになる可能性ってあるんでしょうか。各地での拡張拡販で足元を固めているのは良いとしてもそれは全体として収入を倍増するような大規模な規模拡大は望めない。

参入権販売や2023年以降に見込まれる放映権料の増加で入ってきたカネをどう使うのかが一つのポイントでしょうか。今はまだMLSは人材を欧州サッカーに売るフィーダー側ですが、どこかの時点で買い手に回って勝負に行けるのか。
しかしそれは難しい。欧州のサッカーの人気の基盤にはアメリカサッカーの人気のレベルは遠く及ばない。MessiのMLS移籍ぐらいならあり得ないことではないですが、一人スーパースターが来たって大きな目で見て事態はほとんどかわらないのは過去Beckham、Rooney、IbrahimovicなどのMLS在籍時にも証明済みです。

遠い過去から当ブログではMLSがNHLに迫れる可能性やメジャースポーツのステータスに到達できる可能性について論じてきました(リンク記事は13年前のもの)。10年20年で上のNFL/MLB/NBAに迫れる可能性はまったくないが、NHL相手ならあるかもという議論をしていた時期から13年が過ぎて今ふりかってみると、NHL-MLS間の差は期待ほど詰まらなかったと言えそうです。

MLSは過去10年15年成長しましたがNHLもその上も皆成長していて差が詰まらなかった。MLSに期待したサッカー国からの移民ファンの取り込みは、Liga MXやEPLにごっそりパイを取られて成功しませんでした。
13年前にはNHLは成長が鈍化、下手をするとリーグ縮小もあるのではないかと当時想像したのが、新チームの創設に成功してメジャー唯一のリーグ拡張政策を成功させています。アメスポ序列第4位のNHLが成長しているのでメジャーカテゴリの水準が上がっており、MLSも成長はしているもののNHLとの差、メジャー入りへのギャップは大きなままとなってます。

2026年のW杯開催までもうすぐ。これを過ぎると男子サッカーの一般への露出と興味を大きく上げるイベントはもう何十年単位でなさそうです。さいわい男子米代表の現時点でのメンバーは過去最高の才能を多数揃えてきているのでインパクトの出せる結果を期待したいところですが、そのインパクトがあったときにMLSはその風に乗れるかどうか。たぶんそこがMLSがメジャースポーツと認知されるか永年準メジャーにとどまることになるのかの分かれ目になりそうです。


なおこの記事を書くに当たって過去のMLSの成長に関する自分の書いた記事をいくつも読みました。放映権料参入権販売価格など隔世の感のある数字が並んでいてとてもおもしろかったです。