コメント欄で教えていただいた情報をもとに整理しなおしてみました。NBA Brooklyn Netsのオーナーであり、アリババの創始者であるビリオネアのJoseph Tsai氏が室内プロラクロスリーグのNLLの新チームを他のスポーツセレブと共同出資で創設した件です。

当初取り上げたのはNLLのLas Vegasにできる新チームのオーナーにTsai氏を含むグループがなったという話だったわけですが、実はTsai氏はそれ以前に同じNLLのSan Diego Sealsも保有していたと。よってTsai氏にとってはNLLの2チーム目の保有となるわけです。
このLas Vegasの新チームも含めて2022年シーズンにはNLLは15チーム態勢になるようです。うちカナダに5チームが所在。同じオーナーによるNLLの複数チームの保有は他にも前例があり珍しくない模様です。メジャースポーツでは複数チームの所有は禁じられますが、マイナースポーツではしばしばあることです。サッカーのMLSなども零細の頃は1つのオーナー企業が最大5チームだったかな、リーグの半分を所有するといういびつな形で支えてリーグの崩壊を免れていたことがあります。

Tsai氏はYale大在学中にラクロスをプレーしていたそうで、どうも儲けるためというより、ラクロス愛からの支援的な資金注入という理解の方が正しいのかもしれません。調べたところ1チーム目のSan Diego Sealsで参入したときにTsai氏が払った金額というのが$5 millionだったとか。米国内で露出が高いとは言い難いNLLへの参入の金額としては随分高い気がします。

なぜ投資先の都市がSan Diegoなのかなという疑問を最初に感じたのですが、その謎は他の方面からとけました。これもコメント欄で教えていただいたのですが、Tsai氏の娘さんがStanford大でラクロス選手として活動しているのですが、そのプロフィールで彼女の出身地がLa Jolla, CAとなっています。San Diegoの郊外です。ということはTsai氏家族のメインの居住地がSan Diego方面ににあるってことですね。

その昔、MLB New York YankeesのAAAの系列チームが中西部のオハイオ州、Columbus Clippersでした。今では系列の改変が行われ、Yankeesの系列チームはもっと東海岸に近いところおよびキャンプ地のTampaに配置されています。Columbus Clippersは現在は同州内のCleveland Indiansの系列です。

ではなぜ飛び地のColumbusがYankeesのAAAだったかというと、以前のオーナーだったGeorge Steinbrenner及び妻がオハイオの出身で、その親族もその方面に住んでいたからと説明されます。つまりColumbusにYankeesのマイナー組織があることで、Steinbrenner夫妻はYankeesのカネで同地に居住地を確保できるしプライベートジェットで老母や親類を訪れても経費をビジネスで落とせるからという説明だったと理解してます。ClippersがYankees系列から外れたのが2006年。Steinbrenner氏が亡くなったのが2010年、80歳。だいたい辻褄はあいそうな説明かと思います。

その前例からするとTsai氏がSan Diego Sealsを所有することで私用でのSan Diegoへの東海岸から北米横断のプライベートジェットの頻繁な運用も経費で落とせるなどのメリットが想像できそうです。


反面Tsai氏のNLLへの関与がラクロスの一般スポーツファンへの露出という目的もあったとするとSan Diego Seals取得のケースはあまり成功したとは言えないかにも思えます。私は自分で言うのもなんですが、一般のスポーツファンよりはずっとマイナースポーツのニュースに目を通す方であると思います。でもTsai氏がNLL San Diego Sealsを所有していたことは知りませんでした。今回もう一つのLas Vegasチームの設立にWayne GretzkyやらDustin Johnsonやらという名前が目立ってスポーツニュースネタとなったわけです。San Diego Sealsのときにはそんなことはありませんでした。いくら世界有数のお金持ちでもNetsのオーナーTsai氏がマイナースポーツチームを買っただけではニュースバリューに欠けたということです。NLL、ひいてはプロラクロスの露出に貢献するという意味ならNHL Gretzkey, PGA Dustin Johnson, Nets/元SunsのSteve Nashという広めの人選は目的に沿っていると言えそうです。実際にその人選ゆえにスポーツマスメディアでも報じられることになったわけですから。


そういうラクロス全体の露出ということが金銭的な見返り以上にTsai氏の念頭にあるのならば、少し前に当ブログでも紹介した女子スポーツの総合団体を目指しているAthletes UnlimitedなどはTsai氏の次の投資先としてフィットしている可能性があります。
Athletes Unlimitedは6人制バレーボール、変則の独自ルールの屋外ラクロス、そしてソフトボールと当面3種目で活動を展開。ラクロスに関しては気になる独自ルールのことを続編で書こうかなあと思いつつ書いていなかったので、この機会に書いてしまいます。

Athletes Unlimited Lacrosse(AUL)が予定している女子ラクロスは各チーム9人制と公式ページに紹介されています。通常の女子のラクロスルールでは2019年以降は各チーム10人になっていると理解してます。
それとは別にラクロスの統括団体がラクロスの五輪競技採用を目指して新規に制定したルール、Lacrosse Sixesが発表されており、それは6人制。なぜAULが独自の9人制なのかは存じません。せっかくLacrosse Sixesが発表されているのですからタイアップしてAULも6人制にしてしまえば良いような気もしますが、とりあえずそうはなっていない。きっとAULは零細なはずですから、Lacrosse Sixesで開催するならとどこかから資金提供オファーがあったらあっさり変わりそうな気はします。
そのどこかから、がTsai氏である可能性はあっても不思議じゃないかもなというのが私の連想ですが、どんなもんでしょうか。
少なくともAULの独自の9人制ルールというのは意味不明。通常の10人から1人しか人員削減になってないからコストカット効果も僅かだと思われます。そこまでして独自ルールにするメリットがよくわからない。Lacrosse Sixesの実施団体になった方がいろいろ良いことがありそうな気がします。

話がちょっと飛びましたが、そんなことを考えさせられたTsai氏のラクロス普及活動・投資という話でした。