MLBと選手協会が今年のドラフトの大幅縮小に合意しています。時期をこれまでの6月から7月にずらすことと、指名回数を5巡目まで(最大10巡という報道もあります)、別途の国際ドラフトは来年1月とするのが骨子です。2021年ドラフトは20巡とか。

これまでは大量40巡目まで指名していたのを大きく限ることで球団側は新人獲得のコストを削減、マイナー組織の流動性確保、選手会側はその見返りとして2020年シーズンが消滅した場合でもサラリーの多くの部分を確保するとともに、2020年シーズンをプレーしたのと同じタイミングでFAの権利が発生することの確認を得ています。これで不透明だった変則2020年シーズン後にFAとなる予定だった大物選手たちの身分事情が確定という、双方のメリットがあるので成立した労使合意です。

これは実は法律上は問題があります。MLB選手会がドラフトでの指名枠の削除で犠牲にしたのは現在選手会会員ではないアマチュア選手の権利で、その他人の権利を侵害するひきかえで現役選手の利益を得た、という理屈になるからです。
同種の問題として各プロスポーツリーグの労使合意でしばしばルーキーのサラリー額を低く抑える合意がなされます。今回のMLBの合意と同じパターンでアマチュア選手の権利を不法に侵害している合意がなされているという批判があり、これが横行すると将来大型の集団訴訟の可能性もないことはない、と言えるわけです。
特に今回は影響を受ける人数が多い。ざっと考えても30球団 x 35巡 = 1050の指名権がこの時点で急に消滅。補償ドラフト権などもあるので1100人前後のドラフト指名期待組が突然その機会を奪われたことになります。人数が多いだけに集団訴訟の危険もアップ、と言えるわけです。

もちろんドラフトが消滅しても各球団は未指名の選手たちと個別に交渉して獲得はするのでしょうが、その交渉過程が複雑化するのは避けられず、雇う側にかなり有利にことが進むのは目に見えています。契約金や契約期間の交渉で選手側が粘れなくなるのは確実だからです。球団側からすれば毎年6巡目以降の人材のうち30数人しか交渉相手がいなかったのが1000人に増えるからです。


MLB側から見ると昨年来顕在化してきているマイナー組織のスリム化という経営目標(らしい)とも合致するのですが、本当に長い目で見て正しい判断なのかはよく見えないところがあります。全米のどこにでもあるマイナーベースボールチームの試合を観戦する経験はアメリカ人の旺盛なスポーツ観戦習慣の根っこの部分で、その根っこを細らせる施策だからです。
確かに時代は変わってきていて子供の夏休みの楽しみは多様化しており、昔ほど野球観戦経験が占める割合は大きくなくなってきていますが、だからと言ってマイナーベースボールをスリム化させてしまって長い目で見て本当にメジャーの人気は大丈夫なのでしょうか。

今年の特殊事情に限ればマイナーベースボール興行が一切開催できない可能性もあり、余計な人材の追加は今年は要らない、興行再開の目処が立ってから、それこそ来年にまとめて獲っても良いという柔軟性が発生するので経営者としてはありがたいでしょうが、ちゅうぶらりんにされる選手の側は大変です。
その今年の特殊事情が将来のマイナーベースボールの先細りとセットにして急に決まってしまったのは将来に禍根を残す可能性はないとは言えないと思います。その影響が数字でわかるようになるのはずっと先のことになるでしょうが。