サッカー米女子代表の人気について以前に書きました。その動員力は男子代表にひけをとらない。直近の対オーストラリア戦で17,264人、対ベルギー戦20,941人でともに満員となってます。そしてその特殊な支持層はアメスポ内でも特筆するべきものです。
アメリカ市場で女子サッカーが人気かという質問は愚に近いです。人気があります。正確を期せばサッカー女子米代表チームは人気でしょう。男子代表にもひけをとらない、または上回る。その人気があるので「アメリカでは女子サッカーが人気」という文は真実です。
代表の人気は女子の方が1990年代に先行して、あとからやっと男子が動員力で追いついたかという形でしたが、一昨年のW杯進出失敗でまた男女逆転という感じです。この夏の女子W杯の結果や内容次第では女子がまた上へいくかも。TVコマーシャルを見ても女子の代表選手は何人も見かけますが、男子は既に引退したLandon DonovanやClint Dempsey以降たぶん誰も大手のCMには出ていないはず。
先日の対ベルギー戦のハーフタイムにはアメリカサッカーの一大転機となった1999年女子W杯当時の女子代表選手たちが再集結。当時爆発的人気者になったMia Hamm Graciaparaを含む全選手が紹介されていました。20年前にアメリカのサッカー人気に着火したあの当時の選手たちです。あれ以前のアメリカサッカーって見るコンテンツとしてはホント何もないに近かったもんですが。
これが女子サッカーでもプロリーグのNSWLになるとがっくり支持が落ちます。動員が良いのはPortland Thornsが突出して試合平均18,000人を動員しますが他は3,000-5,000人という動員規模のところがほとんど。その経緯はNSWL結成当時に何度か紹介してありますが、人為的にThornsに人気選手を集めてそこで動員を稼ぐという当初の目論見通りではあります。@Portland Thornsでの試合の様子を撮影しておけばメジャーっぽく見える絵は撮れることになりますが、いかんせん他のチームは苦戦、TV視聴はまったく伸びない。動員の弱いチームは解散移転を余儀なくされている。そんな具合です。
言い方を変えるとNWSLはPortland Thornsに米女子代表の人気を落とし込んで命脈を保っているとも言えます。
Gallup社のスポーツ市場調査結果を見ても自己をサッカーファンと回答する人は常に女性の方が多いです。それらの女性サッカーファンの多くが念頭に置いているのはたぶん圧倒的に米女子代表チームのことであるわけです。サッカーファンの内訳で、例のサッカー狂のヒスパニックを凌ごうかという大きなボリュームがあるのがこの女子代表のファンということになります。
サッカー女子代表の人気はその大きさもさることながら、ファン層の特殊さに強みがあります。他のスポーツジャンルにはほとんど関心を払わないような若い女性ファンが多い。これは企業からすると大いに意味があります。ジャンルごとの市場調査は購買力を計る意味が強いのであまり18歳以下の人数は重視されないのですが、18歳以下をいれると一択調査のFavorite sportsとしてのサッカーの人気はさらに大変なことになるんですが、その中身はサッカー女子代表だけに興味のある非ヒスパニックの白人のティーンの少女たちが大きな割合を占めます。そういう事実があるのでこの層をターゲットにする商品を売るには女子代表チームという存在は大きな意味があります。他にこの購買層に絞って訴えかけられるスポーツジャンルは存在しないので。
但しこのファン層は中期的にはとても弱いファン層でもあります。現在ファンと自認している10代の女子が20代、さらに30代40代になったときにまだスポーツファンでいてくれるか、サッカーの試合を見るか、というとこれが見なくなっちゃうんですよね。またはスポーツファンとしては残ったとしても家庭を持った時点でパートナーの男性の好みに引きずられて伝統的なアメスポ種目に移行したりもする。この先もサッカーファンでいてくれる可能性はあまり高くないファン層なのです。
そもそもが自己投影できる若い白人選手が大半であるゆえに女子代表を応援しているのであって、別にサッカーという競技を特に愛しているというわけでもない、とさえ言えるかもしれない。近い将来にこの層の関心を取り合う競争相手は他のスポーツや男子サッカーなどではなく、ファッションであったり女性ヒーローをフィーチャーしたアクション映画だったりするのでしょう。昨今のアメリカ映画はその手のものが毎月のように公開されて安定した興行成績を出します。
種目は違いますがさらにもう一例を挙げてサッカーの人気の中身の今後の推移についての示唆を。これは過去に当ブログでも何度か取り上げた話なので以前からの当ブログの読者の方はまたかという話で申し訳ないでんですが一応。
1990年代にバスケNBAが一時的にMLBを人気で抜いた、と称された時期がありました。NBAが世界的スーパースターとなったMichael Jordanを擁し、さらには1992年のバルセロナ五輪のDream Teamで全米を熱狂させてその人気を上げていた時期と、MLBが労働争議でシーズンを消滅させファンの怒りをかって動員を激減させた時期がリンクしたため、その時点の様々な人気指標でNBAがMLBを抜いたのです。これは当時かなりの驚きをもって受け止められました。
その後Jordanは引退、MLBにもスト後数年でファンが戻ってアメスポ序列はMLBが2位、NBAが3位と定位置に元に戻ったのですが、その時期の統計で指摘されていたのが、バスケは若者のファンが圧倒的に多いという事実でした。当時の調査で20−30代の若いファンがMLBよりずっと多かったのです。NFLよりも割合は高かった。当時上り坂のNBAに若いファンが多いという事実はNBAの将来をバラ色に見せたわけです。
でそれから30年。それがどうなったかというと実はあまり事情は変わっていません。いまもNBAはメジャースポーツの中で最も若い年代のファンの割合の多いジャンルです。それはそれで良いのですが、疑問があります。
Jordan時代にNBAに熱狂したはずの当時の20代はいま50歳代に、30代は60代になっているはずなんですが、いまもって50代以上のスポーツファンの数はNBAよりMLBやNFLの方が明確に多い。
あれ?30年前の若いNBAファンというのはどこへ行ってしまったの?という謎になります。1990年代にfavorite sportsをNBAだと答えていた人たちが大量に30年後の現在別の回答をしていないとこういう結果にはなりません。
なぜかはわかりません。年齢が行くとバスケに魅力を感じなくなる?リズムが合わなくなる?家庭を持つとバスケを見なくなる?彼らはいま何を見ている?疑問は多々あれ全体の数字ははっきりしている。当時の若いバスケファンは年齢をとるにしたがって蒸発してしまっています。
NBAの人気は全体としては下がってはいないのでそれ自体はさしたる問題ではないものの、1990年代にいた多くの若いファンを(少なくとも一択回答だと)掴み続けられてはいないかったというのは事実です。どうもジャンルごとのファン層の特性というものがあるようで、NBAのファン層は若い方に寄ったままの年齢配分が今も昔も続いているんですね。Jordan時代のファンの年齢配分を知って、NBAが20年後30年後には上のお金を持ってる世代でもアメスポ界を席巻するという予想を立てた方があればその予想は外れたことになります。
女子サッカーを支持する少女〜20代近辺の女性サッカーファンの厚みにかなり依存しているアメリカの「サッカーファン」の総数は以上の理由でこの先にさらに伸びるかは簡単には見通しにくいということになります。
「サッカー人気の中身」と題しての連載を通じて、女子代表のファンとヒスパニックのファンがアメリカサッカーの二大支持コア層だと指摘してみたわけです。ヒスパニックの方は人口増加が続いているのでそれにのってその層のサッカーファンは増える可能性があります(これも三世以降のアメリカナイズがどう影響していくか次第)が、女子代表ファンが増え続けるかは疑問がかなり残るところでしょう。NBAがそうであったように常に同じ年齢層のファンが残る形になる可能性はかなりありそうです。
「サッカーの人気の中身」シリーズの連載分へのリンクは「ヒスパニック編」「MLS Our Soccer編」「Gallup調査編」「南部の偏見編」、そして今回の分が「女子代表編」です。
アメリカ市場で女子サッカーが人気かという質問は愚に近いです。人気があります。正確を期せばサッカー女子米代表チームは人気でしょう。男子代表にもひけをとらない、または上回る。その人気があるので「アメリカでは女子サッカーが人気」という文は真実です。
代表の人気は女子の方が1990年代に先行して、あとからやっと男子が動員力で追いついたかという形でしたが、一昨年のW杯進出失敗でまた男女逆転という感じです。この夏の女子W杯の結果や内容次第では女子がまた上へいくかも。TVコマーシャルを見ても女子の代表選手は何人も見かけますが、男子は既に引退したLandon DonovanやClint Dempsey以降たぶん誰も大手のCMには出ていないはず。
先日の対ベルギー戦のハーフタイムにはアメリカサッカーの一大転機となった1999年女子W杯当時の女子代表選手たちが再集結。当時爆発的人気者になったMia Hamm Graciaparaを含む全選手が紹介されていました。20年前にアメリカのサッカー人気に着火したあの当時の選手たちです。あれ以前のアメリカサッカーって見るコンテンツとしてはホント何もないに近かったもんですが。
これが女子サッカーでもプロリーグのNSWLになるとがっくり支持が落ちます。動員が良いのはPortland Thornsが突出して試合平均18,000人を動員しますが他は3,000-5,000人という動員規模のところがほとんど。その経緯はNSWL結成当時に何度か紹介してありますが、人為的にThornsに人気選手を集めてそこで動員を稼ぐという当初の目論見通りではあります。@Portland Thornsでの試合の様子を撮影しておけばメジャーっぽく見える絵は撮れることになりますが、いかんせん他のチームは苦戦、TV視聴はまったく伸びない。動員の弱いチームは解散移転を余儀なくされている。そんな具合です。
言い方を変えるとNWSLはPortland Thornsに米女子代表の人気を落とし込んで命脈を保っているとも言えます。
Gallup社のスポーツ市場調査結果を見ても自己をサッカーファンと回答する人は常に女性の方が多いです。それらの女性サッカーファンの多くが念頭に置いているのはたぶん圧倒的に米女子代表チームのことであるわけです。サッカーファンの内訳で、例のサッカー狂のヒスパニックを凌ごうかという大きなボリュームがあるのがこの女子代表のファンということになります。
サッカー女子代表の人気はその大きさもさることながら、ファン層の特殊さに強みがあります。他のスポーツジャンルにはほとんど関心を払わないような若い女性ファンが多い。これは企業からすると大いに意味があります。ジャンルごとの市場調査は購買力を計る意味が強いのであまり18歳以下の人数は重視されないのですが、18歳以下をいれると一択調査のFavorite sportsとしてのサッカーの人気はさらに大変なことになるんですが、その中身はサッカー女子代表だけに興味のある非ヒスパニックの白人のティーンの少女たちが大きな割合を占めます。そういう事実があるのでこの層をターゲットにする商品を売るには女子代表チームという存在は大きな意味があります。他にこの購買層に絞って訴えかけられるスポーツジャンルは存在しないので。
但しこのファン層は中期的にはとても弱いファン層でもあります。現在ファンと自認している10代の女子が20代、さらに30代40代になったときにまだスポーツファンでいてくれるか、サッカーの試合を見るか、というとこれが見なくなっちゃうんですよね。またはスポーツファンとしては残ったとしても家庭を持った時点でパートナーの男性の好みに引きずられて伝統的なアメスポ種目に移行したりもする。この先もサッカーファンでいてくれる可能性はあまり高くないファン層なのです。
そもそもが自己投影できる若い白人選手が大半であるゆえに女子代表を応援しているのであって、別にサッカーという競技を特に愛しているというわけでもない、とさえ言えるかもしれない。近い将来にこの層の関心を取り合う競争相手は他のスポーツや男子サッカーなどではなく、ファッションであったり女性ヒーローをフィーチャーしたアクション映画だったりするのでしょう。昨今のアメリカ映画はその手のものが毎月のように公開されて安定した興行成績を出します。
種目は違いますがさらにもう一例を挙げてサッカーの人気の中身の今後の推移についての示唆を。これは過去に当ブログでも何度か取り上げた話なので以前からの当ブログの読者の方はまたかという話で申し訳ないでんですが一応。
1990年代にバスケNBAが一時的にMLBを人気で抜いた、と称された時期がありました。NBAが世界的スーパースターとなったMichael Jordanを擁し、さらには1992年のバルセロナ五輪のDream Teamで全米を熱狂させてその人気を上げていた時期と、MLBが労働争議でシーズンを消滅させファンの怒りをかって動員を激減させた時期がリンクしたため、その時点の様々な人気指標でNBAがMLBを抜いたのです。これは当時かなりの驚きをもって受け止められました。
その後Jordanは引退、MLBにもスト後数年でファンが戻ってアメスポ序列はMLBが2位、NBAが3位と定位置に元に戻ったのですが、その時期の統計で指摘されていたのが、バスケは若者のファンが圧倒的に多いという事実でした。当時の調査で20−30代の若いファンがMLBよりずっと多かったのです。NFLよりも割合は高かった。当時上り坂のNBAに若いファンが多いという事実はNBAの将来をバラ色に見せたわけです。
でそれから30年。それがどうなったかというと実はあまり事情は変わっていません。いまもNBAはメジャースポーツの中で最も若い年代のファンの割合の多いジャンルです。それはそれで良いのですが、疑問があります。
Jordan時代にNBAに熱狂したはずの当時の20代はいま50歳代に、30代は60代になっているはずなんですが、いまもって50代以上のスポーツファンの数はNBAよりMLBやNFLの方が明確に多い。
あれ?30年前の若いNBAファンというのはどこへ行ってしまったの?という謎になります。1990年代にfavorite sportsをNBAだと答えていた人たちが大量に30年後の現在別の回答をしていないとこういう結果にはなりません。
なぜかはわかりません。年齢が行くとバスケに魅力を感じなくなる?リズムが合わなくなる?家庭を持つとバスケを見なくなる?彼らはいま何を見ている?疑問は多々あれ全体の数字ははっきりしている。当時の若いバスケファンは年齢をとるにしたがって蒸発してしまっています。
NBAの人気は全体としては下がってはいないのでそれ自体はさしたる問題ではないものの、1990年代にいた多くの若いファンを(少なくとも一択回答だと)掴み続けられてはいないかったというのは事実です。どうもジャンルごとのファン層の特性というものがあるようで、NBAのファン層は若い方に寄ったままの年齢配分が今も昔も続いているんですね。Jordan時代のファンの年齢配分を知って、NBAが20年後30年後には上のお金を持ってる世代でもアメスポ界を席巻するという予想を立てた方があればその予想は外れたことになります。
女子サッカーを支持する少女〜20代近辺の女性サッカーファンの厚みにかなり依存しているアメリカの「サッカーファン」の総数は以上の理由でこの先にさらに伸びるかは簡単には見通しにくいということになります。
「サッカー人気の中身」と題しての連載を通じて、女子代表のファンとヒスパニックのファンがアメリカサッカーの二大支持コア層だと指摘してみたわけです。ヒスパニックの方は人口増加が続いているのでそれにのってその層のサッカーファンは増える可能性があります(これも三世以降のアメリカナイズがどう影響していくか次第)が、女子代表ファンが増え続けるかは疑問がかなり残るところでしょう。NBAがそうであったように常に同じ年齢層のファンが残る形になる可能性はかなりありそうです。
「サッカーの人気の中身」シリーズの連載分へのリンクは「ヒスパニック編」「MLS Our Soccer編」「Gallup調査編」「南部の偏見編」、そして今回の分が「女子代表編」です。
女子プロサッカー関係者(経営者や選手、コーチ)からするとこのエンゲージメントの弱さ(短さ?)は悩みどころでしょうが、変にアメスポメジャーと同じ立ち位置を目指さずに、「常に入れ替わり続ける若いファン層。それもひとつのプロスポーツの形」と割り切るのもありなのかもしれませんね。
10代女子の自己投影こそ、まさに「Our Soccer」なのでしょうから。
drbcs
がしました