このテーマは以前にも少し触れたことがあります。アメリカ視点で見た場合、既存のマイナーチームスポーツのうちでラグビー・ラクロス・バレーボールがアメスポの「次のメジャープロスポーツ候補」であろうと推測されているわけです。それぞれに得意エリアがあり、ラグビーはなぜか西で強く、ラクロスは東で強い。バレーボールは女子に強い。裏を返せばそれはそれぞれに弱点でもあります。

アメリカでは1960年代からサッカーが次のメジャースポーツになるのだと喧伝されながらなかなか浮上できずプロ組織も解体再生を経て結局半世紀を経てやっと現在の地位にたどり着いたところ。サッカーは多くの国でほぼ一強のプロスポーツとして米国外で大きな人気もあり、それらの国からの移民流入も多い米国なのにそれでもこれだけの時間がかかりました。
そういうアメスポ市場で、次の種目があるとしたらなにか、というのはおもしろいテーマであろうと思います。アメスポ観戦市場のパイが大きいだけにアメスポ内の比較だとマイナー扱いとしても継続的に存続できる存在になれば利益もかなり期待できます。

先に身も蓋もないことを言うと、それら既存のスポーツよりも21世紀的なテクノロジーと結ばれてこれから新規開発されるスポーツ(疑似スポーツも含む)の方が「次」争いでは期待が持てるような気もしますが、その可能性はこっちへ置いておいて今回は既存の伝統的にスポーツと考えられるジャンルの内での比較ということで。

ラグビー・ラクロス・バレーボールの比較では既にプロ活動が継続的に存在するのがラクロスです。室内ラクロスのNLLが30年、野外フィールドラクロスのMLLが20年ほどの歴史を持ちます。今回のテーマの3種目の中ではもっともプロリーグ化に成功していると言えます。室内NLL(ボックスラクロスとも言います)はインドアプロスポーツでは世界で第3位の動員力を持つ(NHL、NBAに次ぐ)組織であるとNLLの宣伝ではよく主張しています。欧州バスケやホッケーKHLその他よりも多いのだと。

バレーボールはビーチバレーという派生形ではありますがツアー型のプロが存在してきました。他方6人制のプロ化は失敗の連続の歴史です。ラグビーは3つのうちではこの面では最後発。近年になって何度か15人制のプロリーグの立ち上げが早急に試みられていますが、まだ形は整っていません。後述する五輪採用後のラグビーへの注目の受け皿をなんとか早くプロリーグを作りたいということなんでしょうが、なにせ抱える選手数が多くなるのと試合数が少ないのがプロとして採算をあわせる際の大きなネックになります。また別途書いてみたいですがラグビー15人制はEngland PremiershipもSANZAR各国の国内リーグもSuper Rugbyも経済的には潤っているとは言えません。

別の面の比較してみると、この3種目のうちラクロスとバレーボールは男女ともにNCAAの正式種目で、よって多くのメジャー校で奨学金が支給されます。奨学金が出るゆえに高校でもそれらの部活動を持つ学校が多い。この面でもラグビーは選手の取り合い・開発で不利です。
ただNCAAの正式種目でもないのに15人制・7人制ともにカレッジラグビーの全米トーナメントは継続的にTVで放映されて独自にその存在感は増しているという特異な存在感もあります。小規模校で独自にラグビーでスポーツ奨学金を出してカレッジラグビーの盛り上げの一端を担っている学校も存在します。この辺がアメリカっぽいとも言えます。中央組織であるNCAAから正式種目でないと言われても勝手に好きな人達が集まってNCAAの外でちゃんと歴史を刻んでいるわけです。

目を転じて五輪種目かどうかという点だとバレーボールは数少ない五輪で儲けの出るスポーツのひとつとされていて安泰。ラグビーは7人制を前回2016年リオ五輪になって五輪種目化することに成功してこれが良い刺激となってアメリカ国内でのラグビー市場開発を助けています。いつも指摘する通りアメスポファン全般はさほど五輪好きとは言えないと思いますが、それでも五輪に影響力がないわけではない。五輪でもないと届かない層への宣伝にはなるわけです。
この点ではラクロスが最も弱い立場です。2028年のLos Angeles五輪で北米原産スポーツのラクロスが五輪スポーツ化を目指す動きがあるとされますが、その弱点を意識してのことでしょう。100年以上前にラクロスは五輪種目だった歴史があります。アメリカ・カナダの二国が競技実力で圧倒的に突出している状態で五輪スポーツ化したとしてその地位をロス五輪以降も維持できるのか疑問があります。さらにはラクロスの世界で第3勢力の地位にあるイロコイ族のチームは国家単位での出場資格制度をとる五輪への参加は認められない可能性が高く、その面でモメそうです。もしなんらかの特別待遇でイロコイ族の独自チームの出場を許すと他の競技でモメるところが出てくるはずなのでIOCはそういう措置は嫌がることでしょう。イロコイ族が出場できない形でも良いからと五輪採用を推進するとイロコイ族から大きな反発が出そうですが、それは今回のテーマから遠くなるので以上。

こう見てくるとバレーボールが一番その地位が盤石とも言えるのです。米国内で(ビーチですが)プロも存在したし、高校レベルでの参加人口も大きい。五輪スポーツでもありNCAAスポーツでもある。ビーチバレー(サンドバレーという名称になってますが)もNCAA種目化。海外にはプロリーグも存在する。でもそれだけ揃っていてもなぜか米国内でのプロリーグが成功しそうにないのが大いに問題です。全部揃っているだけに今より上へ行く浮上のきっかけがどこにあるのか見えにくいとも言えるのです。上でも触れた通り女子に参加人口が偏っているのも投資家に二の足を踏ませているような。NCAAの女子トーナメントはそうとうに盛り上がるのでそちらで力を蓄えていくしかないのか。

ラグビーは7人制ではありますが五輪種目化で米国内での認知が大きく上昇しました。先日記事を書いた米代表がトップに浮上したWorld Rugby Sevens Series、そこでもし年度優勝したらそれはまた一つ大きな宣伝となるし、2020年の五輪でも米ラグビー代表は優勝候補として大きく取り上げられることになるでしょう。その目新しさゆえに既存のバレーボールやラクロスよりも注目を集める可能性はあるように思えます。
またイメージ的な話ですが、ラグビーセブンス代表の面々のマッチョかつ精悍なイメージはアメスポの一般ファンにアピールしやすいビジュアルと言えます。これはサッカーが長年アメスポ市場開発で苦労した負のイメージ部分である軽く弱そうな身体つきの真逆と言えます。このイメージというのはバカになりません。

ラクロスのロス五輪をテコにした巻き返しはあるのか。上述した通りラクロスはアメリカ東部にその普及が大きく偏っているのが西海岸のLos Angelesでの開催とどうマッチするか。もし競技採用された場合に米国内での西への普及の大きな助けになるのか。観客動員見通しという意味だと苦戦しそうでもありそういう面では不利となりますが、競技採用される可能性があるのかないのか。

表題では単純にラグビー・ラクロス・バレーボールとしましたが、ラグビーには15人制と7人制が、ラクロスには室内ラクロスと野外ラクロスが、バレーボールには6人制とビーチバレーがそれぞれあって、さらに女子もある。それぞれのジャンル内ですら本命の形態が見えにくいのも事態を複雑にしているかと思えます。ラグビー7人制で米代表の躍進が今の今だと目立つわけですけれど、7人制では北米内で完結するプロ興行化の姿はものすごく想像しにくい。その上7人制での躍進はたぶん15人制での地位向上に直結しない。素人目にも同じ名前の別のスポーツに見えるからですし、15人制で強国と勝負になるレベルに上がっていくにはさらに長いプロセスが必要になるであろうからです。

と見ていくと3種目ともアメスポ界の「次」を担うにはまだまだ先は長そうに見えます。そんなこんなをやっている間に後発で開発されたスポーツ・エンタメに抜かれて行く可能性の方が高いかも、という先の懸念の方に戻ってしまいます。