アメスポのエリート養成という話になったときに必ず出てくるのがIMGアカデミーというやつです。公式サイトにリンクをつけておきましたのでざっと見ていただけると良いですが種目としてはかなり多くのものを提供しています。アメスポ王道のフットボール・バスケ・野球、そしてサッカー、ラクロス、テニス、ゴルフ、陸上。全寮制でスポーツ漬けの毎日を送るものでその評判は既にかなり高いと言えます。特にテニス選手養成では老舗でしょう。日本で人気のKei Nishikoriもここを通過しています。公式に教育機関としての学校として成立しており年齢は5歳児から高校最上級生まで。テニスはかなり早熟型のスポーツなのでそうとう年齢の低いころから入る子もいるようです。テニスの場合、IMGを「卒業」するまでいるようではプロとしては芽が出なかったとわけである意味失格でしょうが、その場合でもカレッジにスポーツ奨学生として進む道は閉ざされないとは言えます。これはどの種目でもそうです。全寮制でIMGに入ると子供の頃から親から切り離されて学校生活も同じ場所でスポーツに打ち込む。まさにアメスポ虎の穴というものです。飛び抜けた才能をリクルートしてきて全額アカデミー持ちで養成される場合もありますが、親が熱心で高額寄宿私学に送るような形で子供を送ってくる場合も多いです。その場合の子たちは経済的に余裕のある家庭の子となります。

さて別項のコメント欄でサッカーで同じような低年齢からのエリート養成が展開されている、という話が出ています。確かにテニスとサッカーは十代半ばで世界の最高レベルに入っていくことが可能なスポーツの代表格でもある。その点で類似点があるでしょう。他にはフィギュアスケートとか体操のような身体が小さいこと自体が有利となるものもあります。そういうスポーツの特性があるのでテニスは学校の部活システムの中で選手養成するのは手遅れ。よってIMGのような幼少期から濃いテニス指導を提供するテニススクールが何十年も前からアメリカでは成立してきたわけです。(IMGは他のスポーツにも大きく手を広げましたが) 学校部活というスケジュールに合わない種目は確かにあるのです。ではサッカーはその範疇でしょうか。

少なくとも米サッカー協会はそうだと信じているようでU.S. Soccer Development Academyというのを独自に展開しています。サッカー国のクラブのユース組織に当たる年代の養成が目的です。有り体に言ってMLSだけに任せておいたらなかなかユース組織にお金を投資してくれないので協会が音頭をとって展開しているものと考えると実態に近いと思います。MLSクラブは地元でサッカースクールをやるぐらいのことはできても、広大なアメリカで地理的に離れているので試合をするのもままならない。対外試合をやらせようとすると移動コストが多大になる。MLSは過去ユースどころかプロ契約選手たちの二軍戦もコスト難と称して廃止したぐらい選手開発にお金を出したがらない傾向があったのを、協会が組織化しているものです。現状13-14歳、15-16歳、17-18歳の3ディビジョンを維持しています。理想的にはアスリートとしての好素材を小学校の頃から青田刈りしてサッカーに意識も時間も向けさせて開発していこうというものかと思います。

このアカデミーが将来のアメリカサッカーの星を養成できるのかというと、所属する生徒の数が多いという物量の面でIMGよりは可能性は悪くないのでしょうが、質の方はまあしばらくやってみないとわからないということになります。先日バスケのMcDonald's All American(全国から集めた高校のエリート選手による試合)に出た子たちでもNBAに入れる率は極低いという話をしました。17歳18歳時点で全米の最優秀の20人ほどが選ばれて出るあの試合でも1年後2年後にNBAから声がかかるのは数名です。毎年NBAでは60人がドラフト指名を受けるわけですけれどその大半は最優秀と目された20人以外なわけですよ。17~18歳ということは既にかなりの経験とスキルがあり、多くの競技経験を経てスカウトの目でよりによられた20人ですらNBA選手になれるのは少なく、一流選手になれるのはさらに極々僅かです。なにが言いたいかというと若い選手の中から将来のスーパースターを見抜くのはものすごく難しいということです。17~18歳ですらです。

サッカーの世界の特性上、12~13歳でサッカーエリート養成に行くかどうかを決めるのは良いとして(良くないですが。後述)それが将来のプロレベルの選手であるか、スター選手になるかどうかなんてさっぱりわからないはずです。中学生程度での「有能」なんて育ちの早い子がそう見えるだけでそれが才能かどうか。男子の12歳なんて成長期前の子供です。例えばニューヨーク州(ニューヨーク市じゃないですよ、州の方です。全米第3位の人口を持ち日本の国土の40%の広さのニューヨーク州)にアカデミー参加のチームは4クラブだけあるのです。国土が広いので通える範囲内の子なんてごく僅かですからサッカーの有能な子はすべからくアカデミーに行っていて学校の部活はやらないと想像するのはまず違うよなと思います。上で挙げたバスケの例もそうですが結局のところスカウト漏れした見えないところにも好素材はいるはずで、層の圧倒的な厚さの方がエリート養成よりも大事なんではないか。エリート養成というやり方があるにしても極限られたアカデミー(参加チームは現在79組織)ではどうか。

通えないところの「有能な子」はどうするんでしょうか?そうなるとIMGがやっているような全寮制ということになるんですけど、サッカーのために地元での生活の全てを諦めてサッカー漬けになるような決断をする小中学生の親子がどれほどいるんでしょうか?メジャースポーツのようにメジャーリーグにたどり着けば年収で億円単位が確実なものと違ってサッカーではMLSに昇格できたとしても将来の収入の目処は立たないのわけです。勉強してちゃんと大学出た方が年収は高いかもしれないMLS選手が大半です。つい先日もAlex Morganの夫のサラリーの話をしましたが$5万(ざっと500万円)にも満たない。その上いつプロ選手としての寿命が尽きるかもわからない。公式戦に出場するような選手ですらそんな収入なのです。そういうサッカーにしかつぶしの効かない進路決定をしてしまっては学業での将来もうまく行くと想像するのは難しい。その年齢で人生をサッカーに賭けちゃう決断をしなきゃならないんですけど、その条件で本当に一番良いサッカーの人材を拾えますか?人が集まりますか?
サッカー強国でサッカーのエリート教育が成立するのはエリート選別をする中学生年齢までにその国のほとんどのベストアスリート素材はサッカーを通過して相当量をプレーしているからという大前提があると思うんですよ。そういう大きいザルで掬った中から選んだエリートです。最初から人数を絞ったエリート養成というのは一般論として苦しいと思います。さらにサッカー国ではサッカー選手がもっとも華やかで稼ぎも良い。米国だとベスト素材はまず憬れレベルの序盤でもサッカーに打ち込まないですからそもそもの事情が違うと思います。大きく掬いたくても掬えないというか。


協会主導のアカデミーというやり方が悪いといっていうのではありません。がっちりアメスポに人材確保を固められた現状を打破すべく別ルートを提案して底上げに寄与したいという努力の方向性としては良いと思います。ピーク年齢がアメスポと異なるという観察も正しいと思います。今後の努力は遠い将来に実を結ぶこともあるかと思います。
でもまだアカデミーは始まって8年程度でしかないんですよ。立ち上げが遅いところではまだ「エリート養成」した卒業生も出ていない。各アカデミーの質も相当ばらつきがあるでしょう。どれだけこれからシニアの代表へ人材を送り込めるかはわからない(IMGなら既に実績がありますから投資意欲満々の親子ならそっちを選ぶかも)。サッカー選手がキャリアとして成立するかも見えないのが現状でしょう。まだサッカーという職業が実績もない中、小学生がサッカーが上手いってだけで他の生活を全部放り投げてしまうような熱血サッカー少年とかそれに賛同する親とか、そんなにうまく好素材の子を網羅できるとも思えないんですよね。
なのでコメントいただいた「有能なサッカーの人材は掛け持ちが少ない」というのは事実に反するでしょうし、そもそもが最高人材はサッカーをやっていないという点はアカデミーのあるなしと関係ない話かなあと思います。「部活文化以外のところで、サッカー選手養成のルートを模索している段階」というのが現実に近いかと思います。どうでしょうか。