では予告していたAlex Rodriguezの擁護をしてみたいと思います。まず以前に書いた記事のリンクを張っておきます。このリンク先の記事を書いたのは二ヶ月ほど前で今回処分対象になっている選手達の名前がBiogenesis社からMLBに提供されて、その処分についてのリーク情報(MLB側が意図的にリークしているような気がします)で過去のPED処罰と違う処罰が下される可能性が報道された時期です。
MLBは労使間の取り決めでPED違反者への処罰は三段階と決まっていましたし、いまもその取り決めは有効です。初回違反者は50試合出場停止、二度目は100試合、三度目は追放という三段階です。先日発表された初回違反者はこの取り決め通りに50試合の出場停止が課されたところです。シーズンの残り試合が50試合強なので優勝争いに関わるチームの処罰対象者は即座の出場停止を受け入れを表明していますね。控訴すればその控訴期間中は試合出場はできますが、それをやると強いチームの選手はプレーオフに出場停止がかかる。またプレーオフに出ない選手でも来シーズン冒頭まで出場停止がかかることになり問題を来季まで引き摺ることになるのは決して好ましいことではない。よって50試合出場停止組はほぼ全員が既に即時の処分を受け入れる方向です。MLBはこれを狙ってわざわざこの時期まで出場停止の発表を遅らせた可能性がありますね。
ただ一人事情が違うのがA-Rodです。以前に書いたリンク先の記事当時の話としてはA-Rodに対してはPEDの使用だけでなく捜査妨害を行った云々ということで初回処分を超えた懲罰を与えるという話だったんですが、最終的にMLBが下した処罰がなんと来季2014年シーズン末までの211試合出場停止。二ヶ月前に50+100で二回分の懲罰で150試合出場停止を課すという話でも理屈上おかしいな、という話なのにそれを超えて211試合ときました。これをA-Rod側は不服として徹底抗戦に向かうようです。そして私はそれを支持してみたいと思うのです。
まず一つ押さえておきたいのはこれまでMLBのPED違反使用処分で労使の申し合わせの三段階の処分以外の処分を与えられた例はただ一件だけです。先月先行して処分を受け入れたRyan Braunのケースです。但しBraunの場合は65試合の出場停止処分。初回処分相当に15試合毛が生えた程度です。Braunはご存じの通り既に一度サンプル移送の瑕疵を言い立てて逃げおおせた過去歴もある、言わばすねに傷を持つ身。理屈からいけば50試合の出場停止が相当のはずですが、ごねるよりも15試合余分に処分を受けて話題の中心から逃げた方が得策。それに調整面でももう今年は終戦してしまった方が本人も楽でもあります。チームもとうにプレーオフ戦線から脱落しています。諦めてしまった方がよいという判断は合理的に見えます。よってBraunは協定からはずれる処分を受け入れました。
A-Rodの方はBraunとは異なり、来季も丸一年出場不可の危機ですから必死です。年齢も上がっていますから実質キャリアエンドにつながる話だからでもあります。また高給取りのA-Rodにとっては来年丸一年間のサラリーが消える(PED出場停止期間中のサラリーは支払われません)わけですからその逸失利益を考えれば高額な弁護師団を組織して戦っても経済合理性もありそうです。それ以前に労使協定を理由に今回の処分の不当さを訴えるのは筋が通っているのですから弁護団もこの訴訟はいけると読むように思えます。
ではMLBはなにを考えてこの協定から外れた処分を課してきたのかという点についてはどうでしょうか。また私の推測好きが炸裂するのですが、MLBは最初からA-Rod側が控訴すること、そしてMLB側が敗訴して最終的には50試合または100試合または150試合なりの処罰になるのを読んでいてなおかつこの処分を課したのではないかと思うんですがどうでしょうか。なぜそんなことをするのか?といえばアナウンス効果。A-Rodという大物に稀に見る強い処罰で臨むことでのアンチPEDの宣伝効果を狙ったという可能性です。実際にA-Rod側のアピールで最終的な出場停止が50試合になったとしてもMLB側は強い処罰をもって厳格にこの問題に臨んだのだというアリバイになるから、ということでないのかなと。もし仮にA-Rod側の言い分が通って初回違反なのだから50試合となった場合、今度はMLBは選手会に対して強硬に現行の三段階の処罰基準の協定改定を迫るというシナリオを考えているのではないか。大騒ぎしても結局初回は甘い甘い50試合だけの出場停止なんて!という世論を喚起して一気に労使合意を厳罰化の方向の大幅改訂に持ち込もうというのを狙っているのでは、とまで疑っておきたいです。
そのMLBの遠望の犠牲にされるA-Rodはとばっちりというかお気の毒な役回りになってしまいました。PEDでの抜け駆けは非難されるに値する違反行為ですからそれは処分されるべきですが、MLBのアンチPED宣伝に無理矢理登場させられる、適正手続きを無視したMLBの戦術に翻弄される一選手という意味でこれは擁護してみてもいいのではと思う次第です。