またぞろ話題になってきているMLBのPED違反問題。今回は違反そのものというよりも罰則のあり方と、ムリを承知で強めの罰則を持ってきたMLBの思惑を考えてみます。またそもそもこの制裁が可能となった社会的背景にもふれてみられたらと思います。
今回はAlex Rodriguez、Ryan Braunをはじめとする二十人ほどの選手がフロリダ州BioGenesis社からPEDの供給を受けたかどでMLBのPED禁止違反に問われています。実際の供給はずっと過去のことであります。ものすごく簡略に言えばBioGenesisの責任者がMLBにシメられて洗いざらい吐いてしまい、その結果過去の顧客情報からそれらの選手の違反が露見したということになります。
MLBが責任者をシメた方法というのがアメリカらしいんですが、徹底的に責任者個人を法廷に引きずり出して法廷闘争に晒し多額の損害賠償で個人財産を木っ端みじんにするべく動き、責任者が私財を失うことを恐れてMLBが訴訟を取り下げるのを条件に「完全に」情報提供に応ずるというものでした。つまりこの全面降伏が実現したのはアメリカの訴訟システムの強力さ、さらに敗訴後に資産を全部身ぐるみはがされかねないという恐れがあったからと言えます。日本でもいま政治課題になっている資産の名寄せの効果ですね。日本だったら隠し資産を保有できる余地が多すぎていくらでも隠せてしまいますから。
そんなわけで全面降伏したBioGenesisからの情報を元に違反選手を洗い出してMLBは処罰しようとしているわけですが、特に目新しい名前が挙がっているわけではありません。A-Rod, BraunはMVPクラスの大物ですが、過去20年のMVPでPEDを使っていなかった選手が何人いるのか、と考えればさほどエキサイティングなニュースというわけでもないでしょう。A-Rodの数々の最近の故障もクスリを抜いてしまったのでPEDで作った身体が負荷に耐えきれなくなった故の故障の可能性もあります。過去にもそういう例はいくつかありましたよね。Braunは例のサンプルの手続き問題で一度逃げ切って勝利宣言を高らかにあげているし、今回の疑惑にも完全否定で逃げ切る姿勢を見せているだけに報道としてはBraunがどの時点で陥落するのか、それともMLBの懲罰を受けてもなおかつ潔白路線で突っぱねるのか、そのあたりが見物でしょうか?
もう一つおもしろいのはMLBが例えばA-Rodに今回、通常二度目の違反で課されるはずの100試合の出場停止を与える姿勢だということ。何でも使用で一回、MLBの調査に非協力で二回目?だとかそういう理屈です。これはたぶんムリでA-Rod側からのアピールが出て初回懲罰の50試合出場停止に戻るかと思われます。ムリを承知で二度目の違反を適用しようとしているのはたぶん、これを関連選手たちへの最後通牒にしたいという意図なのだと思われます。つまりPEDに関する労使合意では三度目のPED違反は無期限出場停止なので、一回目の違反だけだとまださらに選手にはPEDを使ってでも現役を延長した方が得という場面が存在するわけです。100試合出場停止でも例えば新三年契約を勝ち取れば儲け、とそろばんがはじけるというわけです。これが二度目の違反を犯した形になるともう苦しい。次は強制引退しかなくなる。どれほどパフォーマンスが落ちようと素で勝負するしかなくなる。または現行の契約を素の身体で低い成績ででも完遂することが経済合理性のある行動となるということです。上げ底を目指せなくなる。
A-Rod個人でいえば年齢も上がってきているし現行のYankeesとの契約満了で引退してもお金も十分稼いだことで問題ないでしょうが、Braunの方はどうなるか。選手としては脂の乗りきった年齢。高らかな勝利宣言の記憶もまだ新しい中、さらに強硬路線か。陥落か。一回目の騒動後、今に至るまでの成績はPEDアリなのか抜きなのか。捉まらない最新PEDでこれからも打ちまくるのか。
RyanBraunは好きな選手だったので、2011年末の騒動でも私は「(限りなく黒だが)白!!」と自分に言い聞かせて彼を応援していました。おそらくマークが厳しくなったはずの2012年でも好成績をおさめてたので、「ほーらお薬なくてもBraunはすごいんだ!!」と思っていました…
が、今回の件はさすがに(´・ω・`)
疑問なのですが、この報告?では「いつからいつまで提供していたor今も提供している」なども言及されているのでしょうか?例えば、Braunに関してで恐縮ですが、「Braunには2011年まで提供していた」と仮定すれば、出場停止処分は今season適用されるのでしょうか?