昨年の五輪での優勝でまた盛り上がったアメリカでの女子サッカーですが、今年から新設される新プロリーグNWSLのシーズンがしばらく前に発表になっています。さんざん花火は上げてみたものの最終的に発表されたシーズン構成やそれぞれのホームスタジアムの状況を見ると2011年で終了した女子プロリーグWPSとほとんど変わらないじゃないか、結局こうか、大丈夫か、という感はぬぐえません。

発表されているところによるとNWSLは4月13日に開幕、8月18日にレギュラーシーズン終了、プレーオフの二週を8月中に終える構成です。昨年の11月段階の発表では3月開幕、シーズンを9月ないしは10月まで続けるという構想だったはずですがいつの間にか縮小されてWPSの当時とほぼ同じで、4月頭のMLB開幕から少し後ろにずらして開幕、フットボールシーズンが始まる前、そして中学高校が夏休みのうちにシーズンを終えるということに。ニッチな立場を考えればこれが結局妥当なシーズン構成であったと言えるのでしょうが、一昨年の女子W杯、昨年のロンドン五輪での優勝とほぼ望めるすべての露出を得てもシーズン拡大を図る(=総収入アップを目指せる)ほどには協賛が集まらなかったということなんでしょうね。実に難しいところです。8チーム構成となったことで総試合数は増えていますがほとんどのチームのホームは小規模会場。WPSから継続参加のチームは以前と同じスタジアムを使用。例外は新設チームとなるPortland ThornsがMLS Portland Timbersの本拠地(収容2万人)にサブテナントとして入る例だけとなります。


こうやっていまになってみてみると新リーグはPortland Thornsを新リーグの顔として人工的に推すつもりなのだろうなということが見えるようです。Portlandが2万人収容可のスタジアム。Abby Wambachが加入したWestern New York Flashがサッカー専用スタジアムで14,000人収容。この二チームを除くとあとはほぼ3000人台~5000人台の収容人員の小規模スタジアムを大学から間借りしているものばかり。どれだけやっても他の6チームは崩壊したWPSを大きく上回る動員にはなれそうにないわけです。

WNY FlashはWPSの最終年にも参加していたチームでホームスタジアムのキャパを生かして動員で健闘した過去があります。今回は地元出身の全国区の人気者Wambachを獲得して地元へのアピール拡大、どれほど動員をのばせるか。過去から続くFlashというチームの地域浸透の実績もあるし、所在地のRochesterは謎のスポーツ都市で各種のマイナープロスポーツがなぜか動員がいいという地域性もありそこそこ健闘するのではないか。

もうひとつのPortlandの方は新リーグの看板チーム化を意図的に狙ってるんだろうなあと思われます。Flashの方は過去からの継続性もあるし、Wambachの地元というある種自然なつながりがあるわけですが、Portlandの方は相当に意図的です。代表選手の初期配分の発表のときにも指摘してますが米代表のFW Alex Morganとカナダ代表のエースFW Christine Sinclairという北米の二大ストライカーを揃えて大きく目を惹きました。次のサイクルで米代表の方で大きな役割を担うであろう技巧派MF Tobin HeathもここPortlandに分配されているし、攻撃力や選手の知名度では圧倒的にPortlandが他を圧している。

そもそもドラフト的なやり方での公平な選手配分でなくリーグ本部が意図的に戦力を偏らせてのチーム構成でもあるわけです。それとPortlandのホームスタジアムの大きさとを考え合わせると、NWSLの目論見としてはPortland Thornsを男子サッカーMLSのSeattle Soundersのような動員数字でのリーグ全体の牽引車やイメージリーダー化させる意図があってわざと派手な戦力をここに集中したと考えるべきでしょう。

MLS Seattle SoundersはNFL Seattle Seahawksのスタジアムをホームスタジアムとして使用。常時他のMLSチームの三倍程度の動員を誇り、MLSのマイナーとメジャーの境である微妙な立ち位置のMLSをメジャーの方に見せる役割を果たしています。何割程度ではなく何倍もの動員なのでリーグ平均の動員の数字を跳ね上げる役目も果たしているわけです。たぶん新女子リーグでもこの効果を期待して大箱をホームとするPortlandに資源を集中していると読むべきなのでしょう。Portlandに大きな動員を記録させてNWSLの全体の動員の数字を跳ね上げるなり「女子スポーツでもこんなに入るんですよ」とスポンサーなどにアピールしようということでしょう。ドラフト的な公平な選手分配よりも、戦略的に資源を使うというのは小企業にとっては正しいやり方ですからこれはこれでいいとは思います。その戦略がどれほど効果を出してThornsが動員を記録できるものか。女子新リーグのビジネス的な要の数字になってくるのでしょう。