さて昨日の記事で来年2013年春から新女子プロサッカーリーグを発進させるべく米サッカー協会が鋭意準備中ということを書きました。詳細は未定、近く発表ということですが、2011年まで続いた女子プロサッカーWPSは四月~八月(八月はおおむねプレーオフ期間)をシーズンとしたスケジュールでした。新リーグも開幕を「来春」というのは明言していますのでWPS同様の春開幕、主たる想定顧客となる就学年齢の子および家族が来やすい夏休みまでに全日程を終えるというスケジュールを踏襲しそうです。夏休みが終わるとアメスポ人気最強のフットボールシーズンが始まってしまいますのでそれを避けるという意味でニッチスポーツマーケットを狙う後発リーグの考え方としてはありがち、かつ妥当な考え方。これはラクロスのプロリーグであるMajor League Lacrosse (MLL)やアリーナフットボール(AFL)でもほぼ同様のシーズン構成です。またWPSの場合は各地の大学のスタジアムを借り受けて興業していたためフットボールシーズンになってしまうと試合スケジュールが自由に組めない(特に開催地がぎりぎりまで確定しないプレーオフ)ためその面でも八月でスケジュール完了が求められていました。


さてその春夏シーズンのスポーツ市場に新たに名乗りを上げているのがLingerie Football League (LFL)です。日本でもWOWOWで放送があるということですのでご存じの方もいると思いますが、昨季で世界45カ国で絶賛放映中なんだそうです。このLFLがシーズンを昨季までの秋冬から春夏に変更して2013年にアメスポ市場に再び殴り込んでくることが確定しています。下着美女軍団によるLFLと、健康健全女子中高生ターゲットの新サッカーリーグという女子という部分しか共通点のない新興業が同時に2013年春に登場するわけです。


LFLの中身は読者にそれぞれ検索していただいて映像その他を見ていただくとしましょう。これまではLFLは完全に通常の男子フットボールシーズンにかぶせる形で開催されていました。九月開幕してシーズンクライマックスとなるLingerie BowlをNFL Super Bowlの当日に行っています。元々、Super Bowlのハーフタイムにおちゃらけパロディ番組として下着姿の美女がフットボールをする有料TVイベントというのがLingerie Bowlの発端。これが大うけして翌年2005年にも企画放映。この第二回Lingerie Bowlに出場したLos Angeles Temptationは現存します。当時は年間ワンマッチのみのイベント開催だったのが2009-10年シーズンにリーグとして10チームでLFLとしてスタート。各チーム年間3~4試合をプレー(つまりホームゲームは2試合が限度)。リーグ開始当初はマーケット試験的な意味合いが強かったと思います。こんな色物興業が果たしてビジネスとして成立するのか誰にもわからなかったはず。LFLの二年目の2010-11シーズンからはMTV2での放送が開始。三年目の2011-12シーズンは選手をアマチュア(選手には一切給料を支払わない!)に変更したので正確に言えばプロスポーツリーグではなくなっていますが、新規参入チームもあるなどLFLが持続可能な存在である可能性が高まってきました。そして決定されたのがシーズンを秋冬から春夏に移動させて本格的にプロ興業としての定着を計るという方針でした。春夏シーズンに移行する過渡期となる今秋はLFL Canadaという四チームによる新リーグがその穴を埋めています。さらにはLFL放送の人気の高いオーストラリアでもLFLリーグが結成される方向で活動中。さらにプロモーションも兼ねて放映各国へのLFLの世界ツアーも企画中とか。


考えてもみてください。女子プロサッカーはWPSも、その前のリーグWUSAも三年でリーグが活動停止に追い込まれています(WPSの場合、オーナー間の確執が理由でしたが)。それがLFLは女子サッカーが二度まで超えられなかった三シーズン存続を超えて、四シーズン目となる来季に持続可能な興業を目指して本腰を入れて乗り込んでくるわけです。それが奇しくも女子サッカープロリーグの再興と完全にタイミングが合っているというコントラストがおもしろ過ぎると思うのです。一方は五輪での大活躍で女子スポーツ界のヒーローたちのリーグ、他方は女性を売り物にしての色物興業の色合いが強いがなぜか世界進出ができてしまっているLFL。その両極端ぶりがすごいなと。


ここからは真面目な話ですが、LFLはすごい可能性を秘めていると思うのです。アメリカで圧倒的な人気を誇る男子のアメリカンフットボールですが、国外ではその存在感は薄いです。ちょうど今週末にNFLは英国ロンドンでの公式戦の開催がありますね。毎回ロンドンでの試合は好評でチケットも売れますが、基本的にはそれを見に来るのはアメリカに縁のある英国人でしょう。Super Bowlが世界200カ国以上で放送されているとか言いますが、ほとんどの国では需要があるわけではない。Super Bowlだけが放送されるアメフトの試合という国が多いはず。カレッジフットボールですと今季の開幕戦でNotre Dameがアイルランドへ遠征に行きましたが、地元のお客さんはあまり熱くなっていないのがスタンドを見てもわかります。そもそもアメリカンフットボールの試合の流れ、ルールが海外に十分伝わっているとは思えないのです。Super Bowlを初めて見た外国人の典型的な反応は「ルールがわからない」「すぐプレーが止まる」「足を使わないのになぜフットボール?」といったところ。これらは当然の反応だと思います。類似のスポーツが多くの国にはないですからね。

そこでLFLです。Super Bowlの200カ国は放映権料無料でばらまいているのが多いのは確実ですが、LFLの45カ国はどうでしょうか。たぶん有償での放映権販売の結果でしょうし、これが現在のLFLの収入源・ビジネス存続の原動力になっている気がします(財務資料の公開がない)。日本でも放映されれば目立つようにどこでもこれは実に目立つわけです。そしてチャンネルを合わせてしまう各国の男性たちは別にフットボールが見たいわけではないでしょうが、結果としてはアメリカ製のフットボール簡易版を見ることになるのです。LFLにはFGもパントもないですから「フット」の部分は完全に無意味ですが、その部分も含めてフットボールっていう名前だけどこういうもんなんだなーという無意識のうちの教育ができるのです。すごいと思いませんか?私はすごい可能性だと思うのです。ほぼアメリカ一ヶ国(カナダのCFLも安定存続しているから二ヶ国か)のローカルプロスポーツであるフットボールをLFLが先兵となって世界の男性にルールや試合の流れを知らしめてしまうという可能性を秘めているのです。

あの巨大産業NFLがNFL Europeを通じて世界広報(NFLEの存在理由はそれだけではないですが)を目指しましたが、十分なファンを獲得するに至らず活動を停止しています。あのNFLですらできないフットボールの世界広報を色物LFLがあっさりとやってしまうことになるのではないのか、という想像はものすごく面白いものだと感じます。LFLオーストラリアは実現できてもNFLオーストラリアは不可能です。すごいと思いませんか?真面目なフットボールファンの各位はどうお感じになるでしょうか?