以前に他の記事の中でも書きましたが私は一部の違反とされる薬物、特に成長ホルモンについてはディベートで使用を正当化する側で十分に論陣を張ることができると考えています。成長ホルモンに関しては十二分にその使用は正当化可能、もっと言えば全人類が使ってもかまわない可能性が十分あるという理解をしています。成長ホルモンこそは古来王侯貴族が探し求めた不老不死の妙薬の発見であったのかもしれないと考えています。もしその効果をつぶさに知れば美容などの理由でHGH治療を受けたがるひとはたくさん出てくるでしょうし、実際に世界のお金持ちの間では既にそのように利用されていてもなんの不思議もありません。量を間違えなければ現在のところ重大な副作用も多くないです(量を誤ると巨人症、末端肥大症に)。
スポーツの世界で言うと現時点では製薬特許など別次元の限界があるので高価でもあり、カネを持っている一部のアスリートのみが利用できるという点で制限されるべきなのは理解できますし、そのルールは遵守してあくまでスポーツなんだから属人的な部分で競い合って欲しいと言う意味で抜け駆けの違反者には厳しく当たってよいと思いますが、根源的には成長ホルモンは悪ではないという認識です。サッカーBarcelonaのLionel Messi が成長ホルモン不足の「治療すべき症状」をもっていたゆえにおおっぴらに成長ホルモン「治療」が可能でその能力を引き上げてサッカー界最高の選手になっているのをどう解釈すべきか、という問題とも大いに絡むわけです。(Messiの問題をコメントで提起していただく前にこの文は書き始めました。Messiの件への直接のお返事は別に書きますのでお待ちを)
比較で言うとMessiの場合は少年時代に明らかに成長ホルモン分泌不足だったことが推測できます。当時は治療すべき症状であったという点に大きな異論はないはず。その続きでいまも加療中との理屈で他の選手には認められない成長ホルモン投与がセーフとされていると理解しています。既に背丈の成長が止まった上でも尚かつ成長ホルモン投与が正当化できるかは微妙なところ(正当化できる理屈も存じています)ですが、少なくとも若いとき=前段部分では充分に正当化できる治療だった。Hendersonの場合はその前段部分がそもそも存在しないわけです。過去にそれが病気として認識されたことがないのに、40代となって自然な老化で減ったホルモンを人工的に補うのが「治療」かというとかなりの解釈の無理を個人的には感じますが、アスレティックコミッションはこれを是としました。アスレティックコミッションというのはアンチドーピング機関ではないですから場合によってはドーピングに鷹揚とも言える立場をとることがあり、この判断が今後他のジャンルに広がるかどうかはわかりません。繰り返しますがこれは線引きの問題です。対戦予定の王者Jon Jonesがうまいことを言っていて「今自分は25歳だが、20歳のときの自分に戻したいので自分も使いたい、と言ったらどうなるのか」という疑問を提起しています。まったくその通りでしょう。どこで線引きがされるのか、さじ加減の問題なんですね。
これからの未来には自分自身の幹細胞を利用したドーピングなども次々と開発されていくでしょう。取り締まりようのないものになっていく。ドーピングなのかなんなのかもうわからないものに発展していく可能性もある。一度ケガをして「治療」した方が健常者よりも得な場合すら出現していくでしょう。現在でもトミージョン手術の成功者の中で散見されますが、そんな程度の成功率ではないものが開発されうるという記事も読んでいます。また幼児期からの「育成」(現在でも成長ホルモン治療は早い場合生後18ヶ月ぐらいから実施されています)、それどころか胎児や未受精卵のより分けなんていう形での優性措置などいくらでもエスカレートしかねないわけです。遺伝子操作や優良アスリートの遺伝子の保存と量産だってどこかの国で既に実施されていても不思議ではない。さあどこでそれを止めるか。技術はいかようにも進みます。なにを可としてなにを不可とするか。その線引きを考えるといまのドーピング問題はまだまだ人間らしい範囲にとどまっているような気さえしてきます。
同時に利用可能なすべての技術を投入した新人類ともいうべき超人がどれほどのことができるのか見てみたい願望も感じるところではあります。それがフェアかどうかはまた別のことです。ドーピング問題とはそういう問題なのです。
最近、MLBでもロードレースでも薬物問題が大きな話題をよびました。確かに薬物使用は「許されない」ことかもしれませんが、個人的にはそんなに追求するきになれません。
バリー・ボンズの成績はいまみてもわくわくさせてくれますし、ランス・アームストロングの走りはすごい印象に残っています。たとえ【つくられた】パフォーマンスであっても、あれだけ心震わせたくれた選手にを"いじめる"ようなことは個人的にはできません…。裏切られたといえばそれまでですが、個人的には「感謝」の気持ちしかありません。少数派だとはおもうんですけどね……。