Little League World Series (LLWS)でアフリカ大陸から初めての参加となるウガンダのチームが二日目に登場しています。選手たちの野球の経験は長くて三年というチームですが、のびのびとプレーしていてよかったです。初回の先頭打者が初球を積極的に叩いて一二塁間を抜けた初ヒットを記録。そして敗色濃厚な最終回にはアフリカチーム初のホームランをセンターオーバーに叩き込んで歓喜で試合を終えました。試合は9-3でパナマの勝ち。
過去静かにMLBや草の根の人々が海外での野球の普及に向けて努力してきたひとつの勝利と言えるウガンダチームのLLWS登場でもあります。LLWSにはヨーロッパ代表や中東・アフリカ代表の枠はあるものの過去のチームは在外米軍基地の米国軍人軍属の子弟のクラブチームが出場したりする場合があったり本当の意味での世界的な広がりは乏しかったわけです。それが何年か前にロシアのチームがやって来たり、今回のウガンダのチームが登場したりと広がりを見せ始めています。日本や台湾のチームのように伝統国できっちり鍛えられたチームの出場とは意味は違いますが、それはそれということで。
アフリカへのスポーツの普及というのはいろいろと考えさせられるものがあります。政情不安や食料事情・衛生事情に問題がある国や地域もまだまだ多い。ウガンダチームの少年たちも遠い学校へ通う帰りがけに水を汲んで家に持って帰るのが日課という子達もいる(通うべき学校や帰るべき家、さらには汲める水があるだけいいとも言える、さらに悪環境の土地もあるわけですが)。LLWSではユニフォームその他用具は大会が提供するのですが、提供されたスパイクがしっくりこず、いつも通りの裸足でプレーしてみたり。力量も練習も不足しているのは明らかですが、それでも彼らは明らかにこの試合を楽しんでいるし、積極的なプレーもいい。何人もいい肩した選手、運動能力のある選手もいる。それといいのはぜんぜん物怖じしない態度がいいです。失敗を怖れず先の塁の封殺を狙ったりして成功したり新鮮さもあります。そういえばあのSammy Sosa(Sosaはドミニカ共和国出身で方向違いですが、貧困の中育ったという意味では同じ)も少年時代は段ボールで作ったグローブでプレーしていたとか、初めてプレーしたのが14歳のときだとかいう伝説がありましたよね。LLWSは全員13歳以下なのでウガンダチームの彼らはSosaよりは早くプレーし始めていることになりますね。こういう機会に見出された中から違う人生を歩む子も出てくるのかもしれません。そうでなくても好きなスポーツを日長一日ずっとプレーしているという彼らの子ども時代は楽しい記憶として確実に残り、いずれまた次の世代につながっていくのでしょう。
昨年もウガンダのチームは予選を勝ち抜いてLLWSの出場権を得たのですが、子供たちの出生証明がとれない(というか存在しない)、よって渡米のためのビザが発給できないという問題などが発生して初出場を逃しています。今年、来ているチームは昨年とは別の地区の子たちということです(去年のチームの地区は事情で集落が離散、チームが消滅したとか)。アメリカからのミッションの人たちや、日本からのPeace Corp(と紹介されていました。海外青年協力隊のことか?)のボランティアによる競技指導で地道なクラブがウガンダの各地で運営されてきたそのひとつの果実としてこのチームができたということですね。
話を少し変えます。私が今年知り合ったナイジェリア出身の学生がいて、彼はアメリカに五年ほど前に移住してきているのですが話を聞くと子どもの頃は毎日ラグビーをして遊んでいたというのです。ラグビー?と思いました。アフリカ大陸でラグビーW杯に出てくるのは別格の南アフリカ共和国は別として、それ以外では南アのお隣のナミビア、ジンバブエのアフリカ大陸南部の国が頭に浮かびます(他にはつい最近大アップセットで島国マダガスカルがナミビアに勝ったのを英国系のニュースで見ました)がナイジェリアとラグビーというのはつながらなかった。調べてみると一番最近の2011年のラグビーW杯ではナイジェリアはアフリカ大陸予選への出場をかけた試合で敗れて、大陸予選にも出場できなかった国です。次期2015年ラグビーW杯イングランド大会に向けてのアフリカ一次予選(前回から方式が変わって全加盟国が予選参加できる)でも既に最下位で敗退している、いわばラグビーの世界では参加国中最弱かもしれない国です。でもそれは決してマイナスではないのだな、と思い知らされるわけです。毎日ラグビーをして育った彼にとってはそれが愛するスポーツなわけです。弱い。世界で弱い。でもそれはスポーツへの愛を殺しません。それでもいいのだと思えるわけです。彼はアメリカの生活は好きだけれどラグビーが見られないのはちょっと残念だと言って笑いました。(じゃあアメリカに来てからは何を見てる?ときくとアメフトも野球も見るけれど一番よく見るのはバスケかな、ということでした。)
何をどう教えてもウガンダの少年野球チームがLLWSで十年以内に日本のチームに勝つことはあり得ない。断言できます。三十年でも五十年でもないかもしれない。でもそれは別の問題なのだ、と思えるわけです。「人はパンのみにて生くる者に非ず」という言葉がありますが、戦闘に明け暮れる地域がまだ残る大陸でベースボールを陽が暮れるまでやっているというこのウガンダの少年野球チームや、「最弱国」ナイジェリアのラグビー少年たちがスポーツを楽しめることの利益とはなにかということと比べれば、勝った負けた、そのどの種目が世界でどんな位置づけにあるかなどは些末なことだと思えるわけです。彼らが楽しいことに勝るものはない。このウガンダチームの選手たちの多くは片親や孤児なのだそうです。それが内戦の結果か疾病か他の理由かは触れられていないのでわかりません。ですが今日の彼らの表情にも態度にもどこにも悲惨さも暗さもない。野球ができる喜びにみちている。それは野球の世界普及というようなものを大きく超えたスポーツの一つの勝利ではないでしょうか。
ハッスルプレーでしたし、まさに勝ち負け関係なく、野球後進国の彼らの遠い異国の地での元気ハツラツとしたプレー
はアメリカ人の心もしっかりと捉えていたようですね。
インタビューを受けていた選手数人が、しっかりと英語で受け応えしていたのを見て、私はてっきりウガンダの国でもちゃんとした
英語教育を受けることの出来る裕福な家庭で生まれ育ったプレーヤーの集まりだと勘違いしていましたが、まさか片親や孤児
などの境遇のプレーヤーだったのですね。
いずれにしろプレー中の彼らはそのようなことを感じさせない位の輝きを放ってました。