週末に開幕するCollege World Seriesに出場する八枠のうち、これを書いている現時点で五校が確定。二年連続CWS優勝のSouth Carolinaもあと僅かで勝ちそうですからそれで六校目となるはずです。決まっていないSuper RegionalのひとつはKent State@Oregonで、その最終戦がちょうどいま始まるところです。
そのOregonのホームのスタジアムなのですが、これがずいぶんときれいなスタジアムです。なんでも2009年にOregonが野球部の活動を再開したときに建てたスタジアムなのだそうです。収容5,000人。今日も超満員です。1982年から2008年までの27年間、Oregonには正式な部活動としての野球部はなく、同好会扱いのクラブチームのみがあり、長年Pac-8/10で唯一野球部がない学校だったと。それが急に美しいスタジアムまで建設して部活動再開したのは、州内ライバル校=Oregon State Beaversが2006年2007年とCWSを連覇したことと無関係ではありえないでしょう。Beaversが全米制覇しているのに、Ducksは部もない。これはイカンという。記録を辿ると正式にOregonが野球部復活を発表したのが2007年の7月となっていますから、Beaversが二連覇達成した直後ですね。
その辺りのライバル関係もあってOregonは野球部を復活させるとともに予算をかけて新スタジアムも建設した。収容5,000人というと少ないように感じる向きもあるかと思いますが、大学野球の自前スタジアムで5,000人というのは多い方なのですよ。昨日まで大熱戦でシンデレラチームのStony BrookがLSUをやぶった舞台となったLSUのスタジアムが10,500席以上ですが、これはもう大学野球では例外的な大きさ。大学野球ではLSUは数少ないお金を産む野球チームです。他の有力校だとTexasのホームが6,700、MIami-FLが5,000(YankeesのAlex RodriguezがMiami-FLに資金提供して数年前に改装増席してこの数)、現在二連覇中のSouth Carolinaが6,000、Oregon State Beaversが全米連覇のご褒美とOregonの新スタへの対抗意識でしょう、増築して3,200。こういう席数を持つのは実績のある学校がほとんど。つまりOregonのように実績のまったくない再開したばかりの野球部の5,000席はその実績のなさからすると相当に多いのです。野心的に大風呂敷を広げて施設を作ったという感じがします。尚、このキャパの数字は、立ち見エリア分を含みませんのでライバル校との対決やNCAA地区大会などではキャパの数字を超すことが多いです。Miami-FLの地区大会初戦は1万人近く入ってました(大観衆の前でStony Brookに大敗したわけですが)
さてそれで表題の件になるのです。ご存じの通り大学スポーツではフットボールとバスケットボールが大金を動かすビッグビジネスで、プロの方ではフットボールやバスケと互する人気スポーツである野球は大学では赤字スポーツです。バレーボールやラクロスや水泳やその他もろもろの種目と同じく、学校の予算を喰って運営されている。フットボールと男子バスケが稼いできた予算を他の種目が使わせて貰う、というのがほとんどの場合。女子バスケの強豪校が黒字を出す、LSUやMiamiのような極僅かの野球部が薄いながらも利益を出す、とされますが、ほとんどはそうはならないという常識となっています。
プロのマイナーリーグベースボールが多くの人材を抱え込むシステムが古くからあるため大学野球まで十分人材が回ってこないという点や、マイナーリーグベースボールが全米津々浦々まで存在して夏休みのスポーツ娯楽として定着している反面、大学野球は営業的にかき入れ時のはずの夏休み期間にはシーズンが終わっているという点。また春学期の当初1ヶ月強はアメリカの多くの土地では野球にはまだ寒すぎて興業として不向き、などなど様々な理由もあって大学野球はマイナースポーツにあまんじてきました。
それが多チャンネル化とインターネットといういつもの理由でマイナースポーツにも陽が当たるようになってきた、その好影響は大学野球にも及んでいると思われるわけです。Oregonの例は極端な例ですがほとんど新規と変わらないチームの再開で5,000人のスタジアムを建てるという投資の仕方はマイナースポーツ、赤字スポーツへの投資としては大きすぎる。利益が出る可能性を見てのことと考えるべきでしょう。
このSuper Regionalの対Kent State戦は熱戦続きで大変おもしろいのですが、それを支えるファンも熱い。私個人は知識としてOregonベースボールは伝統ゼロ、ファンも全員最長での四シーズン目のファンということを知っていてもなかなか熱いなあと見入ってしまいます。他校と比べれば歴史のあるLSUのファンなんかは素晴らしいファンが多くて今回の対Stony Brookのシリーズでも感心しきりの応援ぶりで、さすがにそれには大きく劣るもののOregonのファンもニワカファンにはそれほど見えない。なぜそうなのかと考えると、ベースボールにはベースボールのノリがありますしそれはアメリカ人誰しも体験済み。そしてまたOregonにはOregonスポーツの共通の応援がある。そもそも自分たちのチームという一体感は最初からある。そういう共有項があるからニワカでもちゃんと応援になっているんですよね。この初期条件は新しくプロチームを作るのよりもよほど有利です。このOregonの思い切った野球部への初期投資、そして僅か再開四シーズン目にすでにSuper Regionalに進出(いまやってる試合に勝てば三シーズンでCWS進出)と初期投資を生かして有力高校生リクルートを集めにも成功。これで収支もそこそこイケルとなったら真似をする学校も出てくるかもしれない、ということを思ってこの項を書き始めてみたわけです。
もし第二のOregonのように思い切った投資をしてみようという学校が出てくる。またはStony Brookのような野球の人気の高い東海岸でもカレッジベースボールがニッチとして地元の人気を集めるようになる。決してメインストリームではないでしょうが、大学スポーツのファンというのは確実に厚く存在するし、アメリカ人は誰でも野球は知っているし(好き嫌いには濃淡あるでしょうが)、売り方次第では利益の出る第四のスポーツ(フットボール、男女バスケ)というレベルに上がっていくのかどうか。可能性は確かにあると思うのです。