明日は感謝祭。新大陸への初期の移民の苦難と恵みの実りに感謝を捧げる祝日であり、普段遠く離れて住む家族が集まって暖かい食卓を囲む日。
だというのになぜにこんな日にこういうトゲのある発言をしてみようと思ったのでしょうか。当然のように論われた側のから強烈な反論が即座に返ってきていますし、なんとも反感謝祭的なムードです。
まず発言内容ですがOhio State (Big Ten所属、10勝1敗、BCSランク8位)の学長がインタビュー記事で、No. 3 TCUやNo. 4 Boise StateがBCS全米優勝戦進出の可能性があることに触れて「我々は毎週毎週、殺人的(like murderer's row)なスケジュールを戦っている。貧乏人の小娘たち(Little Sisters of the Poor)と対戦してるわけじゃない」「そうじゃないスケジュールの学校は勝っていても全米優勝にふさわしい学校とは言えないと思う」
カギ括弧内は私の意訳ですが、()内の英語の表現は学長が使ったそのままです。
どうでしょう?Ohio Stateの立場ではそれなりに意味があるのは見えるのです。(どう意味があるか詳細は後述)
但しそれをなぜ他の学校でなくOhio Stateという全米有数のマンモス校が言うのかという点や、表現が下品かつ小規模校の蔑視と受け取られてもしかたない言い回しを使うのはいかがなものか。
Ohio Stateというのは全米二位の生徒数を誇る巨大校(ちなみに昨年度時点で生徒数最大はArizona State)。スポーツでもフットボール、バスケットボールの大学の二大人気スポーツでトップクラスなだけでなく多数のマイナースポーツでも上位常連。生徒数の多さは過去から連綿続いており卒業生の数で最多、州の人口の多さとも相まってカレッジスポーツの世界で政治力・ビジネス力で全米随一のメガ大学と言ってよいです。地元ファンのフットボール熱も高く、ボウルゲームでの動員力でも全米有数です。遠くアリゾナのFiesta Bowlでも大挙ファンが押し掛けてくれるしお土産品などにお金もよく使ってくれるボウル主催者にとっては最大のお客様大学でもあります。
そういうBCS体勢派と言ってよい立場の学校、その学長が、Little Sisters of the Poorという表現で小規模校をけなしてBCS優勝戦からの排除を公言するのは露骨過ぎますし、パワハラ的なムードがかなり一般に反感を買う可能性を感じますが、どうなりますか。
速攻でBoise Stateの学長が反論を吠え返してます。この辺のダイナミックさ、即応ぶりはアメリカらしい。
さて問題はいくつもあるのですが、まずスケジュールの件。本当にBig Tenのスケジュールは殺人的で、Boise StateやTCUは貧乏人の小娘相手なのかというところを検討してみましょう。
実は今年のOhio Stateのスケジュールは強度がかなり低いです。スケジュール強度のランキングを公表している老舗サイトのJeff SagarinのランクによるとOhio Stateは120校中59位。メジャーカンファレンス所属としてはかなり低い部類です。Ohio State学長が貧乏人の小娘相手していると評したTCUは68位、Boise State73位とされています。
なぜこんなに近いスケジュール強度になっているかというとOhio State所属のBig Tenに足を引っ張る学校があることがまず一つですが、それ以外の部分でOhio State自身のノンカンファレンスのスケジュールの組み方が毎年甘いせいもあります。
Ohio Stateの10勝のうち対トップ25の勝利は現No. 24 7勝4敗のIowaだけ。Big Ten内で今季対戦しないMichigan State(10勝1敗)やNorthwestern(7勝4敗)はスケジュール強度に加算されず、下位に沈んだMinnesota, Indiana, Purdueのプアなスケジュールに足を引っ張られてしまっています。Minnesota/Indiana/Purdueの三校で今シーズン計10勝なのですが、10勝のうち当該校同士の食い合いを除いて勝った相手を羅列するとMiddle Tennessee, Ball State, Western Illinois, Towson, Western Kentucky, Akron, Arkansas State… 下位ディビジョン校がずらりです。まさに貧乏人の小娘相手をしている学校がゴロゴロBig Tenの身内にいたようです。そういう相手にしか勝っていない学校との対戦の間接的影響でOhio Stateのスケジュール評価も下げていたわけです。
ただBig Tenの他の学校のせいばかりにもしていられないのがOhio State自身のノンカンファレンスのスケジュール。Marshall, Miami-FL, Ohio, Eastern Michiganの四戦。これが全てホームゲームです。スケジュール強度の査定ではアウェイの試合の査定が上がりますがその加算がされていないため強度が弱いと判定されているはずです。例年Ohio Stateは1試合だけノンカンファレンスのアウェイゲームを組むのですが今年はゼロ。10万人収容の地元スタジアムが常に満席売り切れるのがわかっているので儲けるためにはホームで可能な限り試合をしたい営業的な意図は分かりますが、スケジュールがソフトなのは過去から事実です。ただ過去はBig Ten内の争いのレベルが高かったためシーズン後半にはその問題が見えなくなっていたということなのですが。
というわけでイメージではメジャーカンファレンスはスケジュールがキツイ、マイナーは楽々というのがあるのはわかりますが、実はそこまで言うほど差はないのではないか、ということになります。
ではOhio Stateの学長はこの辺りの事実を知らないままで言っちゃったのかどうか。その可能性はあるのでしょう。しかし実は知っていて尚かつ言ったという可能性もあります。一般ファンはそこまで細かく知らないだろうから前述のイメージを強調しておけばなびくと判断して敢えて言ったと。いやそれよりも実はこの発言を聞かせたかった対象は一般ファンではなく、投票者たちだったという、そこまで考えて荒らす目的で敢えて刺激的な表現を使った可能性もないことはないのです。
なぜなら今週末は上位校が難敵との対戦が多く、ランクが荒れる可能性があること。さらにBig Ten各校は恒例により他のカンファレンスよりも早くシーズン終了で(それでも今年は例年よりは一週間遅いのです)今週が最後の試合。つまりランクが荒れた場合の上位票を奪えるのは今週が最後のチャンスだという点があります。Oregon/Auburnは来週も簡単な相手ではないですが、そこで負けてもBig Tenの学校の票にならない。漏れた票をかき集めるなら今週末しかないので、敢えてここで発言したという可能性があるわけです。
現実的な話、ここまで派手にぶち上げてもOhio Stateを全勝Boise StateやTCUの上にする投票者は少ないとは思います(が、BCSの1/3を占めるUSA Today投票はメジャーカンファレンスのコーチたちが大半なわけで…どう影響が出るものか。)。スケジュール強度の点でもコンピュータはOhio Stateに辛いですからOhio State自身が抜くのは無理。ですがこれがBig Tenの同僚校であるNo. 6 Wisconsinだとコンピュータ査定もまずまず、No. 5 LSUも敗れるようなら大逆転BCS優勝戦進出の可能性もゼロとは言えないのかもしれない。Big Tenの地盤沈下で1敗校が三校もあっても全国的な評価が低い現実からの若干の焦りもこういう発言に出たのかな、と思わせるフシもあります。
世論の反応やコーチ投票の票の流れがどうでるか楽しみですね。
ということで、名指しされたもう一方の雄の言もご紹介しましょう。
TCUのAD Del Conte 曰く、「いつ、どこでも、OSUと喜んで試合をするよ。TCU vs OSU、さぁやろうじゃないか」