アメリカスポーツ三昧

アメリカ永住コースか、または第三国に出国か!?スリルとサスペンスの人生とは別にアメスポは楽しい。

Motorsports

PROJECT91 新しい血をNASCARへ

前項で書いた初出走新参ドライバーに優勝を許したNASCAR Chicagoストリートコースでのレースについて少し追記を。優勝したニュージーランド人ドライバーのShane van Gisbergenが乗った91番は今季序盤にF1 Kimi Raikkonenが搭乗した車番でもあります。所属はTrackhouse Racing Team、2021年からCup戦に参戦した若いチームです。Chevrolet Camaroを模した車体を使用。現在フルタイムでの参戦は前週優勝したRoss Chastainの1番とメキシコ人ドライバーDaniel Suárezが乗る99番のみ。ですからTrackhouse Racing Teamは2週連続勝利ということになってます。新興のチームとしては快挙です。Suarezも今季トップ10を5回と昨季ほどではないもののまずまず。

昨日van Gisbergenが乗った91番車はTrackhouseがPROJECT91として維持しているゲストドライバー用の車番。Kimi Raikkonenが今季序盤のCircuit of The Americasでのレースで29位、前年のWatkins Glenで37位と惨敗しています。Raikkonenのゲスト参戦がそんな結果だったのでさらに無名のvan Gisbergenに事前の期待が集まっていたり話題になっていたということはなかったのですが蓋を開けたらvan Gisbergenの圧勝。予想外、大アップセットだったと言えます。
レース後にはNASCARのレギュラードライバーの中ではロードコースの能力に定評のある人気ドライバーのChase Elliotが「これじゃ(van Gisbergenがオーストラリアに帰ってから)NASCARのドライバーはみんなヘボだと言いふらされちゃうな」と自虐のコメントを残してます。昨日のレースではChaseは安定の3位。

レース内容はNASCARレギュラーたちが次々と緩衝タイヤに突っ込んだり壁への接触からの脱落が続いた中、一人van Gisbergenだけがコーナー出口から安定して壁際をすり抜けて行って後続を振り切ってます。車自体もざっとフィールド全体で4−5番目のスピードを維持しており良い車体をゲスト用に準備したPROJECT91の勝利だという評価もできそうです。良い車体を準備し、F1レーサーのネームバリューよりも当該レース環境に合ったドライバーを迎えての勝利で、Trackhouseの構想力の勝利とも言えるのかも。

今回のChicagoがNASCAR Cup戦で史上初のストリートコース。近年ロードコースでのレースは増えていたもののレース場のロードコースやローバルと、ストリートコース独特の許容範囲の狭い壁との戦いは別物だったということでもあるのでしょう。ロードコースなら多少の操舵ミスも大したタイムロスにならないのがストリートコースでは即脱落のミスとなる。脱落者が増加して果敢にアタックできなくなったレギュラードライバーたちを尻目にvan Gisbergenが快走という結末になったと思います。

こういう形で成功してしまったのでTrackhouseのPROJECT91は今後も継続するのでしょうし、豪Supercar Championshipとのスケジュールの兼ね合いを眺めてvan Gisbergenの再登場もありそう。または91番で2戦2惨敗となっているRaikkonenのハートに火が付いて3度目の挑戦があるか。
若いチームであるTrackhouseがこういう形で新しい血と話題をNASCARに提供することはジャンルの活性化には良いことです。他の中規模チームでも似た試みをするところが出てくるかも。いつも同じメンバーでコアのファンばかりを相手にしてると必ずマンネリ化してきますし。
近年NASCARはロードコースでのレースを増やすことでF1やIndyCarなどのドライバーの参戦を促してきた面がありますがさほどインパクトは残せませんでした。それが今回のロードコースでの想定外の外様優勝で運営がロードコースとストリートはこんなに違うのかと目覚めてNASCARのストリート進出が加速する可能性もありそうです。

ただ今回のレースは出来すぎですけどね。ストリートだからといっても毎レースこんなにおもしろいとは限らないとは思います。レースの最終局面でトップが20秒間で抜きつ抜かれつの熾烈バトルとかそう簡単に起きません。事前には他のジャンルみたいにトップのテイクオーバーがほとんどないレースになったらどうするんだという心配がされていたほどだったのに。

60年ぶりNASCAR Cup戦初出走ドライバーが優勝

痛快と感じるべきなのか不甲斐ないと感じるべきなのか迷います。NASCARの史上初のストリートレースとなったChicago市街地コースでのGrant Park 220でこれがCup戦初出走のニュージーランドのドライバーShane van Gisbergen34歳が終盤に上位陣を次々と抜き去っての堂々の優勝。Cup戦での初出走ドライバーの優勝は60年ぶりとか。NASCARの歴史が75年なので60年前まではまだドライバーの層も薄かったからそういう事態も起こったのだろうなと想像できます。今の参加車体の多さやドライバーやチームの専門化が進んでいる現在のNASCARで初出走初優勝は文句なしの快挙ではあります。

Shane van Gisbergenはオーストラリアで行われているというSupercars Championshipシリーズに3度の年間優勝と彼の地では実績を持った選手ながらNASCARでは下位カテゴリでのお試しでしか出走経験なし。
Supercars Championshipというのはドライバーの座席が右ハンドルでNASCARと逆。つまりはシフト操作を左右逆の手でやっての勝利だというのですからそれは大変なハンデを負っての勝利。ドライバーがNASCAR車体に不慣れなのもそうですがサポートのチームも急造のはず。それだけ大きなハンデがあっての優勝。敗れたNASCAR専業ドライバーたちの多くが苦手とする非オーバルコースだから云々という言い訳も聞きたくない感じです。狭いコースと雨上がりでの予測が難しい路面で苦労していたのは確かですが外様の初出走ドライバーに揃って負けてはいけないのではないのか。NASCARドライバー全体のロードコースでの力量全体が疑われる事態に。トップドライバーたちのvan Gisbergenの感想はまず名前が読めてないし知らない。でもコーナーでのスピードが素晴らしかったとお手上げの感想が多かったです。


過去にも他のジャンルからゲストドライバーがNASCAR Cup戦に参加したことは何度もあるし、先日も書いた通り日本のKamui Kobayashiが8月に同じように単発参戦の予定など今後もあること。そういう中で今回のvan Gisbergenが他のゲストたちと異なって快勝できたのはSupercars Championshipが箱車でNASCAR独特のいつでもどこでも接触上等の競り合いに耐えられる技量と肝があったからということなのでしょう。オープンホイール出身者では操縦技術はあってもNASCAR村の流儀に飲まれる面は確実にあったでしょうから。

優勝後のインタビューでNASCARにフルタイム参戦する気は?と問われて、Supercars Championshipの契約があと1年残ってるからその話はその後だねと参戦に含みをもたせました。きっとギャラとかはNASCARの方がずっと高いでしょうからこれで名前が売れたこともあってNASCAR側も考えるのでは。この予想外の勝利でNASCARは豪州NZ方面への予定外の露出も得たというところか。

Ross Chastain やっと一人前扱いの3勝目

今週からNASCARのシーズンは後半戦。放映もシーズン前半のFOX系列からNBC系列に移ってプレーオフを含む残り20戦となります。今日勝ったのはRoss Chastain。そう例の壁乗り激走でNASCARの外にも知れ渡ったあの逆転プレーオフ次ラウンド当選を果たしたあのドライバーです。
あの場面はNASCARを知らない多くの方にも届いた名場面となったのですが、Chastain陣営にとっては若干痛し痒しの面があった。話を振られるのはあの壁乗りの話ばかり。話題にはなれどあのレースでは勝ったわけではないです。また今日のレース Ally400でカップ戦通算3勝目をあげる前の2勝は昨年2022年のCircuit of the Americas(ロードコース)と、3位を走っていたら前の2台が最終ラップの競り合いで接触2台とも脱落での棚ぼた勝利。後述しますがNASCARにおいてはロードコースのレースは様々な思惑があってやってるけど本当のNASCARのレースじゃない的な捉えられ方をする面がある。そんなこんなで現在30歳で2勝の中身はイマイチの2勝。それプラス壁乗りで一躍NASCAR外からの注目は浴びたけれど逆にそれが生粋のNASCARファンからはChastainはホントのNASCARオーバルで勝ってない、壁乗りはギミックだ的な批判的なコメントが受ける面がありました。ま、どこのジャンルでも熱心なファンというのは口うるさいものです。

それが今日のレースで完勝。たぶんレース全体の半分以上のラップをとって特に後半は2位以下につけいらせず、さらには周回遅れ車を強引かつ巧みにあしらうことで後続車との差も広げるという中身のある好レースを展開。堂々オーバル(正確にはDaytonaに似た五角形)コースを制しての優勝。口うるさいファンも黙らせたであろう内容の勝利となってます。これで今季のプレーオフ進出もほぼ確定。レース後のインタビューでも過去の2勝への批判は本人も意識していたような受け答えで文句なしの勝利に満足している様子が伺えました。


ところでKamui Kobayashiが8月にNASCAR最上位カテゴリのカップ戦に初登場するらしいですね。Michael Jordanがオーナーである23XI Racingの67番のToyota Camryで8月13日に出走予定です。場所はIndy500の行われるIndianapolis Motor Speedway内のロードコース。レース名はVERIZON 200 AT THE BRICKYARDということになってます。
23XI Racingの67番は今季の序盤Daytona 500でTravis Pastranaが出走して11位フィニッシュと善戦した23XI Racingのゲストドライバー用の車番となります。Travis PastranaはスタントドライバーであったりX Gamesでの優勝歴であったりと言ったモータースポーツでも毛色の違うジャンルからのゲスト参戦。
Kobayashiのスポット参戦も長いシーズンにアクセントを付ける感じの参戦でしょうか。またはNASCARはブランドの日本再輸出の可能性を見てる面もあるのでしょう。

過去に何度か書いてますがNASCARでのロードコースのレースはどうしてもIndyCarやF1などと比較してしまいなんとも鈍重に見えるしNASCARのジャンルとしての良さが消えてしまう面があり個人的にはあまり好きではない。ドライバーも幼少期からオーバル純粋培養の多いNASCARドライバー達は全体にロードコースが苦手で他ジャンルでロードレース経験の多いドライバーに簡単に負かされてしまうレースが目立つのも興を削ぐような気もします。古株のNASCARファンからはロードレースで勝っても上述のRoss ChastainのケースのようにNASCARでの勝利として評価されない面すらある。

逆にNASCARが元F1ドライバーだとか元IndyCarレーサーでもNASCARでプレーオフに進出できる機会を提供するレースであるとも言うことができます。例えばF1 Kimi Raikkonenが今季またNASCARにスポット参戦。出走したのはF1でも使われているCircuit of the Americasでのレース。NASCARがアメリカ土着のジャンルにとどまらない露出を目指す戦略上の要請で幅広いドライバーの受け皿としてロードコースでのレースが昔に比べると多くなっているということでもあります。Kobayashi参戦もそれと似た営業戦略上のゲスト出走でしょう。日本でいくらかでも報道されるのでしょうか。それとも日本の広告代理店に話を通してないと無視ですかね。

競合ツアーとの共生

LIV Golf所属のBrooks KoepkaがPGA Championshipに優勝してます。LIV GolfとPGAの裏での手打ちは今年のMastersのときにも感じられましたからいまさら敵対ツアーというわけではないのでしょうがそれでもLIV Golfに移籍した選手が堂々とPGA of Americaの主催冠トーナメントを制してしまったのですから、手打ちがない状態のままだったらPGA側の屈辱とも表現できたかと思います。
しかしそういう論調の報道はほとんどありません。

ESPN.comを見てるとスマホアプリだとLIV Golfの試合のリアルタイム順位報道がスコアのセクションから見られるように変わってます。昨年はこれはなかったはずですから、大手スポーツマスコミもLIV Golfを恒久化扱いし始めているようにも見えます。PGAに忖度している様子ももうない。

LIV Golfに移籍した選手をPGAツアーから完全排除すべくPGAが当初動いていたところからはPGA側が大幅に譲歩しているのは明らか。スポーツマスコミもそれを追認しているように見えます。
今年9月にもスタートするとされるPGAの独占禁止法違反訴訟を前にPGA側が法廷闘争での全面勝利は目指せないと判断したということでしょうか。
当ブログではLIV Golfの米市場でのツアー実施前の段階で既にPGAの対応が無理筋ではないかということを指摘してありますから事態は当初の想像通りの方向に動いたと言ってもいいかと思います。PGA側からすれば当初の目論見どおりに進まなかった。

ただ表向きには手打ちは大々的に発表されてはいないはず。PGA側が裏交渉で譲歩するにあたってこれ以上の選手の引き抜きを控えるなどの何らかの利得言質をLIV Golf側から引出している可能性もありそうです。LIV Golfの方が選手へのギャランティの報酬は高いわけで、LIV Golfに移籍してもPGAツアーにも出場できることを目の当たりにしたPGAツアー所属選手が今になってLIV Golfに移りたいと思うのもさほど不自然ではない。放置すればPGAツアーにとっては危機は去らない。なのでなんらかの協調路線で全面戦争よりも敵対ツアーとの共存に舵を切ったということなのでしょう。


ほのかに似たような事象をこの週末に別ジャンルで見かけました。毎年このMemorial Dayの3連休の中日日曜日に開催されるIndy 500が晴天の下で開催。これを来季のIndy 500に出走する予定のNASCAR所属のKyle Larsonが現地観戦に来ていました。NASCARのレースも同日午後から夜に他州で開催される予定だったのにLarsonは遠いIndianapolisまで見に来ていただけでなくマスコミ取材に対してリップサービス全開。「世界最大のレース、世界最大のスポーツイベントであるIndy 500」などという過剰とも思える表現を使ってIndy 500を褒め称えていました。へー、という感じです。(NASCARの同日のレースは結局雨天でスタートできないまま順延)
Kyle Larsonは母方が日系人。2021年にNASCAR最上位カテゴリのCup戦で圧勝で優勝。現在でもNASCARのトップドライバーです。現役のトップドライバーが業界内2位のIndyCarシリーズの看板レースに出場するというのは思い切った協業路線と言えます。
昨年まで元NASCARのチャンピオンだったJimmie JohnsonがNASCARを引退後にIndyCarシリーズにフルタイム参戦してました。しかし有り体に言ってこれは失敗。初年度の2021年は未勝利top10ゼロ。二年目の昨年2022年シーズンも未勝利、top 5 1回、top 10 2回。期待外れ。

Jimmie JohnsonのIndyCar挑戦はNASCAR引退後だったこともあり個人的な挑戦という捉え方をされていたと思います。しかしながら現役のトップドライバーのKyler LarsonがNASCARにフル参戦のままIndy 500挑戦となれば事態は異なる。
元々NASCARは所属ドライバーが空き日に他のレースに出場することに寛容なので、上述のPGAのLIV Golf選手への対応とは事情が異なるものの、Indy 500にNASCARの中心ドライバーが出場し、さらにリップサービスをしまくってIndy 500を持ち上げている。NASCAR陣営の人間なら自前のDaytona 500の方が人気だと主張したいはずのところなのにです。
あまり表向きはNASCAR-IndyCarが協業路線だと言ってるわけではないけれどモータースポーツ業界の成長が鈍い中、活路として両陣営のトップドライバーの交流という形で業界を盛り上げようと画策しているのだと受けとりました。

ゴルフにせよモータースポーツにせよアメスポ業界の準メジャーと言えるジャンルが生き残りのために少し前までは敵とも思われた相手とも組むという流れに見えます。

Dakarってどうやってお金を稼いでいるの?

正月恒例Dakarラリーが終盤を迎えてます。二輪で米国人ライダーSkyler Howesが首位にからみながら終盤に突入しています。乗るのはHusqvarna。

Dakarは長くNBCSN(及びその前身のチャンネル)で放映されてきましたがNBCSNが廃局となって現在は同系列のストリーミングサービスのPeacockで放送されています。見る側の都合のいい時刻に見られるので見やすいといえばそうですが、しばしばあとで見れば良いやと3日4日溜めてしまいライブ感を失ってしまうこともあります。昨年は特にそうでした。

これってTVに限らないですけどね。便利になりすぎて都合の良いときにとか言っているうちに実際のイベントが終わってるという。Dakarなんかはアメリカじゃ報道がないですからPeacockとNBC Sportsのサイトを避けていればまず他から結果や事故など情報が入ってくることはないので後追いでもまっさらな状態で見られるわけですけど。

報道がないと書きましたが過去10年ほど参加者にアメリカ人選手が徐々に増えてきていることからしてもNBC系列で放送し続けていることで徐々に認知度は上がってるのでしょう。前日まで二輪トップに立っていた2位Howes以外にもMason Klein(KTM)が米国人ライダーで6位、トップから15分差と表彰台をうかがいます。2人同時に米国人ライダーが表彰台という可能性も残してます。

私はDakarは好きでほぼ毎年見てます。ただモータースポーツとして見ているというよりは紀行番組として見てる感じではあります。世界各地の壮大な自然とカネをかけた素晴らしい空撮などが楽しいのであってスポーツ番組を見ている感覚とは違うかなとは思います。

Michael AndrettiがNASCAR挑戦の意向

Michael AndrettiがNASCAR挑戦の意向があると表明しています。

その前の段階でMichael Andrettiは自動車製造最大手General Motorsと組んでF1への挑戦を表明していました。そんなに強力なスポンサーを持ってるってことでしょうか。ただしF1の既存の10チームのうち1チームのみがGM/Andrettiの参入に賛成とか。欧州側の報道を読んでもGM/Andrettiに強い拒否感をにじませてます。F1で戦うことの複雑さを主張、米国のモータースポーツの基本パーツの共有などの政策に慣れたチームはF1での戦いはムリだと指摘していたりします。コスト削減の意識の違いが如実に出ていておもしろい主張でその是非はここでは問いませんが、いずれにせよ今後の動向次第の面はあるにせよ参入への障壁は高そうです。

F1のアメスポ化っていうのはF1が身売りをした時点からの大テーマだったと思いますが、F1本体と参加しているチームは別の主体ですからその意向も方向性も異なる。それに欧州モータースポーツマスコミも乗っかっているとなるとF1のアメスポ化の進展は難行になりそうです。

アメリカのモータースポーツファンにとってはAndrettiはオープンホイールレースの名家。さしてモータースポーツに興味がなくてもAndrettiの名前は聞いたことがあるぐらいには浸透していると思います。そのAndrettiがGMと組んだGM/Andrettiというたぶん最も純アメリカぽい組み合せが参入拒否されてしまう。そうなるとアメリカ市場でF1が人気を伸ばすとっかかりってどんな手が他にあるんでしょうか。
例のサッカーでのスーパーリーグ構想でも欧州の対米拒否感は露呈していましたしなかなか(第三者的には)おもしろいですが、当事者からしたらF1の対米親和化は難儀な作業になりそうです。


そういうタイミングで出てきたGM/Andretti陣営のNASCAR参戦発言。数年先に参入できればと言ってます。そうは言ってませんがF1進出は難しいと判断しての方向転換ってことなんでしょう。AndrettiがNASCARに進出するからと言ってNASCARの人気が沸騰するなんてことはないですが、IndyCarの名門家ですらNASCARになびくご時世になったかというのは興味深いです。それもNASCARが人気のピークだった15年前ではなく、NASCAR自体もピークの半分程度の今というのはNASCARの実力が安定したと見なされているってことか。

ESPNが国内モータースポーツ放送に回帰か

Superstar Racing Experience (SRX) の来季からの放映権をESPNが獲得、来年夏に6週間にわたってESPNで毎週木曜日にレースの放送をすると発表になっています。これが意味するところに興味があります。

時期は2023年7月13日から8月17日までの6週間。
ESPN系列は夏前の時期のコンテンツとしてはNBAとNHLを持ち、いずれも6月までプレーオフが続きます。その後は9月上旬のフットボールシーズン開幕までの2ヶ月強の期間にはMLB放送や少年野球のLittle League World Series、NBA Summer Leagueなどもありますがコンテンツが手薄な時期。そこの補強ということになるのかも知れません。

SRXというのは2021年に稼働開始した後発の短期のシーズンのショートサーキットでの四輪レース。初年度と今年はCBS系列で放送されていたものです。これを来年2023年分から放映権を獲得。CBSでは初年度が平均130万人視聴、今年は平均100万人視聴。CBSは放映権契約の更新の意向がなく、すんなりESPNに移籍となったという事情です。
CBS系列にとっては100万人程度では魅力がないと判断された。CBSは300万人を当初の目標にしていたとされますから、100万人程度では全然ダメなのでしょう。(300万人という目標は高過ぎだったと思います。大手NASCARの視聴者が地上波ケーブル混ぜて平均がそれぐらい)

平均視聴者が100万人前後のスポーツコンテンツというとプロレスでWWEに次ぐ二番手人気の新興AEWが有力ケーブル局TBSで放送しているAEW Dynamite(毎週水曜日)が80万人から100万人の間辺りで推移。放映局側はこの数字に喜んでAEWとの放映権契約を増額更新したとされますから、ケーブル局で100万人前後なら歓迎となるコンテンツもあれば、100万人じゃ全然ダメとされるものもあるということです。

さてアメスポ最大手で多種多様なコンテンツを持つESPNから見てSRXが重要なコンテンツということはまずありえない。たった6週のシーズン。モータースポーツに強いとは言えないESPNでもあり、CBSからESPNに移って視聴者が大きく増えることも想定しにくいでしょう。可能性としてはCBSの当時より下がることを想定しても良い。ではなぜESPNは積極的にSRX獲得に進んだのか。

ここからは憶測なのですがESPNがアメリカモータースポーツの最大手のNASCARの次期放映権契約に参入するために自陣営のモータースポーツ放送の能力の整備の目的でSRXの放送に乗り出した可能性が考えられると思います。現在ESPNはF1放送がほぼ唯一のモータースポーツコンテンツで、それは基本的には世界各地を転戦するF1の現地制作の映像を流しているだけです。実況アナもイギリス制作と同じものだと思われます。つまり自陣営でのモータースポーツコンテンツ制作能力はないに等しいはずなのです。それでSRX放送を自前で制作して近い将来にNASCARの放映権を得た場合に備えるつもりなのだと。

NASCARの現行の放映権はFOX系列とNBC系列が分け合っていますが、これが2024年末で契約が切れます。2025年からの新規契約の交渉は2023年中に本格化するわけですがここにESPNが参入する気があって、その準備でSRX放送を始めるのではないのかという読みです。

話が長くなるので一旦切ります。

一生に一度のスーパープレーを見られた

すごいものを見てしまいました。これはすごい。口で言ってもわからないかと思うのであとで公式のハイライトが上がったらリンクします。

NASCAR Cup戦は次週の最終レースを前にChampionship Four進出ドライバー4名(1名レース前に確定済み)を決定するレース。終盤でトップ争いと、足切りの4人目のドライバーを争う紙一重のバトルが継続。
優勝したのはChristopher Bell「20」。Bellはこのレースで勝利する以外ではChampionship Fourに進出できる可能性はこの時点で失われていました。最後のイエローフラッグでタイヤ交換のピットに入るべきかどうか判断が難しいところでしたがBellはピットへ、同じくこのレースでの勝利以外ないChase Briscoeはピットせずリスタートでのトップポジションを選択。リスタート後もBriscoeが粘るのをBellが5周残りで文字通り押しのけて首位へ。この肉弾戦は他のモータースポーツではまずお目にかかれないNASCARらしい荒さとスピードの融合。その後はタイヤの差でBellが逃げ切って優勝レース=Championship Four進出。
Bellは今プレーオフで既に一度勝たないと次ラウンドに進めないレースで勝利しており、二度までクラッチで勝ってChampionship Fourに生き残ったことになります。

これだけでもエキサイティングなレースだったんですが、すごかったのはもう一つの争いの方。ベテランDanny Hamlin「11」とRoss Chastain「1」が極わずかなポイントの差で次週の4枠最後の1枠を争う展開。ざっとの話それぞれ周りの車を1台抜けば1ポイント追加、抜かれれば1ポイント減の状況。もし同点ならChastainにタイブレーカー有り。

イエローフラッグ中のピットでHamlin陣営が手間取り順位を落としたためリスタート時ではChastainとHamlinが同じロウ、Chastainが4ポイントリード。リスタートしてみるとそれまでのレースでの調子通りHamlinの方が速い。Chastainを抜き、周辺の車も抜いて着々加点、逆転。Chastainは苦しい展開。Chastainも加点しましたがが抜けそうな手近の距離の車は全部抜いてしまっておりもう加点できなさそうな状況でファイナルラップへ。このままHamlinが通過に見えました。

そのRoss Chastainがファイナルラップの最後カーブで外壁に接触。あー無理したからクラッシュか、仕方ないよなと思ったのですが、違いました。Chastainは一切減速せずに外壁に車体をこすりつけたまま加速。そのまま短い最後のストレートでHamlinを跳ね飛ばしながら数台を強引に抜き去って5位フィニッシュ。たぶん最後のコーナーから直線だけで壁にこすりながら5台抜いたのだと思います。つまりもう尋常な手段ではなんともならないと判断したChastainが賭けに出て他の車がコーナーで減速する(当然の操縦です)中、Chastainだけは減速せずに、外壁とそのカーブに寄りかかって加速、フィニッシュラインまでに車体やタイヤが壊れてもという執念の突っ込みで大逆転を呼んでます。壁ぎわを走り去るスピードが他車と全然違って本物のレースカーのように見えない異常な追い込み。

抜かれたDanny Hamlin呆然。実況解説も「こんなのゲームでしか見たことない!」と興奮する型破りのラストスパートでChampionship Four進出決定。こんなのアリなのか、というすごいフィニッシュになってます。NASCARの歴史に残ろうかというスーパープレーですね。こんなとんでもない無茶ができるのがストックカーNASCARの特殊さですね。これ、生で見ていて良かった。

こんなことができたのはMatinsvilleというショートサーキットだったからですが、ポイント争いの状況、執念、「実際には一度もしたことはないけど夢想はしたことがあった」というChastainの機転と度胸での大逆転劇です。野球マンガなら伝説の魔球、格闘系の漫画なら幻の必殺技みたいな。
スポーツの生放送はこんなことがあるからやめられません。

危険なNEXT GEN car炎上

炎上という表現はスポーツその他でよく使われる言葉になりましたが、文字通りの物理的な炎上は怖いです。NASCARのプレーオフ初戦となったサウスカロライナ州Darlingtonでのレースの後半でプレーオフ参加中のベテランKevin Harvickの車体が事故でなく炎上。Harvickは車を停めて脱出しましたが見ていて冷や冷やする場面。

事故原因の詳細はこれから解明されていくんでしょうが、火炎が車体両側のエキゾーストパイプ付近から吹きまくり。車内も白煙で埋まりライブで見ていると怖かったです。そう簡単に燃料に引火はしないように設計はされているとは思いますが火の勢いが激しかった。Harvickによれば車内のダッシュボードからも火が吹き出ていたというんですから外から見る以上に危険な状態であったようです。この場面で車内にも炎がダッシュボードから吹き出しているのが見えますね。

NASCARでは今季から大幅に刷新された新車体通称NEXT GENが導入。現場に投入が今季からなのでどれだけシーズン前にテストは繰り返していても大小様々な問題が出てくることや、そしてそれをシーズンを通して潰していくのは想定内でありました。しかし今季第27戦のこの時期、プレーオフに入ってのこの大きな事故に繋がりかねない炎上は困る。スケジュールも詰まっている中どう対策できるか。
炎上車体から脱出したHarvickは強い不満を表明。激怒をなんとか抑えている状態でした。これでHarvickはプレーオフで最下位発進確定。NASCARのプレーオフは当初16名が3レースごとに4名ずつ振り落とされる仕組みです。

エキゾーストパイプがサイドに出ているのは新車体NEXT GENのデザイン上の目立ちます。高熱を発するエキゾーストと室内は断熱完全分離設計にはなっていたはず。
但し今季既にエキゾーストが外部から衝撃であるべき位置からはずれる事故が発生済み。その時はその部位で熱がたまり室内にも高熱が感じられ、耐熱ブーツを通してドライバーが高熱を感じる危険事態となってます。その後対策としてエキゾーストパイプに新たなガイド部品が追加されたという経過がありました。
また今日同じ部分(たぶん)で別の問題が噴出したことでシーズン中の付け焼き刃の対策だったという評価になってしまう可能性も。Harvickの言葉を借りれば「彼ら(NASCAR運営)は何も対策してない」。

それ以外でもドライバーたちからNEXT GEN車体は事故が起こりやすいなどと不評が出ており(先週の多重クラッシュ後にも)全体としては評判が良いとは言い難い。Harvickも以前からNEXT GENの現状に批判的だった。

昨年まで使用された旧車体は曰く「1970年代80年代当時の最高の技術で作られていた」らしいモノ。枯れた技術で作られていたので問題は出尽くしていた面はあったんでしょうね。そういうところからバグ出しの必要なNEXT GENにドライバーたちの不満が出るのは必然か。
とは言え今の時点で車体が50年前の技術に戻ることは絶対にありえない。来季前のオフシーズンにがっちり対策するはともかく、今はなんとか付け焼き刃でもなんでもプレーオフをこなしていくしか道はないわけです。27戦を戦って今回始めて起こったタイプの不具合なので、残りの9戦でそれが再発することがないこと、今日以上の危険な事態が起こらないことを希望するしかないです。
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