今回のAaron RodgersのGreen Bay Packersからの離脱問題における特殊性はPackersには単一のオーナーがいないことが関係しているという点を考えてみます。

アメスポプロスポーツでそのチームのスーパースターが事実上監督のクビを切った事例はいくらでもあります。組織上は一選手にそんな権能はなくても実際にはこれは起こっていることです。それよりもう一つ上のGMであるとか社長であるとかいう背広組が更迭される際にスーパースターの意見が強く反映されている場合もまたあります。
なぜそんなことが起こるかといえばスター選手こそがファンが支持する対象であり、チームを勝たせているのは看板選手であることが否定し難い事実であるからです。スター選手と真っ向から勝負して追い出して、そのまま居残れるようなGMであるとか監督というのはそうそうない。よほどそのスター選手の側に問題があるという報道が行き渡らないと、その選手を追い出したは良いが勝てなくなって結局監督やGMのクビが危なくなることには変わらない。
これがあるためフランチャイズが勝てるか勝てないかを左右するような選手は監督以上、GM以上の実質上の立場を占めることが可能になるわけです。

しかしいかなるスーパースターも超えられない存在があります。オーナーです。NFLで言えばかのRaidersオーナーAl Davisであったり、今のDallas CowboysオーナーJerry Jonesであったりといったアクの強いワンマンオーナーはもちろんのこと、普段あまり表に出てこないKansas City ChiefsのHunt家やPittsburgh SteelersのRooney家であったり、この存在はそのスーパースターであっても絶対に超えられません。

絶対というと言い過ぎかな。NBAのCleveland CavaliersのオーナーがLeBron Jamesのご機嫌取りに終始したような事例もありますから。ただそれでも監督やGMは追い出し可能でもオーナーの追い出しは不可能であるという意味では絶対ではあるでしょう。いま欧州サッカーでGlazer家がオーナーから去れとファンから圧力を受けてますが、それはファン対オーナーであって、選手対オーナーでは勝負になりません。


例えば昨年オフにTom Bradyが20年を過ごしたNew England PatriotsからFAになった際、Robert Kraftオーナーが最終的にFA→流出やむなしの断を決定しています。Kraftの意向はBradyにPatriots所属のまま引退して欲しかったわけですが、Bradyの現役続行の意思が固く数年がかりの説得を断念してます。
Bradyの放出前にはBradyからJimmy Garoppoloへの代替わりの決断もありました。Patriots、特に現場のHC Bill BelichickはJimmy Gへのスムーズな正QB移譲がベストの判断としていたとされますが、そこをKraftオーナーが裁断、長年バックアップで暖め育てたGaroppoloを放出、Brady時代継続で決着しています。その判断は絶対であり最終的です。

現在はアメスポフランチャイズの価格が高騰しているため、個人の資産で買い取れるものではなくなっています。そのため複数のオーナー企業や投資グループが組んでフランチャイズを購入する場合が多い。その結果新しめのチームオーナーは1個人にオーナー機能が集中せず複数の意思を確認しないといけない面があるのですが、20世紀に所有権が確立したチームではほぼ一個人、一家族にその絶対の権利があり、どんなスーパースターでもオーナーを追い払うことなどできません。オーナーが失脚するのはNBA Los Angeles Clippersのオーナーが人種差別言動で追放されたケースぐらいでしょう。よほどの反社会的な不祥事でもないとオーナーと戦うなど無駄なことです。


ところがGreen Bay Packersではそうではない。Green Bay Packersには36万人のオーナーがいます。本拠地での試合はしばしば「Packersのオーナー集会」などと表現される。単一の個人オーナーも、オーナー企業ですら存在しません。上で述べてきたようにファンとオーナーは対立する可能性がありますが、Packersに関してはそうはならない。ファンとオーナーが一体化しているからです。

このことはPackersのスーパースターの地位を他のアメスポチームのそれとは違うものにすることになります。つまり選手であっても背広組であっても誰もが解雇されて組織から放逐されうる、絶対的な存在のいない組織であるということになります。スーパースター選手がファン=株主の支持を受けて最強の存在になりうるということです。

BradyをPatriotsが放出した場合にはJimmy Gの処遇も含めて長いKraftの舵取りがあって、その経過も含めてKraftが全決断を取り続け、最終的にBrady放出不可避となればそれと早い段階で決断してBradyに自由を与えました。例のBradyの豪邸が最終年の早い段階で売りに出された件から考えてその決断はかなり早い段階でなされていて、Bradyとも腹を割った話し合いが持たれていたことが示唆されます。

これがPackersとRodgersの場合になると、昨年のドラフト当日にRodgersに一切話が通っていなかった新QBの1巡目トレードアップでの指名が行われた。Rodgersが大いに組織に不信感を持ったのは想像に難くない。
今年のドラフト初日にRodgersがPackersでもはやプレーすることはないという情報がリークされましたが。昨年の新QBサプライズ指名への報復でこのタイミングなのでしょうが、その後Rodgersからは「自分はPackersもファンも愛している。ただ我慢のならない役職者がいる」という話が付け加わってます。これはスーパースターRodgersと、背広組の闘争で、その支持をファン=オーナーから取り付けようとする公開闘争の様相です。個人オーナーと違って明日にも意思決定をして反乱選手をトレードするなり、役職者を更迭するなりという動きはとれない。長引きそうです。

PatriotsとBradyの場合には都合の良いことにBradyのPatriotsでの最終年の成績はふるわず、さずがのBradyもいつまでも最強ではないというムードが作られていた。対してPackersは2年連続NFC優勝戦進出、そしてRodgersはMVP獲得。前年にPackers首脳陣はRodgers後に踏み出していたのに、フィールド上ではRodgersが最強のままです。それゆえRodgers側は自分が勝ってPackersに居残れる可能性があると読んでるのかもしれないわけです。