Super Bowlが終わると次のアメスポメジャーイベントは一週間後のNASCARのシーズン開幕戦にしてシーズン最大のレースDaytona 500となります。

23XI Racingという新興チームが今季からNASCARのトップカテゴリに登場します。読み方はtwenty three eleven です。メインオーナーは元NBA Michael Jordan、共同オーナーは現役NASCARドライバーのDenny Hamlinです。契約ドライバーはNASCARトップカテゴリの唯一の黒人ドライバーBubba Wallaceのみ。カーナンバーはもちろんという感じで23番です。

チーム名の23は言わずもがなのJordanのNBAでの背番号から。XIの方はHamlinが現在乗車しているJoe Gibbs Racingの11番からと推測できます。Hamlinは2019年2020年とDaytona 500を連覇して、もし2021年も勝って3連覇となればNASCAR史上初。昨年2020年シーズンはプレーオフの最後の決勝レースに敗れて4位扱いですが、シーズン中は毎週のようにトップに迫るレースを連発した現在のNASCARのエリートドライバーのひとり。

Jordan、Hamlin、Walleceというメンバーでのこの新チーム結成が発表されたのは2020年9月。いまとなっては米国内ではあまりお目にかかれなくなったBLMつながりのチームと言えるのでしょう。黒人オーナーのJordan。黒人ドライバーのWallace。昨年NASCARが南軍旗の持ち込みを全面禁止にしたときに積極的に発言したのがWallaceでした。そしてHamlinは白人ですが昨夏にBLMが政治的なうねりになる前から人種間の融和に積極的に発言していたNASCARでは少数派の選手。この3人が組んで全米が揺れていた昨年9月の段階でこの新チームを作るという発表だったのですから、政治色を出そうとしなくても見る側が勝手に連想してしまう感じだったと思います。Hamlinの政治的な性向を知ってる人はNASCARファンでもないとそれほどいないとは思いますが。

23XI Racingの車体提供はToyota。Hamlinの所属先のJoe Gibbs Racingが技術提携でサポートもするようですから、一応別組織でオーナーのMichael Jordanを目立たせていますが実態はJoe Gibbs Racingの友好別組織みたいなことになっているのかもしれません。
尚Joe Gibbs RacingのオーナーのJoe Gibbsさんは元NFL Washington RedskinsのHCとしてSuper Bowlに4度登場3度制覇も成し遂げているすごい方です。NFLのコーチ職を引退してNASCARのオーナーに転身したという変わった方です。

NASCARも下のカテゴリに行くと南部コテコテの昔ながらのディープサウスの荒くれ者のようなドライバーもまだ残っているようですが、NASCARのトップカテゴリーであるCup戦はそういう露骨なドライバーはもういません。NASCARがビッグビジネスになっていく過程でそういうドライバーや関係者は消えていきました。NASCARがビッグビジネスになるためには一流企業のスポンサー契約が絶対に必要で、それらの優良企業の上層部に眉をひそめさせるような言動の選手ではNASCARの成長に逆行する存在だったからです。

23XI Racingのチーム結成の発表は昨年9月ですが、いくらお金持ちのJordanとは言ってもBLMが燃えているからという理由だけでNASCAR参戦をいきなり決められるわけはなく、きっとずっと以前から興味を持って参入を検討していたはずです。

JordanとNASCARをつなぐ線としては2つぱっと思いつけます。まずは地縁ですね。JordanはNBA Charlotte Hornetsのオーナー。NASCARの本部はCharlotte市内ですから、なにかと交流があってもなんの不思議もない。
もう一つはNorth Carolina大時代にJordanのチームメイトだったBrad Daugherty(元Cleveland Cavaliers)がNBA引退後にNASCAR好きが嵩じてNASCAR放送のレギュラースタジオ解説者になり、JTG Daugherty Racingの共同オーナーにもなっていたこと。昔から気心の知れたDaughertyが(全然勝てていないものの)小規模チームのオーナーをやっているのでNASCARの小規模チーム経営の内情は忌憚なく詳しく聞いていたはずです。DaughertyはNASCARがまだ南部の人気を中心として全国区のメジャースポーツになりきれていない時期に唯一の黒人解説者として重宝された人でもあります。DaughertyがNBAでプレーしていた時代のCavaliersは東カンファレンスの好チームでプレーオフ常連、プレーオフでJordanの格好の切られ役でもありました。

知名度抜群のMichael Jordanの参入はNASCARにとっても大歓迎のようです。NASCARは既にアメリカのモータースポーツで最大の組織ではあるもののマーケットはほぼアメリカ国内限定で、かつ米国内でも人気のある地域が偏っています。アメスポ全体のジャンル別順列だと7−9位程度。そこに正真正銘のアメスポのスーパースターが参入することでのアメスポメディア内でいままでなかった形の露出アップが期待できるし、うまくすれば米国外にNASCARが露出するチャンスも発生しうるだろうというわけです。

シーズン前のインタビューでは23XI RacingのドライバーBubba Wallaceは2021年シーズン中に2勝するのが目標だと語ってます。Walleceは最上位のCup戦で4年戦い未勝利。2020年シーズンドライバーランクで22位。第2カテゴリのXfinity Series時代も未勝利なので、正直言って黒人であることで目立って名前が知られているけれどドライバーとしての実績はCup戦下位の選手です。

しかしJordanのような超負けず嫌いな人がオーナーとして参戦。Daughertyのところのように何年やっても勝てないとか、年間22位とかで我慢できる人とは思えません。オーナーとして参入してすぐのマスコミ応答でも「今すぐに勝ちたい」とマジ顔で答えていましたし。Jordanの話題性であっという間に揃えてきたチームスポンサーからのカネをサポートスタッフ獲得にもつぎ込んでいるようです。

NASCARの現行の仕組みだとレギュラーシーズン中に1勝でもすればほぼプレーオフにはたどり着ける。あの超負けず嫌いのJordanさんではプレーオフにたどり着けただけは満足はしないかもですが、とりあえず初年度はそれが目標ですかね。

なんて書きましたが、よく考えたらJordanの今の本職と言うべきCharlotte Hornetsの運営も全然鳴かず飛ばずですね。Hornets購入以来(購入当時はBobcats)最高東6位、プレーオフ到達は3度だけ、プレーオフシリーズは3度とも一回戦敗退、それも2度はスイープで敗退してます。ということはNASCARですぐに結果がでなくて腹はたっても我慢できる修行はもうできてそうですね。