以前にNFL Washington Redskins 現Washington Football Teamの改称問題について書きました。その後MLB Cleveland Indiansも2021年を最後にIndiansの名称使用を終えると発表しておりその方面の話題が現在も継続していると言えます。
別項でご質問もいただき、最近それについては書いたばかりのような気がしたのですが、実際はRedskinsのときの記事のコメント欄で書いていただけだったので、今回まとめてこの問題について記事を書いておこうかと思いました。記事は検索可能ですが、コメントは検索対象外なので。

過去大量にあった北米先住民族をモチーフにしたスポーツチーム名が減っている件ですが、抗議を受けて廃止する、というだけの通り一遍の理解ですとどれがOKでどれがダメかの理由がわからないと思うので、どういう思考経路でダメ出しがされているのかを私の理解を記しておこうと思いました。抗議の説得力の差別化と言っても良いでしょう。

話が回りくどくなりそうなので先に別項でご質問いただいた件に先に答えてしまいますと、私の知る限りNFL ChiefsやNHL Blackhawksへの名称変更への圧力が現在強まっているという認識はありません。
但しCleveland Indians、Washington Redskinsという一番問題の大きそうだった2チームが陥落・名称変更に舵を切ったことで次なるターゲットとしてChiefsやBlackhawksが格上げになっていく可能性はゼロではないでしょう。そうなった場合でも回避方法はあるように見えますしIndiansやRedskinsが浴びたような批判の高まりにはならないのではと思えます。IndiansやRedskinsの場合は回避しようがなかったかと。あとは現在進行形の政治の風向きとの絡み、ホームのある土地柄との関係など不確定要素はあると考えるべきでしょう。


Indiansがダメだった理由はわりとはっきりしていると思います。先住民族を意味するIndianという言葉が不適切と一般に認識され、Cleveland Indiansのチーム名以外でそれが使われる機会は現在のアメリカ英語ではまったくなくなってしまっているからです。死語だからです。
「インドの」という意味ではいまも英語として存在してますが、Cleveland Indiansがその意味ではないことは明白です。

なぜ死語になったかというと、日本でもご存知の方が多いと思いますがコロンブス始め17世紀の探検家入植者たちが北米に到達、西廻りでアジアに到着したという誤認から北米先住民族をIndianと呼んだというのがその語源で、そもそもが錯誤なわけです。錯誤なのに侵略支配側の無知無反省でこれがはびこったままになった、という理屈ですね。これを他のChiefs、Warriors、Bravesなどと同列には考えられない、より悪質ということになります。私には理屈の通ったクレームであるように聞こえます。よってチーム名変更もやむなしという方向かと。馴染みのあるチーム名が消えるのは残念な部分ももちろんあるのですが。

さて、Indiansとの比較でChiefs、Warriors、Bravesと並べました。これらはどれも先住民族をモチーフとして命名されたチーム名です。しかしながらIndiansとは異なり、これらの単語自体の意味するものは先住民族である必要がありません。その昔ならChiefsは日本語で酋長と訳されたでしょうが、酋長という言葉自体死語ですよね。現代英語の普段使いでChiefという肩書は広範に使われているものなのでその名称自体が問題になるIndiansとは意味あいは大きく異なります。戦士Warriors、勇士Bravesについても同じでしょう。元々は先住民族モチーフなのは事実でも、名称自体は一般的な名称です。
Chiefsは石の矢尻のロゴを使用中なので先住民族モチーフから離れられていない。Bravesも石斧がロゴに添えられていますので同じく先住民族モチーフなのは明らかです。しかしこれがWarriorsになると、先住民族ロゴから早い段階で離れているためその名称が先住民族由来だと認識している人は少ないはずです。Warriorsが創設時のPhiladelphia Warriorsであった時代のロゴはこんなのです。
warriorsoldlogo
紛れもなく先住民族モチーフだったわけですが、西海岸に移転した時期に別のロゴを採用して長年が経過しており、現在のWarriorsがそういう由来であったとほのかにでも感じられるのは場内での観客のチャントぐらいでしょう。Golden State Warriorsが名称変更要求の対象になっているという話は私は聞いたことがありません。
ChiefsやBravesについてはIndiansやRedskinsとは抗議のレベルが違うなりにも否定的な見解があると認識しています。矢尻や石斧とセットなところに先住民族が未開であるとか暴力的であるとかというイメージ付けがされているとクレームがつきうるわけです。
逆に言えばWarriorsがやったように名称は残して先住民族を連想させるものを削ぎ落としてしまえば良い、そうすればチーム名変更は免れるということになります。Bravesの新しめのマーチャンダイズだと石斧抜きの「A」のロゴになってるものが多いはずで、徐々にその方向への準備かなと思えるフシはありますね。

別のタイプの先住民族モチーフのチーム名としては、BlackhawksとかSeminolesは部族名そのものというパターン(Blackhawksは英訳ですが)。部族名そのものですからそれ自体が侮蔑的であるわけはない。但しBlackhawksだとロゴにやっぱり石斧が入ってるのがどうかなという部分でBraves Chiefsと同様の問題が若干あり微妙な面も。名称の英訳を使用というのも微弱ながらクレームの付きうるところですが、全体としてはネガティブな要素はかなり少ないように私には見えます。よって名称変更圧力はBravesやChiefsよりは薄いと想像できます。
ただしもう一捻りすると場所がシカゴなのがどうかなと。Chicago市というのは政治的にはリベラルと保守の対立はかなり激しく、しかしながらリベラル優勢という土地柄というのが私の認識です。市長と市警が厳しく対立している代表的な都市でもあると思います。
Blackhawksという名称自体は強い批判対象ではないけれど、地元Chicagoの市民感情・政治的な傾向を慮ってチームが率先して変える可能性はゼロじゃないかもなーということは思います。この辺になってくると別の問題が混じってきていて議論が純粋じゃなくなってくるので最終的にどうなるかわからない。


他の話としてそれらのチームが会場内の応援での先住民族の闘争の雄叫び(だとステレオタイプに理解されている)例のおーお おおおー という掛け声とそれを煽る場内放送辺りをどう考えるかというのがソフト面で批判を浴びやすいところです。BravesやSeminolesの応援ではこれは絶対欠かせない要素になってると思いますが、これはどうかなということになります。これも矢尻・石斧と同じく未開野蛮暴力的というイメージ付けとの批判を浴びうるところでしょう。