ひょっとしたら日本では好意的に報道されているのかもしれませんが、NBAのシーズン再開に先立ってWashington Wizardsが実質的にシーズン放棄しています。日本のメディアにとってはWizardsとはRui Hachimuraの所属先という以上の意味がないチームかと思います。

Wizardsはプレーオフ圏内まで5.5ゲーム差の東カンファレンス9位としてシーズン再開に臨む予定でしたが、再開を前にチームの抜群のエースだったBradley Bealが参加しないことを表明。その前にチーム2位の得点源だったDavis Bertansも出場しないことになっていました。2019−20シーズンを全休中だったJohn Wallも出場する気はさらさらなく、よって今季のスタッツ上はRui Hachimuraが実際にプレーする中では最も得点力があることになります。
8位まで5.5ゲーム差と書きましたが、今年の特別ルールで参加各チームが8試合のseeding gamesを行った後の時点で8位と9位の差が4ゲーム差以内ならPlay-inで8−9位の直接対決で決着をつける方式なので、8試合で2ゲーム縮められればPlay-inゲームにたどり着ける。Wizardsに十分チャンスのある特別ルールなのに、始まる前からWizardsの主力が追撃を放棄した状態です。


Hachimuraはカレッジ時代も周りの選手には恵まれていた選手です。Gonzagaで一番のプロ有望選手として注目はされていましたが、粒の揃ったGonzagaでは相手チームはHachimuraに的を絞って守るということはできない中で好成績を残してきた選手です。今季プロ入りしてからも新人にしてはという注釈付きでは立派な成績(13.4点、6.0リバウンド)ですがある意味カレッジ時代と同じでガツガツ自分が点をもぎ取るという姿勢ではないプレーぶりであったでしょう。シーズン中にエースのBealの発言として聞こえてくるHachimura評でももっと積極的に行けというものがしばしばありました。これはGonzaga時代にコーチから虎になれと叱咤されていたのとたぶん同じニュアンスの評価と言っていいはず。
この辺はメンタルというよりは素の性格という感じすら受ける問題なので改善するかどうか危ぶまれるところ。どこかで自分の双肩にチームがかかっている、自分がエースで引っ張る局面が出てこないと、どうかなと言うイメージはかなりありました。

そんなHachimuraに主力選手の離脱でエースの立場が急にここへ来てまわってきたことになるわけです。これは絶好の試練の機会と言える、という風に見ればこれはHachimuraにとっての大チャンスという報道もあり得るだろうなあというわけです。可能性としてはHachimuraがNBAチームのエース格で試合に臨むキャリア唯一の機会となる可能性だってあるのです。

現実には2ゲームを縮められないかもしれない。縮められればOralando MagicとのPlay-inのサシの勝負。もしそれも勝てれば東1位フィニッシュ予定のMilwaukee Bucksにプレーオフ本番一回戦でスイープされてシーズン終了という具合になると思われます。もしBucks相手にHachimura率いるWizardsが1勝でもできれば大成功でしょう。これが可能な最善の結果でしょう。
試合平均30点以上を叩き出していたBeal離脱でseeding gamesで惨敗してしまう可能性もまたある。たぶんその可能性の方がずっと高い。Hachimura個人がどうであれ周りが既にやる気を喪失している可能性もありますからね。そういう中でHachimuraが周りの選手を鼓舞してなにかやってのけられればこれからの8試合もキャリア上意味のある試合になる可能性もありますが、その試練にどう立ち向かうか、糧とできるかどうかの勝負と言えそうです。


どうせ最善でもプレーオフ一回戦にボロ負けコースというWizardsの場合はともかく、シーズン再開前・シーズン途中に戦いを投げてしまうチームが出るという事態は困ったものです。NBAの1位対最下位のプレーオフ一回戦ほど予想が覆りにくい状況は他のスポーツでは少ないとは思いますが、それでも優勝の望みが失われたチーム主力選手から離脱者が続出するという状況はMLBでもMLSでもこの先ありうる話です。今季の特例としてリーグと選手会の話し合いで疫禍懸念を理由の離脱をする選手への罰則はないことになっているのがほとんどのリーグなので、先の望みが失われるとチームがガタガタになっちゃう可能性は否定しきれません。NHLは直接プレーオフに入る仕組みで、どのチームにも勝ち上がるチャンスはNBAと比較にならないぐらい現実的にあるので選手の自主離脱は少ない可能性を感じますが。