国内プロリーグであるMLSは今年も3月上旬に開幕。「Our Soccer」を売り文句に番宣を展開しています。Our Soccerというこの短い語句の中にさまざまな苦悩や決意が現れてる気がします。

過去MLSはサッカー好きの多いヒスパニック、特に在米メキシコ人を取り込むべくさまざまな施策をほどこしてきました。その最たるものがChivas USAの設立だったわけです。メキシコの人気サッカーチームChivas Guadalajaraの名を借りて2004年にチームを設立。Guadalajaraの姉妹チームとして売り込んだんですね。そうやってLos Angeles近郊に多い在米メキシコ人の取り込みを狙ったのですが、結果は失敗。失敗の要因はいろいろあったんですが在米メキシコ人に浸透できないままで動員不振。2014年にチーム解散の憂き目に遭ってます。
リーグ設立から四半世紀を経てMLSはヒスパニックをターゲットに浸透するのは諦めてOur Soccerとして非ヒスパニックに舵を切ったことに。現状狭いマーケットですがそこを裾野を広げるべくコツコツ開発することになります。

Our Soccerというぐらいですから、その対比として「Their Soccer」もあるわけです。

MLSにとってのアメリカサッカー業界でのTheir Soccer、つまり一般的な意識で言うところのアメリカ人とは違う人達に支持されているMLSの競争相手は、ヒスパニックが熱狂するメキシコ代表やLiga MX(メキシコ国内リーグ)だけではありません。英Premier League(EPL)もMLSよりも高い視聴者数をコンスタントに出しています。ヒスパニック編で触れた非ヒスパニックの1/3しかいないサッカー視聴者のうちさらにその多くはMLSではなくEPLを見てるわけです。

EPLが本格的に配信家庭数の多いチャンネルで放送されるようになったのはどうでしょうここ6-7年ぐらいのことです。それがあっという間に四半世紀コツコツ放映を続けてきていたMLSを抜き去っていってしまいました。MLSが長年かかってもできなかった地上波での定時放送もEPLがあっさりやってのけている。英国とは5〜8時間の時差があるので東部時間でも午前中の放送、西海岸だと夜明け前の放送だったりするのにMLSよりずっと良い視聴率の数字を出してしまうのですからMLSとしては悔しいところでしょうが、しかしそれが現実なんですね。Their Soccer強し、というわけです。

他にもTheir Soccerには上はUEFA Champions Leagueがあり、下は中南米各国のサッカーも米国内では見られます。移民の多い都市だとペルー人向けチャンネルだのコロンビア人向けチャンネルだのと国ごとに細分化されたチャンネルがケーブルTVで多数提供されていてそれぞれ週末になるとその国のサッカーの試合を放送していたりするのです。強敵難敵競争相手は多い。

そういう移民国家ならではの事情がある中、MLSがOur Soccer、アメリカ人のためのサッカーリーグとしてどう人気を伸ばしていくのかは実はアメスポのメインストリーム内でのサッカーの地位上昇にとってはより重要なのだと思っています。移民国家と言えども二世三世と世代が下ってゆけばどんどんアメリカナイズされていくのは自明だからです。
Seattle Sounders、Atlanta United、そして今季参入のFC Cincinnatiと地元の支持を得て3万人クラスの動員ができるMLSチームが徐々に増えてきたことはOur Soccerとしてサッカーというジャンル内で地位を向上させていく過程として大いに注目すべき点かなと思われます。


MLSの放送も進歩してきているんですよ。昔に比べたらカメラマンもわかってきているなぁと思われるところがあります。最初期の頃はカメラが必死にアップでボールを追うばかりで、なにが起こってるのかまったく見えないひどい代物でした。どう見ていてもさっぱりわからない。最近は試合の流れに沿ってスムーズにズームが切り替えられて対人をアップにしたり陣形を見られる画角になったりと、ああこのカメラマンは明らかにサッカーがわかっていると納得できる番組になってきてます。そういう変化はあまり見ない方には感知しにくいでしょうが観戦文化の熟成として歓迎したいところです。他のアメスポ人気各種でもそうやって徐々により見やすい番組を作ってきたわけで、サッカーもそういう段階に来たんだなという。