ホッケーNHLの延長戦が3人対3人の方式に変わったのが2015−16シーズン。今季が4シーズン目。採用当時はまさに文字通り右往左往の攻守が数秒単位で入れ替わるスピード重視の激戦の延長戦が多かったのが、採用から年数を経て戦術が確立してきたのを感じます。

まずオフェンス側がパックを長時間保持する場面を多くみかけるようになりました。ホッケーは打ちモノですから通常のプレーではよほどディフェンスから距離を取って遠回しにパスをしていないことには長時間ポゼッションキープはできません。ちょっとディフェンスからちょっかいをかけられるとパス回しなど簡単に崩れる。
ところが3-on-3だとこれができるんですね。通常の5-on-5や過去の延長戦で使われた4-on-4ではパワープレーでもなければありえなかったプレーを3-on-3で意図的に採用するようになってそれで1分以上のポゼッション維持がされるのをみかけます。
どうやるか。攻撃側がパックを持ったままアタッキングゾーンから撤退するのです。ホッケーのルールではオフェンスゾーンからパックが出てしまうと自軍の全員が一度アタッキングゾーンから出ないといけない。通常ルールの5人攻撃でこれをやると何人もの前衛の選手がゾーンから出るべく後退しなくてはならず手間かつ消耗となるのですが、3人の場合、ブルーライン近くでの横パス(=攻撃側の3人のうち2人が参加)を通してもなおディフェンスの圧力がかかりそうな場合、最近の試合ではさっさと自らアタッキングゾーンから離脱して大きくパックを下げます。3人で守るディフェンスはこれを深追いできず、オフェンス側は悠々とポゼッション維持となるのです。このポゼッションキープの手は3-on-3を採用した初期には見られなかった最近の特徴ある戦術かと思います。

またその場合に前衛に行っていたもうひとりのオフェンスの選手がさほど慌てずもどってくるのもミソです。その一人は一旦アタッキングゾーンからでないと味方からのパスは受けられませんが、だからと言ってディフェンスはその選手がブルーラインを出てすぐのところでパスを受けるのも怖いのでディフェンス3人はブルーライン近辺で足止め、それより先には上がりづらい。上で言ったディフェンスが下げられたパックを深追いできない理由がこれでしょう。

さらに気の利いたチームだとこんなこともしてるの見かけます。特にアタッキングゾーンに近い側が自軍のベンチの場合にこのプレーは効果的。前衛から戻ってくる選手が自軍ベンチ方向に向かう。交代するようにも見える感じで。これをやられるとディフェンス側はベンチ前のところにどうしても張らないといけない。ただでさえ3人しかディフェンスがいないのに一人がベンチ壁際で相手選手2人(交代するのかもしれないアイス上の選手と交代して出てくるのかもしれない選手と)をマークしているとブルーラインはスカスカに。一旦下げたパックを持った攻撃陣が2-on-2の様相でアタッキングゾーンに突っ込んでくるのを防ぐのはなかなか困難、というような攻防を今季になってから何度か見ました。

3-on-3採用初期はスピードに乗ってテクニックのあるスター選手たちがスペースを生かしてそのスキルを発揮して鮮やかなゴールを決めてその爽快感がスマッシュヒットとなった3-on-3ですが、年数を重ねたことで各チームの対策が進んだということなんでしょう。以前のような一瞬も目を離せない延長戦、延長戦歓迎というようなものからは変わってきたようです。成熟してきたとも言える。
それぞれがルール内での最適解を求めて戦うのがスポーツなのでプレーする側にとってはそれで正しいのでしょうが、無責任に見る側からすると初期のハラハラ感は減ったということになります。