日本のバスケファンと話していてHachimura選手のNBAへのアーリーエントリーの話で、私が「カレッジに残ると練習する時間が制限されるから、プロになった方が良い」ということを言うと不審顔をされることがあります。不満げに「カレッジに残った方がていねいに面倒みてもらえる」などいうことを言う方すらいます。練習時間が制限されると私が言うのは学業が忙しいからとかそいういうレベルの話ではありません。NCAAのルール上オフシーズンにはほとんど指導を受けられない、実戦練習ができないからです。その辺りがまったく理解されていないかと思いますので、今回はまずNCAAの練習時間の制限のルールを説明してみたいと思います。

まず資料としてNCAAの公式サイトで提供されているこちらをご覧ください。英語ですので以下で概略を説明します。詳細は元資料でご確認願います。
まずざっとの話ですが、シーズン中とそうでない時期の活動時間の制限が大きく異なります。シーズン中はチーム全体での練習が週20時間まで許されます。シーズン外では週8時間以内で、8時間のうち個人のスキル指導は2時間を超えられない。また個人指導は選手4人以上参加での練習を指導することはできません。つまりチーム全体での練習は不可。バスケで言えば2対2の簡易ゲーム形式は可能ですが、チームオフェンス、チームディフェンスの練習は(相手を非現役アスリートのアシスタントなどが担当するにしても)選手を5人以上をコートで指導することは違反行為です。この時間制限には筋トレ、フィルムセッション、ミーティングの時間も含まれます。選手たちによる自主練習は可能ですが、それにも厳しいルールの制限があり、コーチなどスタッフが立ち会うことは許されません。指導するしないの如何を問わず、です。

Hachimura選手の実例でいうと、今季序盤、Hachimura選手のディフェンスでの動きはチームとの連動が取れず苦労していましたね。それがシーズンが進むにつれてどんどん向上していきました。上記のNCAAルールを理解していればオフシーズンにチームの連携練習の機会がなかったのが機会を与えられたら一気に上達したんだな、と理解できますが、逆に言えば春夏の半年間、まるで上達の機会がなかったのだという意味でもあります。もし大学に残るとすればそれと同じことがこのオフシーズンにも起こるのです。Hachmura選手が伸び盛りの今、そんな無駄な時間を過ごすことを望むファンがいるというのが私にはよくわからないわけです。ルールが理解されていないということであろうと想像します。

以前にアーリーエントリーをお薦めした記事を書いたときにも記事内およびコメント欄でいろいろ指摘しました。もうプロになる・なれるのが確定的な選手がなぜNCAAの強い制約を受ける練習環境を選ぶべきなのか。現在のHachimuraの場合1巡目指名も十分に期待できる。ということはほぼ複数年契約が確実です。一旦契約金さえ得てしまえばオフシーズンでも自分で各種技術の専門家を雇ってレベルアップを図ることができる。それにはオンコート上のプレイの指導以外にも栄養指導、体作り・メンテの専門家を含みます。シーズン中なら自分で雇うまでもなく多数のスタッフがプロチーム内にいます。カレッジに残れば同僚選手との自主練という名のピックアップゲームと、一人で体育館で3ポインターやフリースローを投げ続けるのがほぼ全てです。他の選択肢がない。一人で投げ続けることが向上につながることもあるでしょうが、専門的に見たら非効率な投げ方をしていたとしても矯正指導してくれる人のいない練習が良いことでしょうか。他にやりようがないならともかく、プロになってよりよいリソースを利用しながら上達を目指すのが正しくないでしょうか。または栄養面でもプロの最先端の研究成果を試して身体を作る方がキャンパスの隅っこでピザをかじっているより大事に思えます。

あとカレッジとプロでは戦術が大いに異なります。Gonzagaはバスケの名門校ですが、Gonzaga流のオフェンスやディフェンスをマスターすることはNBAでのキャリアにとって意味があるのかというとたぶんそんなことはない。もっと有り体に言うと回り道であると言っても良い。さらに悪いことにGonzagaはマイナーカンファレンス所属です。今季WCC、来季場合によってはMountain West所属に変わる可能性がありますが、いずれにせよGonzaga以外にNBA級の大型選手を獲得できるようなバスケのエリート校は他にいないカンファレンスです。メジャーカンファレンスで将来のNBA級の選手を相手に切磋琢磨できるというような状況ではないので、この面でもプロになった方が良いかと。

いまのままではプロで通用しないという意見はもっともですが、NBAドラフトは各チームとも即戦力を求めていません。即戦力になればいいですが、ほとんどはルーキーに経験を積ませて数年後にスターになってくれそうな選手、その可能性も求めて指名するのです。

ところでもしHachimuraがカレッジに残った場合、3年生としてエントリーすることになりますが、NBAドラフトで3年生でエントリーして活躍した例があるのかどうかをご存知の上でもう一年カレッジに残れと言っている方は残留を勧めているんでしょうか?私にはとてもそうは思えません。実際そんな例はめったにないのですから。
2017年のドラフトの例だと3年でエントリーしてプロで即戦力になったというとUtahからLakersに行ったKyle Kuzmaがいますが、Kuzumaは全体27番目指名です。現在予想されるHachimuraのドラフト順位はそれより早い。Kuzmaの場合は2年生のときの成績ではとてもアーリーエントリーなんて無理だったから3年生になったわけですね。2年生の現在既に1巡目指名が見込めるHachimuraとは意味が違う。他ではNorth Carolinaから行ったJustin Jacksonが3年生でエントリーしてますがこちらはプロルーキーシーズンの試合平均得点6.7点、即戦力だったかというとギリギリですか。その前年2016年ドラフトだと全体5位と高順位でKris Dunnがジュニア=3年生として指名されてますが何もできてない。DeAndre' Bumbryも同じで1巡目指名でも即戦力には程遠い。
2年でドラフトされそうなのに敢えて3年まで待ってNBAで成功した選手の例がほとんどないのになぜやたらとGonzagaに残れという話になるのかさっぱりわかりません。1年余計にカレッジにいてカレッジでよりいい成績を出したところでドラフト順位も上がらないし、プロで即戦力になるということもないのです。おしなべて言って3年生でエントリーしてくるような選手にはその程度の才能レベルの選手しかいないのですから。Hachimuraがもう一年カレッジに残って活躍してカレッジ選手としていい格好できたところで自己満足というかファンのファン満足だったりするだけで、選手本人のプロでの成功には貢献しないのです。そして来季のカレッジでの成功もまったく保証されてもいません。
「プロで通用するまでにはまだやるべきことがある」まったくその通りですが、やるべきことがたっぷりある若い選手がドラフトの上位のほとんどを占めていることに反対している方は気づいていらっしゃらないのか?と困惑します。たぶん他のドラフト生のこと、ドラフトそのもののことをまったく知らないで反対しているんじゃないかと疑いたくなります。能力の向上はカレッジにいてもプロになってもやること。プロの方がより環境が良いはずです。(お金が転がりこんできて有頂天になって遊んじゃうような選手なら何年後にプロになっても同じことです。成功しません。)

アーリーエントリーしてもプロで失敗する可能性はあるのか。当然ながらあります。全体1位指名されるような選手ですら生き残れないときもあるんですから当たり前です。だからと言ってその失敗した選手が1年長くカレッジにいたらNBAで成功したか?というとそんなことはわからない。プロアスリートにとっては剛気な積極性も才能のうちであって、引っ込み思案に俺はバスケで成功しないかもしれないから学位もらっておこうなんていうことをHachimuraのレベルの才能があるのに言っているようでは既にメンタルで負けなんじゃないでしょうか。というか学位確保ってあと2年も学校に残るの?って話ですね。

「プロに行くとプレータイムがもらえない」というような理由でアーリーエントリーに反対している方になるとG-Leagueの存在すら知らない方でしょうから反論する必要すら感じられません。
他にも以前の記事で指摘した通り2019年のドラフトは高校生が直接ドラフト入りできるように制度が変わる可能性が高く、二年分の高校生が一気に入ってくる最もドラフトが若い才能で溢れかえる年になります。なぜそんな年にわざわざ合わせてアーリーエントリーする年を遅らせるのか。なぜアーリーエントリーすべきではないと主張するのか、その理由の方が聞きたいぐらいです。