米サッカー協会会長選で選手出身候補の中で一番票を集めたEric Wynaldaが改革案のひとつとして挙げていたのがプロサッカーの改革。MLSの現在の固定チームでのリーグ戦を変えて、諸外国と同じように昇降格を取り入れると。その改革がサッカー界を活性化し、ひいてはアメリカにおけるサッカーの底上げにつながるという主張でした。私はこの理屈がいままで一度も理解できたことがないのですが、Wynaldaにせよ他の方にせよ本当にそんなことを信じて言ってるんでしょうか。

他にも欧州諸国にあわせて秋開幕の秋春シーズンに以降すべきだとかいう主張もしてました。昇降格推進の主張もあまり強化に意味があるとも思いませんが(後述)少なくとも何らかの今存在しない新しいベクトルは生む(良いか悪いかはともかく)のだけは事実。しかし秋春にシーズンをずらすとなぜアメリカのサッカーの質が向上するんでしょうか?ずらしただけで?移籍市場で欧州のクラブと選手の取り合いをするのには便利な場合もあるでしょうが、現実的にそんなカネ絶対出さないじゃん?って思いますが。MLSは隣国メキシコリーグと比較しても何分の1かのサラリーしか出してないリーグなのです。欧州市場に合わせる理由があるのか、関係あるのか。欧州で余った有名ベテラン選手ならいまでも何人もMLSが獲得しているのですからシーズンが春秋でも関係ないのは証明済みですし、そもそも有名外国人選手が各チームに2人3人程度MLSに来るのとアメリカのサッカー強化とどうつながるのか。
全体的な話として制度的なもので欧州をコピペすれば強くなるなんていうのは幻想で話にもならないかと思います。もうちょっと中身のあることを言ってほしいと思います。

で昇降格の方ですが、それと対極にあるのがアメスポで昨今流行りのタンク。自軍の有力選手を他のチームの有望な若手選手(プロスペクト)やドラフト権と交換して将来の強化に備える。今現在の戦力が落ちても良い、負けても良い。ドラフトの指名順位も高くなるから負ける方が良いという場合すらある。それがタンク。タンクという呼び名が良くなければ複数年をかけてのチームの再建・整備計画の実行と言ってもよいです。それができるのは昇降格制度がない閉じたリーグだからです。毎年降格があるような制度だったらタンクはできません。

見方を変えれば何十年と、または永遠にタンクを続けているサッカークラブが世界中にありますね、ということもできます。優勝できるようになる可能性のない永久のタンク。見方次第ではまったくの無意味な行動にも思えますが、欧州サッカーのトップリーグの中位下位の常連クラブがまさにそれではないでしょうか。たまたま飛び抜けた選手を育てたらその選手を優勝を狙える上位チームに売って移籍金と引き替えにする。これが永遠のタンク。アメスポのタンク行為の先には栄光が待っているかもしれません(その例は毎年増えている)が、欧州サッカーの永久タンクには希望などない。永遠にエリートクラブに選手を搾取し続けられるだけです。搾取される側はさらに下位から別の選手を搾取する。搾取の連鎖。これになんか意味があるんでしょうか?というか「そういう構成になっているからそれらの国ではサッカーが強化されている」んでしょうか?
私には先後逆な話に見えます。サッカーが既に十分に普及強化されている国では群小のクラブチームからも時にすごい選手が出てきうる土壌がある。好素材を育てる力がある地方クラブが無数に存在しているから強いのであって、地方クラブの数だけ強豪国並にしたって(そしてそれを昇降格制で繋いだ一体の構造にしたって)関係ないんじゃないかと。

Wynaldaが言うような昇降格制にして今ある二部三部とMLSを連結したって強化と関係ないでしょう。単に二部三部のオーナーが安く一部に参入できる道を開くだけです。Wynaldaがそこまで考えていたかどうか知らないですが、好意的に解釈すれば一部昇格への期待から二部三部のサッカーチームに投資する人が増えればサッカーというジャンルへ流入するお金の総量が増えるのではないか、という希望的な話かと思います。
しかしそれは反対側のお金の流れを無視した見方かと。既にMLSクラブが20年30年単位で永住するという前提で投資されて建てられたMLSの美麗なサッカー専用スタジアムが、来季からはMLS所属じゃなくなるかもしれませんけどね、という前提だったら本当に建てることが可能だったのか。たぶん不可能です。そういう不安定な形にして本当にサッカーに流れ込むお金の総量って増えるのですか?スタジアムだけでなく胸ロゴその他のスポンサー契約でも長期契約が結んでもらえなくなります。露出低下の不安から契約額も下がるでしょう。当たり前のことです。今はMLSが欧州から有名選手をDP制の下で買い取っていますけれど、降格がありうるならそれすら危険な投資になりうるわけです。
でこれはカネの話ですが、これがWynaldaにかかると、昇降格制にするとアメリカサッカーの質があがるっていうんですけど、一体ここからどうプレーの質に話がつながるのか。

下位ディビジョンのプレーの質なら昇降格制ないままに過去10年アメリカサッカーはずっと良くなってきてますよ。以前にも紹介したFC Cincinnatiの例があります。それ以前にはRochester Raging Rhinosもあった。二部三部所属でケレン味のない楽しいサッカーをやっているチームはちゃんとでてきているのです。そういう下部のチームが数千人程度とは言え観客を集めて試合ができるぐらいにはアメリカサッカーも伸びてきているのです。昇降格制なしに。これを昇降格制にするとどういう違いが出るという話でしょうか?