MLBのFA市場が史上最悪(選手側から見て)の抑制型オフシーズンとなっていまも100人以上のFAが余っている。キャンプは来週開始。選手の代理人たちが悲鳴をあげてMLBオーナーの固い財布を批判しています。FAの選手たちを集めた独自のキャンプ(合同自主トレ)をMLB選手会が準備して浪人しそうな選手たちの救済を目指すようですが、大物FAは参加しても怪我がいやであまり張り切ったプレーをする可能性もなく、練習そのものよりも練習後のマスコミ対応ばかりが話題になりそうな気がします。

今回のMLBのFA不況(以前が気前が良すぎただけという見方もありますが)で代理人が批判しているのは金を使わないローコスト経営でシーズンを迎えようとしているチームの存在。勝つ気がないだろ!と非難している。それに対してMLB機構の方からは数シーズン先を読んでのチーム強化戦略を選ぶのは球団の正当なやり方であると、わざわざ公式コメントを発表したりしています。

近年、タンクしていたチームが数年後に飛躍してWorld Seriesを制した例が頻発しているためタンキングがMLBの長期戦略として有効だと認められた、そういう状況下なので今回のMLBのコメントは説得力がある。昨秋に優勝したHouston Astrosもまさにその好例。例のSports Illustrated誌のAstrosの優勝を数年前に予言した記事などもあってマスコミを通してHoustonの長期戦略がファンにも共有されたのも、タンクをしたいチームが思い切ってタンクに行ける環境を作ったと思います。

こういう事例があるのと、あとは制度上MLBにはサラリーフロアがないのでタンクしようと心を決めたら思い切ったタンクができます。NBAやNFLにはサラリーフロアと呼ばれる所属選手のサラリーの合計の最低額が設定されていて、タンクするのは自由ですがサラリーの節約には最低限度がある。MLBにはそれがないはず。これはマイナー契約のままで想像以上に早い段階で上に上がってくる若い選手がいる、というMLBの現実には合っているんですが、それをタンクに利用すると思い切ったタンクが可能なのがMLBの現行の制度ということになります。今回の事態を経て、MLB選手会は次期労使協定ではサラリーフロア制度を求めることがあるかもしれません。但しサラリーフロアっていうのはその名から想像できる通り上限を定めるサラリーキャップとセットで導入するべきもので、贅沢税制で上限を決めているMLBとは少々相性が悪い制度な気がします。選手会が次期協定交渉で要求してもオーナー側は突っぱねるんでしょう。サラリーキャップをセットで導入だと過去のようなMLBのスーパースター選手の巨大契約は消えますから、それを選手側が受け入れられるかどうか。ただ総収入に占める選手サラリーの割合がMLBは低い(他のメジャースポーツと比較して)と選手会が指摘しているのは事実なので上限抑制を選手側が受け入れられるなら譲歩の余地はあるかもしれませんが、上限は青天井下はフロア決めろではまとまらないでしょうね。

まあ今オフはMiami Marlinsがファイアーセールでオールスター級の選手を次々と放出してFA市場の需要減につながったなんていう今季のみの特殊事情もありました。特に外野手は3人の若く優秀な選手を放出、Marlins自身はFA市場に金を落とす気がゼロなので、32球団分の市場が31球団分まで縮小したみたいなものです。3人=Giancarlos Stanton, Christian Yelich, Marcell Ozunaの質の高さを考えると相当にFA市場は打撃を受けたと考えて良い。
他にもPittsburghが契約が残り少ないMVP Andrew McCutchenをあっさり放出したりと、FA市場が完全停滞しているうちにFA需要をトレードでまかなった例が多い。今オフのFA選手の長引かせ戦術が裏目に出たわけです。こういう不安なオフを見せつけられると来オフにFAとなるClayton Kershaw(選手オプション)、Bryce HarperやManny Machadoなど大物選手たちも(それ以下の中物たちだって)来オフを待たずに今季中に契約してしまえるならしてしまいたいと思う。たぶん水面下での動きがそれらの選手たちとは始まっているんじゃないか。そうなるとますます今新契約が取れなくて困っている選手たちは浪人の可能性が高まる。

いずれにせよ我々は今、MLBの契約慣行が大きく変わる潮目を見ている可能性は高いです。