NBAのAdam Silverコミッショナーが「一部のチームに戦力が偏ることはリーグにとって好ましくない。なんらかの変更が必要かもしれない」と数週間前に発言しています。発言のタイミングからして発言を促した直接のきっかけはKevin DurantのFA権利行使してのGolden State Warriorsへの移籍だったのは間違いのないところ。「一部のチーム」がWarriorsのみを指しているとは私は思いません。その話は先日別の記事のコメント応答で触れました。一応再録しておきます。


戦力集中がGolden State限定の話だとはSliverコミッショナーは言っていないですね。Cavsは昨季贅沢税でリーグで抜群の$55 millionだか$65 millionを払って、そして優勝したわけですから他のオーナーから金満優勝だと非難されたとしても弁護しにくいはずです。昨季のCavsの総人件費はリーグ史上2位です。現時点ではまだLeBronやJR Smithの再契約が確定していないので来季がどうなるかわからないですが昨季を超えるのはほぼ確定的じゃないでしょうか。

一般のファンからすればサラリーキャップがどうの贅沢税がどうのという細かい話よりも、Kevin DurantがWarriorsに?!?!というショックもあってそちらの方が目立つでしょうが、オーナー連からすればDurant型の移籍はフランチャイズタグ制(NFLがやってます)でもなければ止めようがないのもわかっているし選手会は強硬に抵抗するはずで実現の可能性も低い。より現実的なのは贅沢税制の料率アップの方で、そうなるとコミッショナーの発言もターゲットは贅沢税上等とAll inで優勝を勝ち取ったCavsの方もかなという気がします。

コミッショナーが制度変更に言及したわけです。選手の待遇に関する制度は選手会との合意でしか変えられませんからDurantのような移籍を今後発生させないためには選手会に(1)フランチャイズタグ制を飲ませるか、(2)逆に出口側となる受け入れ先チームのサラリーキャップに追加の制限を加えるか、(3)まさかやらないと思いますが受け入れ側の成績を基準とした制限、などが考えられるでしょう。(3)はひょっとすると一部ファン(「公平」な人材の再分配を好むファン)からはイメージ的に支持を受ける可能性がありますが、これは実際には成立しえないと思います。ドラフト指名順位で既に優遇してある成績下位のチームをFA市場でも優遇するという制度がありうるのか。ドラフトですらわざと負けるチームが発生しやすいのでくじ引き制にしているのに、ドラフトよりも遙かに高い確率で活躍するであろう既存のスーパースター選手を得るために、負ければ負けるほど得になる制度などあってはいけないはず。

そうなると(1)か(2)。どちらも実質的にはFA移籍を選択肢を大幅に狭める制度になるので選手会は強く抵抗するでしょう。特に(1)はいまNFLでもかなりモメています。

NFLの同制度についてざっくり説明するとチームは無制限FAとなる自軍選手に対して指定をして、高額のサラリーを全額保証するとともに移籍を制限するというものです。ただ「高額」というのがくせ者で同ポジションのNFLトップ5の平均サラリー以上、となります。つまりそのポジションで圧倒的トップの能力を持つ選手がフランチャイズタグ指名を受けてしまうと当面は他のトップクラスの選手の中間的なサラリーでお茶を濁されるということになる制度です。

昨季NFL Denver BroncosをSuper Bowl制覇に導いたSuper Bowl MVP OLB Von MillerがBroncosからフランチャイズ指定されて大もめになりました。最終的には先週6年$114.5 million(保証額$70 million)というNFLのディフェンス側の選手としては最高額の契約を勝ち取り。なんとか丸く収まったとは言えますがその過程ではMillerがフランチャイズタグ制への不平をぶちまけたりかなりの軋轢がありました。

いつもながらNFL選手の契約は選手に不利なものが多い。フランチャイズタグ制もその一つでしょう。根本的な思想としては、有名選手が都会・ビッグマーケットのチームに流れるのを阻止してリーグの戦力均衡と全てのチームの人気を支えようという制度です。NFLに限らずNBAでもMLBでもできることならば地元で育ったスター選手はそのまま地元で長年頑張り続けて欲しい、地元ファンとの絆やチームメイトとの繋がりを大事にしてその上で勝って欲しいという、ファンの願望はよくわかります。そういう夢の世界はあって良い。でもそれを現実にルール条文化するとフランチャイズタグ制にようなものになってしまうわけですが、それは本当に良いことなんでしょうか。

もしNBAにフランチャイズタグ制が存在していたとしたらOklahoma City ThunderはDurantを引き止めることができたか?できたでしょう。では同じ制度が他の場面ではどう働いたかというと、例えばLeBron JamesがCleveland Cavaliersでの孤軍奮闘の日々に限界を感じてMiami Heatに移籍することもできなかったはずです。有能とは思えないコーチ、LeBronの望むような選手を獲得できず毎年毎年LeBronのワンマンチームしか作れなかったCavaliersにLeBronは縛り付けられる他ありませんでした。もしどうしてもLeBronがCavsを出たければ契約を拒否してキャリア中断ということになっていたはずです。ひょっとしたらその場面で欧州リーグに転出していたかもしれない。(NFLには競争相手が皆無なのでコレがあり得ない)またはLeBronの第二次Cavaliers時代にKevin Loveのような大物を獲得することもできない(Loveの前所属先のMinnesota TimberwolvesはLoveにフランチャイズタグを付けられますから)。LeBron一人でもチームをそこそこ勝たせてしまうからドラフト1位指名権なんて得られないからKyrie IrvingとLeBronが組むこともできなかった。自分以外はロールプレイヤーばかりでいつか勝てるかもしれないと孤軍奮闘し続けるしかない制度。それがNBAにとって、選手にとって、ファンにとって良い制度でしょうか。過去だけの話ではなく、同じ事は例えばNew Orleans PelicansのAnthony Davisにも起こることです。Davisは既にPelicansの経営・選手補強能力に大いに不満を持っていますがフランチャイズタグ制があったら篭の鳥となる以外ない(欧州に行っても良いですが)。その昔のMitch Richmond (Sacramento Kings)のようにどうにもならないドアマットチームでシコシコ自分のスタッツを上げて、地方都市の地元ファンの支持を受けてローカルヒーローになって終わりです。そんな風にDavisを腐らせてしまう可能性のある制度。LeBronが一生孤軍奮闘するキャリアとなったかもしれない制度。選手にとってファンにとってそれが最適解なんでしょうか。

そういうことを全部含めて考えると、Durant的な移籍を直接的に止める方法は無理があるし不健全であるとすら思います。最終的にはサラリー総額や贅沢税制の強化などでCavs型の戦力増強を一時的なものにする努力が現実的な対応かなと。複数年連続での贅沢税超過チームには贅沢税の支払いを過重加算して維持できなくするような形でしょうか。Warriorsの今回の場合はDurantを獲れなくてもDurantとほぼ同額のサラリーとなったはずのHarrison Barnsを始め多くの戦力を失うことになっており基本的には解体危機だったし、実際その通りになっていますよね。DurantとBarnsがほぼ同価格だったというところが問題だっただけで(これは最高限度額制度の問題です。別問題です)。