さてRyan Braunをまず晒し者にして始まった今回の一連の粛正についてです。MLBの過去のPED関連の処分が甘いから根絶できないという説・批判は微妙に間違っているのではないかというMLB擁護を一発ぶってみたいと思ってこの項を書くことにしました。違反者のMLBからの追放までに二度も猶予があると明文化され、罰則は出場停止(とその期間のサラリー没収)のみというこれまでのMLBの処分は確かに甘かったですがそうならざるを得なかったのは選手会との取り決めに沿っているからで、選手会側の抵抗が問題なのにMLBを批判するのはちょっと違うかなという気がしているわけです。
50/100試合の出場停止というのが唯一MLBに許された罰則で、三度目違反の永久追放までの期間に重ねた記録、契約=カネ、名声その他もろもろの利益はすべて残るから選手側からすればPEDで成績を伸ばす経済合理性がある。それは事実です。だからいつまで経ってもPED問題がなくならない、というのはその通りですが、では選手会がそれを覆す処分案に同意するでしょうか。これまでも小出しの譲歩でやっと最近のオフシーズンの血液検査は導入に同意した選手会は罰則の強化にこれまでも消極的でした。

今回のBraunの処分発表直前の時期になって選手会側から「証拠があからさまな選手については今後選手会は援護しない」という声明をわざわざ出しています。Braunの陥落を予感させる声明ではありました。しかし逆に言えばこの声明はどうやっても救いがたいクロ選手でも今までは可能な限りフォローしてきたことを認めているのであり、今後もグレー選手は守るべく戦うぞと言っているわけです。選手会という組織の性質上、選手の権利を守るのは最大の責務で選手のために戦うという事自体は正しいわけです。

そういう抵抗がある中、処分が厳しくないとMLBの側を責めるのはちがうのではないか。MLBは年間通じて血液検査をしたくても、選手会側は抵抗してきたのは明かなのです。アンチPEDの流れに抗しきれず2012年からスプリングトレーニングの時期を含むオフシーズンの血液検査は導入されましたがいまもシーズン中の血液検査はありません。一旦シーズンインしてしまえば血液検査はないとはっきりしているのです。長いMLBシーズンでこれが有効な検査態勢でしょうか?足りないでしょう。でも選手会側が合意してくれない検査は実施できないのですからこうなっているのです。FA移籍した某強打者が血液検査導入初年度の2012シーズン序盤に大不振に陥ったのを見て「…」となった関係者・ファンは少なくないはずです。

もちろん選手会側の言い分もそれなりにわかるのです。ランダム検査ですからいつ・何度検査されるかわからない。夏場のスタミナの苦しい時期に血を抜かれる。先発投手がたまたま登板前夜に血を抜かれる。ランダムですからそういうこともあり得る。これがパフォーマンスに影響する可能性は確かにあるから、シーズン中は勘弁してくれ、というわけですね。それはそれで筋が通っている。年間に回数を絞っての検査ではその該当回数を済ませたらあとはやり放題になってしまうのでそういう回数制限はできない。

そういうせめぎ合いがあって現在の処罰基準になっているわけです。出場停止部分だけは無給ですが、その後PED抜きでただのヒトになってしまった高額FAの長期契約を抱えるチームは大損という仕組みです。


いきなり話は飛びますがここ数年、New York Yankeesが大物FAに手を出さないのは実はこの問題が関係があるのではないのか、と思っているのです。YankeesのGM CashmanはたびたびPEDの疑われる成績が急激に伸びた選手について揶揄コメントを出しています(あまり大きく取り上げられないですが、何度もコメントしています)が、あれは近い将来のPED検査体制強化を見込んで大物FA選手達が長期契約を満足に満了できず撃ち落とされていく可能性とその後のパフォーマンス激落を見込んでのことではないのか、と考えているのですがどうでしょうか。よってPED抑制がかかるようになって素の成績でFA相場が形成されるのを待っているのではないか、という見方が可能なのではないか。言ってみればいまのPEDによる成績のインフレ状態が収まるまでは大型長期契約を結ばないのが中期的な戦略として正しいと信じてFA市場から引いて、いわばノンポジを決め込んでいるという風に解釈できないかなと思うのです。