一般的な印象としてアメリカ人は日本人ほどには五輪が好きではありません。五輪こそが世界のスポーツの基準だというような感覚は薄いかなという感触を持っています。毎年カレンダーを埋め尽くすアメスポのエンターテイメントにどっぷりの国だからです。多種多様なスポーツを選び放題な中、それぞれの競技単品としてのエンタメ度はけっして高いとは言えない競技の集合体である五輪の僅か二週間の特別番組がそうそう勝てるものでもないわけです。陸上水泳などスポーツの根幹ともいえる種目はアメリカが強かったこともあり弱いTVイベントとまでは言わないものの、全体像としてはその重要度は低い。日本のように五輪放送・報道一色という傾向が薄いのも特徴。これは一系列の独占放映となるアメリカの放映権の契約形態の問題もあるのでしょうが、それだけが理由でもないようにも思えます。ちなみにアメリカ国内での五輪独占放映権を持つNBC系は2020年の夏季大会まで放映権を確保しています。奇しくもその現行放映権契約の最後となる2020年大会からレスリングを排除する可能性が発生して珍しく五輪の話題でアメリカのスポーツファンが興味を示しているという形です。普段の五輪競技へのアメスポファン一般の関心の低さからすると相当に意外な感じが強いです。それだけ普段のアメスポ消費活動からは見えない多数のレスリング経験者がアメリカ社会に多数存在していることの証左かなということでもあるかもしれません。


アメスポは一般的に体格に優れた選手でないと生き残れない種目が人気です。コンタクトスポーツであるフットボールやアイスホッケーでは体格はほぼ必須の要素です。フットボールだとRBに背が一般人並の選手がときに登場しますが、彼らは背こそないですが筋肉の塊のような特殊な身体をしています。鍛えて作れるような身体ではない。特殊な身体の持ち主が鍛えた場合のみサイズが必須ではない。バスケットボールは身長の面で一般人から大きく抜きん出ていることはほぼ必須条件ですし、比較的身体の絶対条件が緩い野球にしても絶対的なパワーが合った方が有利でプロの野球選手たちの腰回りのすごさは特筆物です。サイズがないと大学でのスポーツ奨学金もめったなことでは見込めないでしょう。そういういうように人気種目は身体条件がその将来を決定的に左右する事情がある中、伝統的な学校スポーツで一般的な体躯のアスリートが取り組めるのがレスリングだと言えるわけです。

学校スポーツの季節で言えばは冬はバスケとレスリングというのが完全な定番です。バスケは背がなければほぼ先がないだけに、秋にフットボール、春に野球という定番スポーツをこなす優秀な学生アスリートが冬はレスリングを選ぶことはよく見かけるところです。ハリウッド映画でもしばしばそんな設定があるように思います。他の人気スポーツ種目では小さい選手たちは小さいことを生かしたニッチな選手になることでしか将来が見込めない中、レスリングはそうではない。体重制があるからですね。また学校スポーツ唯一の格闘技であることから学校内カーストの面でも比較的強いと言え学内のリスペクトを集められる競技でもある。フットボールのスター選手も冬はレスリングだったりするのでその面でも強い子のクラブという印象度はかなりあります。小柄な子でも長く続けていって見栄えのいい筋肉質の若者に育っていける種目ですし、大学のスポーツ奨学金の獲得も可能な種目でもあります。フットボールやバスケだと高校あたりで自分の背の現実から上を目指そうとは思えなくなって脱落していく選手が増える中、レスリングはその面でも高校生がもう一踏ん張りできる種目と言えるわけです。別方面で言うとMMAのトップ選手の多くはレスリングの経験者です。アメリカ人にとって最も身近な格闘技という表現もできます。