この項のタイトルはかなり欲張ってみました。昨夜行われたサッカー米女子代表のドイツ代表との親善試合二連戦の二戦目から書き起こして、来春に発進が期待される新女子プロサッカーリーグの問題と、そこにかぶさってくる新たな競争相手の事情まで手を伸ばしてみようかと思います。競争相手の件は別記事にするかもしれませんが、おもしろい相手が来ます。


まず親善試合の方ですが、この日は東部コネチカット州での興業。五輪後に全米を廻る巡業として行われている「Fan Tribute Tour」(応援ありがとうツアー)の一環です。これが五輪後五戦目。ファンサービスと興行収益を主たる目的とするシリーズ巡業ということでもあり、またまだPia Sundhage前監督の後任も決まっていないままということもあり、招集メンバーは五輪当時のロースターのまま、戦術的にも新しいことがあるわけでもない。ここ二連戦は強豪ドイツを招いたので少し毛色の違う試合ぶりとなりましたが、ツアー序盤の試合はコスタリカ代表を招いて8-0、オーストラリアを招いて6-2とゴールショー。競技を見せるというよりも実力に劣る相手をサンドバッグにしてスター選手のいいところを見せてファンをよろこばせる、エンタメ興業となっています。

同時に五輪当時、キャリア通算ゴール数でAbby WambachとカナダのChristine Sinclairが横並びだったのを次々と国際試合を行うことでAbbyを有利に導き、史上最多ゴール記録であるMia Hammの158ゴールにWambachを絶対に先に到達させるぞ、という米サッカー協会の興業的な思惑もあると思います。来年からは女子サッカー界は代表の話題が薄い時期が続きますから、そこにWambachのMia超えという話題性を与えて来年も興業収入と注目を集めたいはず。絶対隣国のSinclairにはそのオイシイところは取らせないぞというところでしょう。この日の頭から突っ込んでの1ゴールを含めてFan Tribute Tour五試合でWambachは5ゴールを追加してWambachは現在148ゴール。Sinclairの方は五輪以降代表での試合はなく143ゴールのまま。あの因縁の準決勝での対アメリカ戦のハットトリック以来ゴールなし。五輪後の差でWambachがSinclairを出し抜いている。この辺り、アメリカの興業力の強さがモノを言っていることになります。また因縁の五輪準決勝後にSinclairが審判批判をしたという理由でなんらかの処分が下される可能性があり、場合によっては来年以降カナダが代表戦スケジュールを再開しても出場ができないかもしれません。古い言い方ですがWambachはひまわり、Sinclairは月見草という感じでしょうか。ちなみにカナダではあの五輪準決勝を1000万人以上が少なくとも一部分を視聴したとされ、あちらでも女子サッカーの人気は急上昇中。総人口3500万人のカナダでのこの視聴者数は驚異的な記録です。


さてこの日の試合の方はなかなかにおもしろい試合でした。上記の通り五輪以降の親善試合は基本的に実力差がある試合続きで米代表が圧倒的に攻め続けるだけで試合としての見所は希薄。しかしドイツ相手にはそういうサッカーができず、特にこの日の前半はバックラインが低めの位置で備え相手FWを挟み込みを強く意識という米代表には珍しい戦い方。中盤との間が空いたことで自由度の大きくなったボランチのベテランShannon Boxxが前半大活躍。後半はディフェンスラインの攻撃参加を指示したのでしょうが、それが戦術的には裏目にでて20歳のドイツの次世代を担うストライカーDzenifer Marozsanに2ゴールを献上。結果2−2引き分けとなっています。普段、常にフィジカルで相手を上回る米代表もドイツ相手には吹っ飛ばされる場面が多数、試合全体もドイツの攻勢の場面が多く、またドイツのボールの出所の切替の速さなどにも追従できなかったりほとんどの時間帯で押され気味の試合となりました。USA!USA!と盛り上がれるゴールラッシュが嬉しいアメリカのファンからするともの足りない試合なのかもしれませんが、試合としてはおもしろかったと思います。

大雨で濡れながらも18,870人と公式の入場者発表、UConnのフットボールスタジアムでざっと4~5割ぐらいの入りでしょうか。天候がこんなですから当日券はまったく売れなかったであろう中、よく入った方だと思います。この前戦がシカゴのMLS Chicago Fireのホームスタジアムで先週行われましたがそのときの動員が19,500人ソールドアウト。ほぼ同じ動員ということになります。以前満員考という記事で議論してみましたが、同じ観客数なら満員のスタジアムの方がやはりいいですね。この日は強い雨と寒さのせいで余計そういう印象が強かったとも思いますが、お客さんがスカスカのエリアのファンはさびしそうに見えます。


この試合のハーフタイムに米サッカー協会の会長Sunil Gulati氏が登場して当面の女子サッカーの各種課題について答えていました。次期代表監督についても、来春に予定されるという新女子プロリーグについても10月のうち=これから10日ほどでどちらも発表するつもりだと発言していました。口ぶりからすると代表監督の方は既に候補は絞られておりあとは契約内容という感じに聞こえました。プロリーグの方も現実のものになりそうです。

五輪前から五輪を最後に代表を引退する(国内リーグがない状態なら同時にそれは競技引退を意味しますが)意向とされていたキャプテンCB Christie Ramponeが新リーグがあるなら競技を続ける意向に傾きかけている、という噂話もありますし、また代表の代替わりで切られる可能性が高いと思われたShannon Boxxがこの日も元気いっぱいで好プレーを見せていたりベテラン勢もプロリーグ再興に乗ってまだまだ現役最前線で働きたい模様です。新リーグの構成がまだ見えない段階では評価できませんが、WUSA, WPSと二度の女子リーグ崩壊を経て今回はリーグ経営者には男性経営者が舵を取るとされます。以前の役員全員女性というフェミニズム発揚の場と勘違いしているような陣容ではなく、現実的なビジネス手腕を重視しての背広組の布陣となるようで、どういう経営になるのか期待はしたいと思っています。

シーズンは春〜夏と以前のリーグと同じ時期になりそうなのですが、実はそのまったく同じ時期に新しいスポーツ興業が参入してくる予定になっています。これがなかなかに好対照でおもしろいのです。長くなりましたのでそちらの話はまた別項に改めます。