MLB Oakland Athleticsの先発投手Bartolo ColonがPED=違反物質使用が尿検査で発覚して50試合出場停止を受けています。2005年のCy Young賞投手でもあります。つい先日、San Francisco GiantsのMelky Cabreraが同じ問題で50試合出場停止を受けたばかり。共通点を探すとどちらもドミニカ共和国出身者であり、同じサンフランシスコ・ベイエリアのチームの選手。このニュースを伝えたESPNの放送の中ではBarry BondsのPED違反問題で焦点となったBALCO社の本拠地もここベイエリアである、と付け加えました。

どうなんでしょうか。MLBは今季だけでこれで三人目の50試合出場停止の違反者を出しました。昨オフのNL MVP Ryan Braunも罰則を逃れただけで違反薬物の使用については不使用と考える関係者はいないと言っていい。MVP、Cy Young賞投手、さらには今季の首位打者(になるかもしれない選手)と好成績を収めた選手たちがクロとなったことに。未だにMLBはPED問題から抜け出せていないことを改めて確認させられた違反摘発の一週間二連発ということになったと思います。関係者も感想を聞かれて今回Colonの違反を驚きと捉えるひとはいない。またかという。驚きがあるとしたある解説者は「今季は各チームのロッカーに検査員はほとんど毎日のように来ているという証言があるのに、それでもまだやっている選手がいることが驚き」としました。

冷静に考えればほぼ毎日検査員があるチームのロッカールームに来ていたとしてもベンチ入りだけで25人の選手がいるわけですから、一日一人検査を受けていたとして月に二度も検査されるのがいっぱいいっぱいであり、またそれはランダムですから検査を受けない可能性はそこそこある、という考え方も可能なわけです(私ならそうは考えませんが)。この辺はリスクと利益との比較考量、及びリスクの確率の見方次第で使う選手もいるんだろうなあという感じです。さらに言うならばそれだけのリスクを犯しても使えば結果が出るという確信がMLB全体にあるということでもあるでしょう。そう考えれば大変な効果の間接的な宣伝ですね。

ほぼ毎日のように検査員が全30球団に入っているというような人海戦術が取れるのはMLBがビッグビジネスだからです。これが零細リーグならこれは不可能です。MLB側がこれだけの取締努力をしていること自体は評価されるべきこととは思いますが、いかんせん罰則が軽い。罰則の軽さはMLBの責任というよりは抵抗勢力であるMLB選手会の非である部分が大きいわけです。今季の摘発連続が世論圧力となってより重い罰則になっていけば良いのではと感じます。罰則の種類も出場停止だけでなく契約解除を可とするとか、摘発前1シーズンの公式成績抹消などというような工夫も俎上に乗せるべきでしょう。


違反のあるなしだけではないのが問題です。信頼感の喪失が問題になってきている。一例を挙げます。

先日書いた「出場停止となったMelky Cabreraが首位打者を獲る条件」で指摘しておいた通りMelkyがNL首位打者を獲る可能性がありますね。一週間前にあの記事を書いてからそれまでNL打撃成績トップだったPittsburgh PiratesのAndrew McCutchenの打率は.359から急降下して現在.349。Melkyのシーズン最終打率予定の.345に早くも急接近中です。ちょっと早すぎる。McCutchenのミニスランプと同時にPiratesがプレーオフ争いからも後退気味ですから、チームがこれから完全に脱落して、打率でぎりぎりの数字の争いになればMcCutchenを欠場させてタイトルを獲らせるという策ぐらいは人気で弱いPiratesの首脳陣は許してくれるでしょうがまだそこまではしばらくかかる。その時期までにMelkyの予定最終打率を下回ってしまえばMcCutchenもひたすら打つしかないです。Melkyが下がってきてくれることはないわけですから(細かいことを言えば前の記事で指摘した通りGiantsの試合数が増えるケースというのがありますが) 同じく前の記事を書いたときに打撃3位だったJoey Vottoは予定通り規定打席を下回ってランク外に去っており復帰のめどもなし。4位で.331だったButster Poseyは.327へ、5位で.323だったDavid Wrightは.318へとそれぞれ成績を下げています。下げていないのは出場停止中のMelkyだけという笑えない状況です。

この打撃成績上位の選手の揃ってのプチスランプという現状を信頼感の喪失したファンが見ると「これはCabreraが捕まったのにビビってこいつらも薬の使用を止めたから急に揃って成績を落としているんじゃないのか?」という解釈につながってしまうわけです。この信頼感のなさは痛い。事実がどうかは関係ないわけです。

さらにはこれからシーズン終盤に向けて各選手のさらなる成績の低下も心配すべきでしょう。本来ならばシーズン終盤は消化試合も増えるし若手選手の来季への経験を積ませるという起用も増える。マイナーからの選手の呼び上げもあるので敗戦処理で出てくる投手の質が下がる、よって打撃成績を気にするやる気満々の選手にとっては稼げる打席も増えるはずなんですが、信頼感のない目で見れば今年に限ってはそうはならないと予想することもできます。なぜなら今年から採用されたシーズン外での血液検査がシーズン終了と同時に解禁になるからです。尿検査では発見できない違反物質も血液検査では発覚します。そしてそれは摂取を止めればすぐに反応が消えるというものではないため、引っかからないようにするためにはシーズン終了よりもかなり前に違反物質の摂取をやめないとまずい、よって終盤にさしかかるにしたがってPEDで成績を伸ばしていた選手の成績が急低下する、という可能性があるからですね。本当にそういう現象が起こるかどうかはこれから一ヶ月の各選手の成績を見守るしかありませんが。

そういう疑いの目で見ればすべてがそう見えるわけです。スプリングトレーニングの期間は血液検査があったのでPEDを使用できなかったAlbert Pujolsが四月に「大スランプ」に陥り、その後血液検査がないシーズンに入ってPEDで成績を持ち直した、という解釈も成り立つ。FA直前のシーズンの好成績はすべてPED。キャリア終盤の急復活もすべてPED。全部そう見ようと思えば疑わしいのです。その全てがクロであるとはいまのままでは誰も証明できませんが、同時にシロであるとも証明不能です。証明できるようにするために、少なくともほとんどがそうでないと確信できるようにするには、さらなる検査強化が必要になってくるのでしょう。選手会もそろそろ権力闘争ではなくMLBへの全面協力を考えるべき時期でしょう。ちょうど来年はWBCもあることですし、MLB選手会ももうPED頼みの選手の切り落としを考えるべき時期と思います。