女子サッカーが五輪を前にしてごたついています。スポーツの面で見ればより問題なのは今回の表題の件ではなく、不動のGK Hope Soloの禁止薬物抵触問題の方でしょう。Soloが尿検査でクロ。引っかかったのは利尿剤。この薬物が問題とされたのは利尿作用自体ではなく、この薬物が各種の禁止薬物を検査から隠す役目を果たすことが知られているためです。いわば証拠隠滅薬物というわけです。

GKというスタミナは他のポジションと比較して問題にならなく重要度が低いポジションの、不動の先発であるSoloにこの時期になって禁止薬物を使って能力を伸ばす動機があるかどうかはちょっと疑問ですが、それにしてもベテラン選手が禁止物質が入っているのを知らなかったという言い訳はどんなもんか。チームドクターの処方ではなく、個人で行った医師の処方ということですが本当に無作為なら不用意に過ぎます。五輪アスリートがこの時期に服用するものを隅から隅まで気を使うのは当然の義務なわけですから。作為でなら最初からバレたときに言い訳する方法まで考慮してチームドクター以外を処方元として使ったということでかなり周到で悪質なクロと言えます。個人的な感想では後者の可能性が高いように感じます。利尿剤使用以上のシロクロはもうわかりません。クロ判定はされたものの証拠隠滅薬物だけなので警告を受けたのみで五輪出場には制約はありません。


さてそちらはいいとして、そのSoloの件の直前に出てきた代表MF Megan Rapinoeのゲイ宣言の方を少し考えてみたいです。Rapinoeは助走なしのロングボールの出所としてサッカー米女子代表の攻撃の重要なポジションを占める存在。また明るいキャラクターで人気ものでもあります。女子サッカーファンにとってはRapinoeがレズビアンであることは公然の秘密というか明らかな状態だったわけです。交際相手(当然女性)とのキス写真も公開だかリークだかしていたし、サッカー協会の公式サイトで公開しているビデオクリップでも直接のゲイ宣言ではなかったものの、性嗜好の違いの問題を質問されて肯定的に答えていたりしていたり。それがこの時期になってわざわざレズビアン宣言してきました。発言媒体はout.com/OUT Magaineという同性愛雑誌で。誌名からして性嗜好を隠さずカミングアウトすることを意図したネーミング。インタビュー記事の内容もRapinoe自身のカミングアウト宣言にとどまらず、他の選手たちにもカミングアウトを促す内容となってます。

個人の性嗜好がストレートであるかゲイであるか、というのはまったくもって個人的な問題であるのでそれをとやかく言うつもりはありませんし、それを公にするかどうかもまったくもって個人的な問題でしょう。私のつきあいの範囲内でも若い人だと早い段階で自分がゲイだと自己紹介する人が増えたようです。そういうケースも増えたのでこちらもああそうか、と思うぐらいで特に特別な感じがしなくなりました。そういう自己紹介がソーシャルスキルとして定着してきているようです。

それはともかくすでにファンの間ではそれともうわかっているRapinoeがレズビアンかどうかをわざわざ宣言する意味・彼女個人にとってのメリットがよくわからないわけです。逆にOUT Magazineにとってはメリットが大きい。有名五輪アスリートが五輪前に大々的にゲイ宣言することで多くの隠れているゲイの大量カミングアウトの呼び水にしたいという、OUT Magazineの設立主旨そのものの効果を見込めるからです。Rapinoe自身がOUTの主旨に賛同していたというところなのでしょう(若干疑念がありますがそこまでは今回はツッコミません)。

サッカー米女子代表ではHC Pia Sundhageが自己がレズビアンであることを公表済み。また大エースFW Abby Wambachがレズビアンであることも公然。但しこちらは宣言はしてませんから、Rapinoeのカミングアウト催促の記事の一番身近な対象はWambachであることもほぼ確実です。OUT Magazineおよびゲイの公然化を望む人達にとっては本当ならRapinoeではなく知名度でRapinoeを大きく上回るWambachが宣言してくれた方が宣伝効果は高いのでそちらの方が望ましかったはず。当然働きかけもしたんじゃないでしょうか。でもそれが最終的にRapinoeになったということは、Wambachは五輪前のこの時点での宣言に同意しなかったということのように読めます。五輪後は女子サッカーの世界は三年後の女子W杯まで大きな大会はなく、またこの秋に予定される米大統領選挙ではオバマ大統領が大統領選で同性婚支持に大きく踏み込んでおりゲイコミュニティはオバマ支持に大きく傾いているところ。その勢いをかって五輪後にWambachは以前からのパートナー(女性)と結婚するのでは、という観測もあります。有名人同性婚でオバマ援護というわけです。(この部分議論が荒いですが、詳細にやると長くなるのでこの程度で許して下さい)


このRapinoeのカミングアウト催促問題が専門誌インタビューだけの小火に終わるのか、それとももっと延焼するのかはこれからのマスコミの取り上げ方にもよるでしょう。現時点では取り上げているところは極少数。このまま小火のままで終わる可能性の方が強い。ただしひょっとしてとは思いますが、五輪放送の独占放映権を持つNBCが以前からゲイネタが大好きな局であるという点がひっかかると言えばひっかかる。まさかとは思うけれど五輪放送の途中でこのネタを炸裂させる可能性があるのかも?という憶測を捨てきれません。

これはスポーツ関係ではなく、以前人気コメディでゲイネタを堂々メインに据えた番組をNBCはやっていたんですよね。メジャー地上波は決してやらなかったゲイネタ番組。私もたまには見ていましたが、ゲイネタは敬虔なクリスチャンにとっては冒涜のネタとも言えるだけに、内容はたわいもないものでも日本人が思う以上の大問題。NBCは放映当時けっこうな突き上げを喰ったと記憶しています。それでもそれを無視して制作放映を続けたわけですからNBCの上層部にゲイネタをやりたい人が確実にいるということかと思います。あの番組は明るいゲイネタで米国民を啓蒙していたという歴史的な評価になるのでしょう。

そのNBCが五輪放映権を持っている。まさかとは思いますが小火で終わりそうなこの問題を使って優勝したサッカー女子代表をゲイネタにひっぱる可能性があるのかないのか。この辺はゲイコミュニティと五輪ビジネスのせめぎ合いでしょうね。普通に力比べをしたら五輪ビジネスの方が圧倒的に強いはず。さすがにいくらNBCの役員の誰かがゲイ好きとは言え巨額の契約をしてくれる五輪スポンサーの意向を無視して一発かますのは難しいと予想しますが、選手が勝手に生インタビューでなんか言っちゃった、ぐらいのことならアリかも。どうなるか。


一般的には個人の主義主張をスポーツ選手としての取材の場を利用して宣伝するのはNGとされます。銃規制への賛否、堕胎の可否、マリファナ合法化、死刑存廃など様々な意見はアスリートはそれぞれ個人的に意見を持っていてもアスリートとしての会見でそれを主張するのはルール違反。いっぱいいっぱいOKなのが「神のご加護に感謝する」とコメント前に述べる程度。でももしAbbyが「私、これで五輪が終わったから結婚するんですよ!Love you, Sara!」とか言ったらそれをルール違反として咎められるか。たぶんOKの範囲内でしょう。既に同性婚(通称ですが)が合法化されている州は複数あるわけですから。これが起こるのかどうか。それともRapinoeと違って、多くの企業とスポンサー契約を持つWambachはその各種スポンサーに気兼ねして五輪期間中・契約期間中は大人しくしているつもりなのか。


女子プロアスリートの地位向上ということを考えればアメリカ女子アスリートで最も稼いでいる側のWambachにはスポンサーを優先する「プロ意識」が求められるところ。せっかく多額をスポンサーしてくれている企業がマイナスと見なす可能性のある行動は慎んで、特に五輪関連ならアメリカの国民の代表として気高く振る舞うべきという要請が含まれているわけです。その役割に対してスポンサーはお金を払っている。他方、ゲイコミュニティからのカミングアウトの要請もWambachには聞こえているはず。比較的楽な立場のRapinoeはここへ来てカミングアウト、影響力が格段に大きいであろうWambachへの期待もきっとゲイコミュニティからは高まっているはず。女子トップアスリートとしてのプロ意識か、それともより個人的に「所属」するゲイコミュニティへの支援か、どちらを優先するのかそのバランス感覚が問われていそうです。これ、もしいいアドバイザーがWambachにいたならカミングアウトするのを最低でも五輪後にすべきだと忠告すると思うのですが、どうなるか。以前にも書いたことがありますが大きな大会がないこともあるので五輪後に疑似引退して、その引退の身でオバマ支持でもゲイ啓蒙でも好き放題やるという手もあることはあるのです。

ちなみに女子サッカー代表から利益を出している米サッカー協会からするとゲイコミュニティを敵にまわすことはしたくないはずですが、とは言えこれも以前から指摘している通り女子サッカーファンは女子小中高生が多く、その年齢のファンの前であまりにも表立ってゲイだレズビアンだと大騒ぎするのもまた嫌なはず。性的な問題を低年齢層にどう説明するのだという反ゲイの人達からの反撃を受けるのは確実だからです。よって今回のRapinoeの宣言からの大きな延焼は望んでいないはずで、五輪期間中は試合に集中することを再確認してタガをシメてるんじゃないかなと想像します。ちなみに米サッカー協会の公式サイトではSoloの尿検査クロ問題、Rapinoeの宣言問題ともに一切触れてないですね。Rapinoeの方は型通りで言えば個人的なことで協会が関与する点はないですが、Soloの件も完全スルーするのか、ちょっとずるいかなと言う気もします。