一〜二年生で固めたKentucky Wildcatsの全米制覇で終わったカレッジバスケットボールシーズン。来季のスケジュール交渉が各地で水面下で進行している時期ですが、Kentuckyと長年定期戦を行ってきていたIndianaが定期戦の中止を発表しています。昨季全体を通して最高のブザービーター決着の試合となったKentucky@Indianaでの全勝対決、さらにそのリベンジ戦となったMarch Madnessでの再戦では期待感盛り上がる中、Kentuckyが雪辱勝利して隣州ライバル関係が久方ぶりに全国レベルで大きく意識されたシーズン。その直後に定期戦中止になるのは残念。元々Kentucky側の事情で定期戦が危機だったのは当ブログでは既報。ただ今回の定期戦廃止の発表で両校の言い分が微妙に食い違っていること、その上両方の言い分を聞いても表面上はなぜ中止にまで発展するのかよくわからない言い分になっているのがおもしろいところ。口に出していない両者の思惑をちょっと突っついて一文書いてみたいと思います。


表面上の対立点は今後どこで定期戦を開催するか、という点です。それぞれにチームが交互にホストとなってインディアナ側とケンタッキー側で開催するのは自然な話ですが、Kentukcyはインディアナ州の首都IndianapolisのLucas Oil Stadiumとルイビル市(インディアナ州とケンタッキー州の州境ケンタッキー側に位置します)での開催を主張。それに対してIndiana側は自校キャンパス内のAssembly Hallでの開催を主張、大会場であるLucas Oil Stadiumでの開催に異を唱えています。表面上拒否の理由は学校の所在地BloomingtonからLucas Oil StadiumのあるIndianapolisまでが微妙に遠いことを理由としています。自校の生徒が応援に行けないから、という。Google mapによれば1時間10分ほどの距離。駐車などなど込みで1時間半といったところ。アメリカのセンスではさほど遠いとは言えませんが、キャンパス内とは勝手はかなり違うのは確かでしょう。

Lucas Oil Stadiumは収容七万人規模のNFL Indianapolis Coltsのホームスタジアム。ここを借りて開催となればこれはカレッジバスケットボールとしては異例収容規模でのビッグマッチ。KentuckyとIndianaというカレッジバスケットボール界の超優良プログラム同士の対決の場として盛り上げればカレッジシーズンの大きな目玉マッチになる試合となるのでしょう。それも昨季の最良のフィニッシュとなったブザービーターは大袈裟でなく幾百度と繰り返し放送されています。それを受けての来季の再戦が巨大スタジアムでの開催タイミングとしてはドンピシャ。またIndianaはこのオフに全米最強と評される高校生リクルートの選手たちが入ってくる。Kentuckyは優勝メンバーは先発五人全員がアーリーエントリーでNBAドラフト行き、ごっそり抜けますが、こちらもこのオフにまたも全米トップ3~5と評価される高校生たちがHC John Calipariの下に集結する勢い。古豪同士、隣州ライバル、劇的フィナーレの再戦、カレッジ界屈指の超優良リクルート生をずらり揃えてのシーズン序盤のビッグマッチ。興業を考えた場合アングルとしては素晴らしいポテンシャルを感じさせる、興味を惹く一戦になると思われます。ですからKentucky側のこのビッグマッチ提案のセンスは悪いとは思えない。テレビ局も喜んで喰い付いてくる好イベントとなることでしょう。興業からのアガリが双方の学校を潤わせる可能性も高いです。


ではなぜIndianaがこれを拒むのかです。たった一時間の先に行くのがそんなにマイナスなんでしょうか。なぜ学内アリーナでの開催が大事なんでしょうか。定期戦を廃止してまで拒否したい?Indianapolisでの開催でも自校内での対Kentucky戦は消滅しますが、定期戦廃止でもキャンパス内での対Kentucky戦は消滅するんですが。そうまでしてIndianapolis開催を嫌がる?どこにこの案のデメリットがIndianaにあるんでしょう。どうでしょう、読者諸兄なにか理由を思いつかれますでしょうか。私はこのようにIndianaが嫌がっている公表コメントがどうもすっきりせず、これはなにか口に出していない巨大なデメリットをIndiana側が察知して、ビッグマッチなら断る、と定期戦廃止にまで踏み込んだというように見えます。

その口に出していない理由なんですが、私の推測はこうです。巨大スタジアムでの開催となれば観客はIndiana一辺倒ではなくなる。Lucas Oil Stadiumaは大箱、埋めるには Kentuckyのファン、一般バスケットボールファンも巻き込んで集客をしなくてはならない。よってインディアナ州内で開催されているもののホームでの対戦が実質上消滅する。それどころかIndianaのリクルート地盤であるインディアナ州内でKentuckyが自己ブランドを宣伝する機会を与えるに等しい、とIndiana側は捉えているのではないのか。例えばインディアナ州内の有力リクルートの高校生選手がこの試合に招かれてKentuckyの人気ぶりに触れることになるのは、単に興業にとどまらず、リクルート合戦でKentuckyのインディアナ州内への侵食を招くという危機感がそこにあるんではないのか。定期戦ということはインディアナ州の優良高校生からすればKentuckyに入学すれば地元でビッグマッチに凱旋できる機会を持てるということになる。この定期戦に出場できるのはIndianaに入学しても同じですが、General Bob Knightを失って以来成績が低迷していたIndianaの若い人へのアピール力はKentuckyに見劣りする。Indiana側の視線では今季久々に全国レベルの活躍をやってのけ、来季優良リクルートの大量獲得でやっと栄光の時代のレベルに返り咲こうかという時期に自州内で近隣の有力校=Kentuckyの宣伝試合を受けてやる必要ないだろう。そんなことよりもっとInidana自身のブランド力復活の方が優先事項だ、という考えではないのか。


対してKentuckyがわざわざLucas Oil Stadiumの予定を既に仮押さえまでしてこのビッグマッチを提案してきたというのはKentucky側もよほどのメリットをこの対戦に見ているからでしょうし、それがどこにメリットがあるかというとリクルートや人気でインディアナ側に侵食したいという口に出さない意欲がKentucky側にもあるんじゃないのか。

とここまで考えてから、そこまでKentuckyがインディアナに侵食したいような有望リクルートが近い将来インディアナ出身でいるのかな?という疑問を思いつきました。インターネットは便利なもの、来オフ(2013年秋入学組)やその先の数年の有望高校生ランキングをチェック。それを見る限りだとあまりインディアナの高校生は超トップ級はいないですね。2015年に一人Indianapolis市内の選手(=C Gary Bonds)がいるぐらい。そのもう一つ西隣になるイリノイ州に近い将来、有望高校生がかなりいます。特に2013年秋入学組の全米No.1リクルート候補がイリノイ州シカゴの選手(SF Jabari Parker)ですね。シカゴから日帰りor一泊車移動圏内の@IndinapolisでのビッグマッチをやることでKentuckyに誘えるというとこの選手が具体的なターゲットなのかな。現時点ではこのParkerに対してはDuke, North Carolina, Illinois, Ohio State, Kansas, Michigan Stateなどなど全米の強豪校が大挙参戦、これらの強敵と横一線でKentuckyはリクルート合戦を繰り広げている模様。Indianaはこの超有望株獲得に参戦してません。他のリクルートのライバル各校と差をつけるのに他の学校ではやれないParkerの地元に近い場所での華やかな全米注目のビッグマッチ開催という看板を掲げるというのは、Kentuckyらしい、John Calipariらしい大風呂敷と言えないでしょうか。もし本当にターゲットがこの選手ならこの大風呂敷を広げてKentuckyのメジャーぶりを示すのは来る2012-13シーズンしかない。その次の年では意味がない。Kentuckyがやたら手回し良くLucas Oil Stadiumのこの秋の日程を押さえているのもこの超有望5☆選手がターゲットだとすれば納得できるところ。

そこまで深読みしている解説記事はまだお目にかかったことはないのですが、Indiana側がこの点に気づいているのか、私でも気づくぐらいなのですから気づいていても不思議ではない。IndianaはParker争奪戦に参加していないのですから直接の損得はないとは言えますが、それでも定期戦(契約で数年分まとめて将来の対戦スケジュールを決めます)ですから自州内のシマアラシをKentuckyに許すと数年先イリノイやインディアナなどで有望高校生が登場してきたときに禍根となる可能性はある。Kentuckyのブランド力を警戒してビッグマッチを受けるのを嫌がった、というIndianaの判断があり得るんじゃないかな、と思うのです。どうでしょうか。