National League 昨季MVP Milwaukee BrewersのRyan BraunのPED使用がクロとされた件についてBraun側が申し立てていた異議申立について、独立裁定機関が2対1の評決でBraun側の異議を認め、その結果として当初予定されていた50試合の出場停止を無効とすると発表になっています。それを受けてBraun側からは「真実は我にあり」と高らかに勝利宣言がでています。PEDの裁定で選手側からの異議申立が通ったのは初めての事例です。


問題は…PEDの使用があったかなかったかは相当に濃いグレーのまま残ったことでしょうね。但しそこまでつっこんだ報道は少なく、キャンプイン間近の野球ファンの関心もいまひとつのようでほじくり返す機運も見えず、現役MVPの不祥事はなかったことにしたい、という感じが強い。MLB側からは即座に最終評決への批判を出していますがあとの祭り。

異議申立の争点は採取されたサンプルを手続き規定通りに当日のうちにFedEx(大手宅配業者)で検査機関に送付したかどうか。この一点のみ。サンプルは三重に密封シール等がほどこされており、中身を弄ったとか中身のすり替えを主張するのは不可能と言ってよいです。2011年10月1日午後4時頃に尿サンプルは採取された。その日は土曜日。よってサンプル担当官は当日のうちに送付というルールは承知していたが、土曜夕方なのでFedExが取扱をしないと判断して自宅冷蔵庫で保管した後に月曜日にサンプル送致を完了した。この点についてBraun側は、周囲5マイル圏内にまだ開いているFedExの拠点は何カ所もあった、24時間の店だってあった、ということを示して担当官の手続き瑕疵を主張、サンプルは無効であると申し立てたわけです。

手続き瑕疵は確かにあったとしても testosteroneの異常な高い数値を説明することは難しい。よしんば担当官の家にあった44時間の間、もし冷蔵庫内に保冷されていなかったとしても、その異常数値を科学的に説明することはできない、ということになっています。よって手続き瑕疵でBraunは救われたものの、PEDを使用していた可能性は高いと判断すべきと言えるわけです。


アスリートによるPEDの使用、ヒト成長ホルモンの使用の是非というのは根本的になぜダメなのかを掘り下げると様々な議論が可能(ディベートなら私は賛成論側で十分に戦えると感じます)なんですが、少なくとも現在禁止物質であるのをくぐってまで使用しているアスリートが絶えないのはモラルの面で大いに問題だし、使用していない正直者が負けるのは不公平という点で非難されるのは当然でしょう。以前にこの件を書いたときにも思ったのですがBraunはその登場のタイミングからしてもステロイド期後の新しいベースボールの顔になりそうな選手でもあっただけに、出場停止こそ免れましたが、PEDの蔓延は終わってないのだなあと再認識された事件ではあります。