基本的にはアメリカのスポーツマスコミというのは相当にこなれていて優良だと思ってはいるわけです。ただよーく見ていくとときどきアレ?っと思わせることがある。例えばしばらく前にはこういう記事も書いていますが、ジャーナリズムから逸脱した情報誘導はここアメリカのスポーツマスコミの中でもあるのは事実のようです。ぼーっとしていると誘導されてしまうようです。

今回の「Alabamaの2位確定問題」(いま命名しました)については先日来議論している通りで「誰がどう見てもAlabamaでしかありえない」という状況ではない、賛否あっていい内実なのですが、妙なことにほとんどマスコミ上の議論がない。議論抜きでAlabama当確とする話しか聞こえてこない。最大手であり最もスポーツファンの世論への影響力の大きいSports Centerなどを擁するESPN陣営からもほとんど考察が出ていない。

実は私がAlabamaへの疑義をまとめて書いた11月30日より後になっておちゃらけの「no rematch」記事(12/1付)がESPNのサイトに掲載されたり(たぶんESPNがこの問題に関する初めての記事のはずですが、それがおちゃらけ文体の記事…)、さらに遅れてCBSのcbssports.comにもGeorgiaのQBのツイートを元ネタとする極々短信の「まだわからないかも」的な記事が今日金曜日になってやっと載りましたがなぜかこちらも軌を一にしたようにおちゃらけ記事。Alabamaの戦績の当否や候補他校との真剣な比較検討は一度もされないまま放置されて最終週に突入のようです。


どうも変なんですよね。カレッジフットボールというのは喧喧諤諤の議論が対立してどっちが上だどっちがふさわしいだと大騒ぎするのをよしとする、というかそういう議論を喚起して盛り上がる仕組みになっている。過去のシーズンに様々あったディベートでは大手マスコミは自前の評論家の中から論者を配して双方の主張代理させて盛り上げるということが多かった。ところが今回に限ってはそれがない。拍子抜けするぐらいない。逆にソーシャルメディアでは疑義はかなり上がっている。私が過去指摘してきたAlabamaの戦績への疑問とバイアス以外にも「非」カンファレンス王者同士による「全米」王者という点についての疑問、ボウルで同じカンファレンスの試合なんてという伝統派、狭い隣州同士の争いへの嫌忌だったり、あのつまらない試合をまた見せられるのかウンザリだという(意外とこの意見が多いのに驚かされます。それだけ多くの人が前回の対戦を見たということでもありますが)拒否感などかなりの厚みを感じさせる否定意見がうずまいているのですが、マスコミ側はこの問題に触れない。SECの地上波放映権を長期契約で独占するCBSなんかはSECの強さが財産そのものですから御用マスコミ化するのは仕方ないのかな(これとてジャーナリズムとしては信頼に足りず失格ですが)という気もしますが、ESPNまでコレなのはどうなんだ?ESPNにもなんかあるのか?と疑念が浮かんだのが今週の話。そういう疑念を持って考えてみれば、確かにありました。


SEC NetworkがESPNの制作です。SEC Networkは地上波CBSが放映する毎週のトップカードを除いた残りカードの担当ですがそこにESPN系が二年前にやっと食い込んだもの。SECが全米五連覇中なのはファンのみなさんご承知の通りです。つまりESPN系がSECの放送に食い込んだのは三連覇中とすでにSECがカレッジフットボールのプレミアリーグ化してからのこと。実力で最強となったSECの放送をCBSに独占されていたのではアメスポ総合商社であるESPNの戦略としてマズい、という判断はビジネススクール的思考ではまっとうなもので、とにかくSECに食い込む必要があった。そこで出てきたのがSEC Networkでの取り込み。15年契約、$2.25 billionという巨額契約。これスゴイ額なわけですが、この金額はCBSが毎週の一番良いカード(週によっては二試合も)を取ったあとのカードだけの放映ということを考えると破格も破格。これを結んだのが2009年ですが、今季後にTexas A&MとMissouriがSECに移籍するに際してSEC側がオプションを行使=金額は$3 billionに更新されることに先月同意したばかり。ESPNはすでにSECとズブズブなのです。

そしてAlabamaと2位を争っているのはBig XIIのOklahoma StateやPac-12のStanford。Big XIIとPac-12の主たる放映権はESPNにはなく競合するFOX Sportsです。つまりESPNにとってはOklahoma Stateが勝ってもらってもなんの得もないという現実があるわけです。BCS優勝戦がリマッチで飽きられていようがSECの六連覇が確定する事の方が投資に見合うわけです。

これがもしBig XII側の候補がTexasだったら少しは違ったかもしれない。なぜか? TexasはLonghorn Networkの長期契約でESPNと組んでいるからです。ESPN的にはどっちに転んでもおいしい。SEC一辺倒のCBSにない総合商社の強みを発揮できるチャンスですからTexasが勝つのも悪くない、それはそれでいい商売になります。しかしながら今回の候補はOklahoma State。ESPN的にはBig XIIは崩壊してもらってFOXの手持ち資産にダメージを与えるほうがいいわけで、それがOklahoma StateのBCS優勝戦進出可能性の議論をせき止めているものの正体ではないか、というのが私の推測です。FOXとESPNのカレッジフットボールをめぐる暗闘のあれこれについてはまた別に語ってみたいと思います。

ちなみにFOX Sportsにはこういう記事が昨日になって出ています。ほぼ私が数日前に主張したAlabamaの戦績への疑義などを含むOklahoma Stateを推す詳細記事になっています。そしてESPNやCBSのようなおちゃらけ記事ではない。まあ正直FOX Sportsの影響力はESPNと比較したら微々たるもの、いまさら遅いでしょうが、とにかくそれぞれのネットワークが自前の学校を推しているというアンフェアな現実はおわかりいただけるかと思います。きっと最終週もCBSが放送するSEC優勝戦ではLSU x Alabamaを絶対前提として話を進めるでしょうし、ESPN系のOklahoma x Oklahoma State戦の放送や一見無関係なACC優勝戦でもそうなるでしょう。一方FOX系が放送するPac-12優勝戦やBig Ten優勝戦ではOklahoma Stateを推す会話が何度も出るのでしょう。


これはもうマスメディアの横暴の域に入ってきている話という気がしています。現実的にはBCS優勝戦はLSU x Alabamaになるでしょう。Alabamaは決して弱い学校ではありません。コレしかあり得ないという組み合わせとは言えないですが、このカードでも納得すべきカードでしょう。(根本的にはLSUが優勝すべきですから相手はどこでもいいとも言えるシーズン)

ただしこれはマスコミ大手がビジネス優先としてジャーナリズムを放棄して誘導した結果でもあり、幻滅だなとも思います。AlabamaのNick Saban HCが「リマッチを避けるという目的で投票しないでくれ。フェアに投票してくれ」と唐突に発言したやぶ蛇記事自体がESPNではトップ記事からは早々に下げられてしまっています。Sabanがどれほど事態を把握してあの発言をしたのかわかりませんがSECのビジネスの力でマスコミに誘導されて得ている2位を守るのに「フェア」という言葉を使ったのはかなり皮肉な感じがします。