NFLで1986年に始まったビデオ判定(Instant replay)での判定はその後、NBA, NHLへ広がり、四大スポーツで最後まで抵抗したMLBもホームランに限って採用。大学のフットボールとバスケットボールも採用しており、すべてのメジャースポーツでなんらかの形でビデオ判定が採用されるに至っています。
四大スポーツ以外でもNASCARも採用しており、アメスポの大勢は条件付きながらほぼすべてビデオ判定を受け入れています。ですからアメスポファンにとってもビデオ判定はスポーツの一部として既に受け入れられていると考えていいです。

最後まで頑強に抵抗した保守派のMLBが2008年に折れてビデオ判定をうけいれた議論の経過は非公開ですが、アメスポ全体の流れに逆らいきれなくなったというところでしょうか。私が生中継を見ていてビデオ判定になった試合は一試合だけなのですが、判定にかかった時間などは手際のいいものとは言い難く、判定までにかなりの時間を要して完全に試合の流れを切ってしまいました。これこそ反対派が主張するビデオ判定の悪い部分が出てしまったわけですが、その後も廃止とはならず存続しています。

アメスポ以外ですとサッカーがビデオ判定を拒否しているのは周知の通りですが、それは旧世界である欧州がアメリカより保守的だからというわけでなく、ラグビー(Rugby Union)ではMLBが採用するよりずっと以前から採用していますから、欧米の差ではなく、保守的な傾向の強いサッカーや野球が一番頑強にテクノロジー導入に抵抗しているという図式と見るのが正しいようです。


保守的で伝統を重んずるMLBではホームラン判定以外にビデオ判定を拡張することはまったく議題にあがっていない現状ですが、同じ野球でもLLWSではもっと他の場面にもビデオ判定を導入することを決定、今年のシリーズ(再来週開幕)から拡張採用になります。

元々はMLBに歩調を合わせるようにLLWSは2008年からビデオ判定を採用しているのですが、今年からはフォースプレー(ランナーが早いかボールが届くのが早かったか)、タッチプレー、ランナーのベースの踏み忘れ、デッドボールの判定までビデオ判定の対象となりました。ずいぶん踏み込んだなという印象が強いです。

フォースプレーの判定はかなり微妙なものが多いのは野球をみていればおわかりになると思います。また私が個人的に一番怪しいと思ってるのは内野ゴロダブルプレーでのSSや2Bの足が二塁ベースから離れるタイミング。あれ、習慣でアウトになってますがビデオでみたらかなりのプレーがセーフに覆りそう。MLBのホームラン判定よりよほど大事な場面でビデオ判定に頼る機会は増えそうです。但しそこまで対象を広げるとなるとビデオを使う機会を制限しないといけません。無制限にビデオみていたら試合がブツ切りになってしまいますから。

それぞれのチームの監督が1試合に1回のビデオ判定の要求権(チャレンジ)を持ち、判定が覆ればチャレンジの権利は消滅せず何度でも使えます。判定がくつがえらなければその後そのチームはビデオ判定の要求はできません(延長戦では両チームにさらに1回の権利が発生) このチャレンジ制度はアメリカではかなりお馴染みなもの。ビデオ判定で先行したNFLが過去試行錯誤してたどりついたチャレンジ制に類似のやり方です。


LLWSが過去、誤審で大紛糾したというわけでもないのにこれだけビデオ判定の拡大に走ったのは実験という面が多いのでしょう。LLWS主導ではなく、MLBに改革を促したい勢力(この場合はLLWSおよびMLBの放映権を持つESPNなんでしょうね)の意向もあってこのルールでどれほど大事な場面での誤審を排除できるのかという実験でしょう。
MLBでは今年、完全試合目前の最終アウトで完全にアウトのタイミングのプレーをセーフと判定してしまうというケースがありましたが、もしこのルールでやっていれば確実に覆って完全試合完成となっていたことでしょう。

他方、負けたチームがチャレンジ権を残していれば、最後のプレーがそれほどきわどくなくても、直接得点につながらない場面でもチャレンジ可能でもあり、勝利の瞬間が間延びしたものになってしまう可能性もあるわけです。こういう実験というのはある程度の期間を経てみないとその成否というのはわかりませんし、今回のLLWSの発表もつい最近になってのこと。LLWSでは開催試合数にも限りがあります(参加全16チーム・ダブルエリミネーション)から、これから他の大会・機会(例えばCollege World Seriesなどが候補になるか)で同じような実験が積み重ねられていくのかもしれません。それぐらいやって実績を作ってあげないと、伝統が大好きなMLBはなかなか動かないのでしょうきっと。