ESPYというのはアメリカナンバーワンのスポーツ専門局ESPNが制定するスポーツ大賞みたいなもの。アカデミー賞やオスカーのスポーツ版という方が的確か。今年で十一年目、すでにこの時期の特番として定着してます。日曜日放送でした。

この特番、視聴率はしれているんですが、それ以外の部分での効果はなかなかに絶大のようす。
だいたいアメリカ人ってこの手のレッドカーペットにリムジンで乗り付けてフラッシュを浴びまくるゴージャスなディナーというヤツに憧れるらしくて、アカデミー賞など大物賞以外でもハリウッドではしょっちゅうやっている。セレブな気分にひたれて芸能雑誌の格好のネタでというわけで所謂アメリカの芸能スターにとっては本業(映画なりコンサートなりTVなり)よりもレッドカーペット登場の方が重要な露出といった趣きすらある。

そこへいくと確かにスポーツ選手ってESPY以前はそういうセレブ気分の味わえる機会って少なかったかもしれない。本当の意味のスポーツスーパースターで、さらに華のある選手ならプレゼンターとかで既存の賞に呼ばれることもあったでしょうが(例:Michael Jordan, Kobe Bryant、Williams姉妹、Tiger Woodsなど)ほとんどの選手たちにとってはレッドカーペットはまったく縁がなかった。


とまあそんなこんなのアメリカの状況があって、でもESPYが始まった頃から、見る側からしてはくだらない番組だと思っていたんですが、業界的効果は高いようで定着していったわけですね。

ESPNからすればこういうきらびやかな舞台を提供することで得られるものは多い。まずはアスリートや引退した選手たち、さらに各スポーツ経営者とのコネ作り・囲い込み。
スポーツ番組の最大手&総合商社としてスポーツ各界のおいしい選手たちと会社のトップとのコネ作りが将来の解説者オーディションにもなっているというのが一面。各スポーツのトップと良好な関係を築く事で将来の放映権契約の面での優位も確保。対抗他社はゲンナマ一本で勝負するところへ、ESPN陣営は最大手というだけでなくセレブ気分のオマケ付き
というわけです。カネだけならFOXも出せなくもないんでしょうが、こういうESPY的なものに対抗するのはなかなかに大変。

また選手たちだけでなく、自社のスポーツ解説陣なども呼んでこのゴージャスなパーティでいい気分にさせるのがウケるらしいんですよね。解説陣の取り合い契約などで業界二位のFOX Sportsといろいろ争いがあるんですが、そこでも交渉材料特典としてこういう他社に真似のできないセレブなムード演出でといった具合。

この時期は野球を除けばほとんどのスポーツにとってのオフシーズン。野球は全国放送しても視聴率的に強いコンテンツとはいえず、実際ESPNも週二~三試合程度の放送。この時期シーズン中なのはMLBとMLS、あとはビーチバレー、テニス、ゴルフ、モータースポーツ。どれも視聴率的には強くないものばかり(ゴルフは強いけどこれは地上波が週末の放映権抑えている)。つまりはこの時期ESPNとしても放送すべきメジャースポーツがないのです。
そして視聴率の稼げるスポーツが少ないこの時期に特番を提供できる。比較対象が全国放送で弱いMLBでしかないからESPYは視聴率的にはそこそこで十分。だからESPYは見せる番組じゃなくて中の人のための番組なんですよね。


まあそんなこんなで最大手だからできる強みを生かしたなかなか業界トップの経営戦術的にはおもしろい番組です。ただ実際に受賞する面々っていうのは実に退屈なメンバーが並びますね。毎年ですけど。正直見てるのは辛いです。