NHLに熱い方が語るサイトなどを見ているととても自分なんかが観戦者として語ることはあまりないなと思います。なによりホッケーへの愛が足りないし。

というわけで今日からStanley Cup Playoffが始まるって言うのに試合や戦力の話はなし。主にビジネスの視点から、またはアメリカでの草の根レベルのホッケーについては幾つか。

まず所謂「四大スポーツ」という呼称のせいでNHLというのはNBA/NFL/MLBとの比較がよくされるわけですよね。
でも実勢をみればホッケーと三大スポーツとの差は歴然としている。視聴率しかり観客動員しかり放映権料の金額しかり。特にアメスポという言うことでカナダのチームを除くとかなり寂しいことになります。

例えば2005-06シーズンの観客動員のデータがESPNにありますが全体でのトップ=Montreal Canadiensを始めとしてトップ10の半数がカナダのチーム、上位8位までの5チームがカナダのチーム。

NHLの拡張政策に乗ってのチーム数の急増、既存のカナダチームのアメリカの都市への移転が相次いだりで、NHL全30チーム中僅か6チームとその割合が激減したカナダのチームですが、やはり観客動員では強い。さすがはカナダのナンバーワンスポーツと言ったところ。
特にCanadiensはモントリオール市民の誇りと言っても過言でないほどの人気度でまさにMLBに於けるYankees、Red Sox並の地位。
カナダ人男性と話を弾ませるためにはホッケーは大変有効なのは私も個人的に体験しているところ。


一方米国側では「Hockey Town USA」の異名を取るDetroitが圧倒的な観客動員で突出。
DetroitのNHLの名門=Detroit Red Wingsが毎年NHLでトップクラスの観客動員を記録。この街でのホッケー人気の強さは米国の他の街にないレベルで、いまでこそなくなりましたが一時期はマイナーリーグホッケーチームもDetroitには同時に存在(=Detroit Vipers, IHL所属。通常マイナーリーグチームはNHLがその街に入ってくればそれを避けて移転するものですが、Vipersは人気NHLのある街に堂々参入してきた)。Red WingsとVipersが同日にホームの試合を開催して両方ともがsold outを記録したこともある厚いホッケーのファン層が存在する街です。(現在ではIHLが破綻してリーグごと消滅していますが)

米側でこれに次ぐ安定した動員力を持つのがPhiladelphia Flyers。こちらも伝統のあるチームで安定してNHLトップ5近辺の観客動員を叩きだします。私が初めてNHLを見た頃からの強豪ですね。
この二チーム+New York Rangers、Colorado Avalancheあたりまでが安定してトップ10レベルの動員が見込めるチームで、残る米側のチームは成績がよければ伸びるチームもありますがファンの底堅さが足りない。メンバーが落ちたらいきなり動員もがっくりと下降線に入ってしまう。昔はBoston Bruinsがかなりいい線いっていたはずですが昨今は客足もいまひとつの模様。

二年前(=昨季は労働争議でシーズン消滅しているので一番最近のシーズンということ)にStanley Cupを獲得して今年動員急増、NHL全体の二位に付けているTampa Bay Lightningや、数年前までトップ10常連だったSt. Louis BluesなどはNHLチームとしては絶好の条件の都市。同時期にシーズンが展開するNBAのチームが存在しない都市で、カレッジバスケの強豪も近隣に存在しない。市民の期待値を上げることができれば行き場のないスポーツファンを吸収可能な条件は揃っているわけです。
そういう好条件の街であるにも関わらず例えばSt. Louisはスター選手を失うと一気に観客動員が冷めてしまう。そのアメリカ側での人気の底の浅さが表面的な観客動員の数以上に弱いと思う。

MLBが人気の長期低落を叫ばれながら長年成績が悪いチームでも一定の動員から下へは決して落ちていかない腰の強さを持つのと対照的だと思うんですね。カナダ側のNHLチームはMLBに似た成績が悪いシーズンでも観客動員が極端に落ちない根強い支持があるのとも対照的なアメリカ側での浮ついた「ホッケー人気」。その浮ついた人気を金に変えようとした米企業の投資ラッシュとその失敗。そしてその結果失われた昨シーズン。
これはもう競技としてのホッケーを愛しているひとの絶対数が足りていないのが根本原因で、これは一朝一夕に解決する問題ではありません。カナダ人のホッケーへの愛、アメリカ人の野球への愛。これはやはり財産だと思うのですよね。


もちろん米側でのホッケーの根強さを感じさせる事例もあります。近年少年ホッケーチームが増えているし、それよりもなんと言っても各地に広がるマイナーリーグの存在でしょう。
NHLのすぐ下の実力レベルのAHL、そのさらに下ECHL。このECHLが実はビジネス的にはくせ者で一地方マイナーリーグだったのがこの十数年で大拡張で全米にチームを持つリーグへ成長、ビジネス的にも黒字のチームがほとんどなのがポイント。NHLが赤字まみれなのに。日本人でNHLを目指しているGK福藤選手が所属するReading RoyalsもこのECHLのチーム。Reading?それどこの州にあるの?って在米が長くなった人間(=私)も思うような街でも経営が成り立つだけの観客を動員しているわけ。

実際に試合に行ってみるとわかるのですが観客の層は労働者層が多い。NHLの客層とはかなり違う。チケットの価格もぜんぜん違うし。そして試合よりも喧嘩が始まるのを楽しみに行ってる。いや誇張じゃなく。そしてお約束のように毎度喧嘩が始まる。少なくとも私が行ったマイナーの試合ではすべての試合で喧嘩がありほとんどの場合複数回発生し、どう見ても客も喧嘩のときの方が楽しそう。
実際問題ECHLレベルまで落ちるとプレーの質はかなり疑問で、NHLを見ているときのような「意図されたプレーでの得点」なんてないに等しく、三時間に渡ってパスミス(なのかどうかすら判断しがたい)の連続パックが右に左に流れていくのをビールを飲みながら眺めているようなもの。AHLはTV観戦したことしかないですがプレーぶりはやはりそれ風。喧嘩はやや少ないかな。NHLまでレベルがあがらないと長時間のプレーを純粋に観戦して楽しむのはかなりつらいものがあります。
なので営業上も喧嘩が必須なのでしょう。

別にそれが悪いとはいいませんが、そういうものを求めているひとたちは高い金を払ってNHLのチケットを買う人や、TVでわざわざNHLを三時間座って見てくれるひとたちとは違うのではないかと思うのですね。NHLの人気下支えホッケー人気、ひいてはアメリカ人のホッケー愛の熟成の助けになっているのかどうか疑問。
やっぱり愛の助けになるのは少年ホッケーの方なんでしょうね。足の長い話になりますが。


またビジネスでまずまず順調であったと言える過去のアメリカでのマイナーリーグホッケーですが、先行きは少々暗雲。
冬場のスポーツファンの行き場として他にプロスポーツのない中都市に多く配置されて成功を修めてきたマイナーリーグホッケー、シーズンのかぶる新興スポーツのアリーナフットボールの浸食を受け始めているのですね。

AFL(及びその他のマイナーアリーナフットボールリーグを含む)の昨今の伸び具合は特筆もので、私は個人的にはいまのところあまり入れ込めてませんが(NFLやNCAAという本流ではないアメフト派生のリーグならCFLが抜群におもしろいと思っている)それでもたまに見れば見たでそれなりにおもしろいのも確か。フットボールを理解している人間からすれば初見でもすんなり入っていけるものだし、点もやたらいっぱい入って賑やかだしアメリカ人向き。チアリーダーもいますね。TVコマーシャルの入れやすさもあり放送する側からして扱いやすいコンテンツでもある。なにより本家NFLが終了した時期にやっているという明瞭なニッチ戦略が当たっている。

元々ホッケー愛の希薄なアメリカ人一般のこと、アメリカで最も人気の高い観戦スポーツであるフットボール(の変形)の方に惹かれたとしてもなんの不思議もないわけです。
NHLが将来AFLにTV、観客動員のいずれでも負ける(今現在でもNHLと視聴率ではさほどひけをとっていませんし)ようになる日が来る可能性は十分あり、そうなればもうホッケーを含めた「米四大スポーツ」という呼びかたをする人は消えることになるのでしょう。
別にそれは悪いことではないし。三大スポーツの下に、mid-majorプロスポーツとしてNHL/Arena/MLSが存在するなんて状況は多様で楽しいし、フットボールの一人勝ち一極集中なんかより健全なんじゃないかなと思うんですけどね。