でまあ私は試合にも年に何回も足を運ぶ程度にはサッカーを楽しんでいるわけですが、MLSというのはビジネスモデルとして実に興味深い存在でフィールド外の動きの方が中よりおもしろいほどなんですよ。

どこがそんなにおもしろいかを書き始めると例によって長文になってしまうのですが、まずエクスパンションに関しての話でも。

MLSというのは赤字リーグです。リーグとして黒字になったことは設立以来一度もありません。2005年から2チーム増えて12チームですが、現存の10チームの中で黒字なのは3~4チームほどと言われています。
但し各チームの赤字の額は知れています。なにせ一番お金のかかる人件費にハードサラリーキャップがかかっていますので各チームの選手サラリー総額は約$2 Million。
試合平均観客動員が約15000人 x 主催15試合(含San Jose=1チームだけ9000人以下平均)ですから各チーム、黒字まで行かなくても収入のフローはそれなりにあると考えられます。MLSのリーグ戦以外に国内外のカップ戦や海外クラブとのフレンドリーもありますが基本的にそれは儲からないです。

TV放送では苦戦しています。視聴家庭の多いESPN2で週一で全国放送がありますけど、あれはMLS自身がスポンサーとなっている実質インフォマーシャルのようなもので、収入になっていない。ローカルでの放送やFOX Sports Worldでの放送が最近は増えてそれなりに収入になっているようですが、なにせ10チームしかなく、それも大都市圏を網羅しているとは言えないチーム配置なので大きな視聴率も取りようがないのです。

ではなぜMLSはリーグ拡張に走らないのだろう?というところに疑問が来るはずです。MLB, NFL, NBA, NHL、いわゆる4大スポーツ(私はこの呼び方があまりしっくりきませんが。NHLが圧倒的に視聴率でもビジネスでも弱いからです)はすべて拡張に走って成功しています。全国メディアに乗せるためには全米にチームを配置するのが基本とさえ言える状態で、マイナーリーグホッケーやインドアフットボールですらそのパターンを踏襲して売上を伸ばしているわけです。NHLなどは最も顕著でそれまでホッケーとはなんの縁のない南部などに次々とチームを設立してそのシマを広げているわけす。

ではMLSはなぜシマを広げないのか。それどころか数年前にはフロリダの2チームを撤収・縮小しています。広げられないのか?広げないのか?

観察から結論を言えばもったいぶって広げていないのでしょう。
なにをもったいぶっているかというとMLSのオーナー連は将来サッカーが大化けする方に全部賭けてギャンブルをしているのだと思われるのです。目前の黒字化などという少額の儲けはどうでもいいと考えているフシがひしひし感じられるわけです。

2005年から2チーム増えるわけですが増えた2チームの本拠はLAとSalt Lake City。LAにはすでにGalaxyというMLS内の優良チームが存在し、新たなチーム=Chivas USAはMLSにとっては地区的な拡張の役にはまったく立ちません。(他の大事な役割がありますが。別項)。そしてもうひとつが中都市としかいいようのないSalt Lake。メジャースポーツはUtah Jazz (NBA)以外存在しないSalt Lake。全米にチームを配置するというのならすでにマウンテンエリアにはDenverに拠点を置くColorado Rapidがあるのに。逆に近いSalt Lake?
他に候補都市がなかったのではなく、Cleveland、Seattle、Oklahoma City、New York、Portland、Atlantaなどなどの候補から選んだのがLAとSalt Lake。どうみても他のアメリカスポーツビジネスがやっきになっている拡張路線とは行動を異にしているのがわかります。
意図は早急な拡張によるTVマーケットの拡大などではなくて、既存のチームとの新ライバル関係を演出できる場所を選んだと解釈できるわけです。2005年のエクスパンションはあくまで地道な成長を目指したリーグ拡大に終始したと考えられるわけですね。アメリカ人の経営手法としてはずいぶんと慎重な、手堅い、そしてよく投資家がそんな慎重な手法を容認するものだと言える異色のマーケティングと言えましょう。