コメントでおもしろいお題をいただきましたので記事を書いてみたいと思います。女子プロサッカーのWPSが正式に活動停止を発表したのがつい先週末だったか。史上初の女子プロサッカーリーグだったWUSAに続いてWPSも解散、WPSの選手たちの一部はUSL W-Leagueのチームと契約するなどしてこれから長く続くかもしれない女子プロサッカーなしの期間を過ごすべく身の振り方を模索しています。
WPSの活動停止を受けてあるWPSの選手が手記でおもしろいことを書いていました。「WPS=Women's Professional Soccerはこれでなくなるが、women's professional soccerはこの国に残る」というもの。固有名詞としてのWPSはなくなるが、一般名詞としての女子プロサッカーは続くはず、という期待も込みで力強く文章を結んでいました。これだけアメリカで人気のある女子サッカーはまだまだ復活の余地はあるはずなのは私も同意したいのですが、それをどうまとめていくかの方法の模索が関係者の間では始まっているはずです。現時点では主力のスター選手たちはこの夏のロンドン五輪に集中していることもあり具体的になにを目指すかはまだ見えないのが現実でしょう。
女子代表の人気者でもGK Hope Soloが生まれ故郷のSeattle Sounders Womenと早々に契約。Soundersはさらに代表の次世代のスーパースター候補の二人のFW Alex MorganとSydney Lerouxとも契約して今現在の所属メンバーでは一番派手な陣容となっています。代表のメンバーたちは代表の活動を優先するのでSoundersと契約下と言ってもそれほど多くの試合に出場するわけではないと思われますが、それでもネームバリューによる宣伝効果は確実にあって、過去ほとんど注目を浴びる機会のなかったW-Leagueの動向がいろいろネット上を賑わせています。
お題でいただいたのはこのW-LeagueがそのままWPSに代わる女子プロリーグの拠点リーグ化するのはないのか、という点です。
USL W-Leagueは形式上2部リーグですが、1部WPSが存在しなくなったので自然に最高位リーグになったという状態ですよね。W-League自体は1995年創設とされ、けっこうな年数存在しているのでいままで通り地方ベースのセミプロ/アマリーグのままならこれからも存在し続けられそうです。が、それがWPSの代替となるプロ化というと可能なのかどうか。
いまのW-Leagueの様子を見るとまず目につく良い点はMLSの女子部として存在するチームもいくつかあること。男子MLSと同じ施設やスタッフなどインフラを共有できれば事務方の運営コストを下げられる利点や、場合によってはMLSとダブルヘッダーと言った相乗効果を狙った開催方法が可能かもしれないところでしょうか。
アメリカの女子プロリーグが二度まで短期で崩壊していったのと比較すると欧州の女子サッカークラブが多数安定して存在していますよね。では欧州女子サッカーがアメリカのプロリーグよりもTV放映が多いとか動員が強いのか、というとそうではありません。極一部のチームはプロ待遇ですが、ほとんどの欧州女子クラブはアマと言っていい。それでなぜ安定して存続できるのかというと、それは同クラブ内男子チームが稼いだお金を運営費としてアテにできるからです。アメリカでも同様の例として女子バスケプロリーグのWNBAが創設以来赤字続きでも男子NBAからの補填で潰れる心配がないという例があります。または大学スポーツでフットボールと男子バスケが稼いでくるお金で他のマイナースポーツの運営費が安定的にまかなわれているというも似た例か。つまりアメリカの過去の女子プロサッカーリーグWUSAにしてもWPSにしても独立した運営を目指して失敗した例。その失敗に懲りてMLSからのヘルプに期待するというのはあり得る話です。
但し、MLSとの協力態勢というのはWPSも模索していたことで、「お互いサッカーのアメリカでの発展に協力しましょう」という無意味な声明はMLS/WPSから出たことがあるんですが実際はなにもMLS/WPSの協力はなかったという実績もあります。それがWPSが崩壊したことでMLSが女子プロサッカーに乗り出す可能性があるのか。
WPSがMLSとの協力態勢やさらに進んでNBA-WNBA型のサブ組織を模索した時点=ほぼ五年前の時点ではMLSにはその余裕がなかった、いまはMLS側に将来の展望が開けているという大きな違いがあります。五年前というとMLSは初めて米国外のチームとして新規にToronto FCを加えて13チーム化(現在19チーム)したばかりのころ。いまMLSの動員の圧倒トップを誇るSeattle SoundersはMLSに参加の予定はなく、New Yorkを始め各地で動員減少に歯止めがかからずリーグの存続が危ぶまれていたころの話です。それどころか当時はMLSはコスト節約のために若手の練習試合の開催を止めていたぐらいの節約モードの時代です。自らの若手育成にすらお金をかけられない時代に、女子リーグを抱えてプロモートなんてやれるわけがなかったわけです。そうやって節約したお金でDavid Beckhamをサラリーキャップルールを変更してまで獲得した年でもあります。Beckhamのスターパワーに有り金賭けて反転攻勢戦略に忙しかった時代。
それが今ではうまくスポーツ局の多チャンネル化に乗ってESPN系、FOX系、NBC系と三系列と放映権契約を結び、また一気に増えたチームの加盟費の急上昇(1チーム最高$40 millon)も流入して資金面でも五年前とは雲泥の差です。もちろん収支で言えばまだ赤字クラブも多いですし、累損を減らすような継続的に利益を産み続けるビジネスの域までは到達していませんがMLSの将来への見通しは五年前とは比較にならない安定度を増していると言えます。
そういうMLSの状況の変化があるのでMLSの女子サッカーへの対応が五年前とは違った形になる可能性はあるとは思われますが、だからと言って即座に女子プロサッカーの大スポンサーになって女子プロ1部リーグ再興か、というとそこまで甘くはないとも思います。なぜならMLSの一般選手のサラリーは低く、賃上げ要求の突き上げが今後も続くと見込まれる中、女子側にカネが流れるのはMLSの選手たちにとっては不快なカネの使い方となるであろうからです。労働争議で荒れる可能性を増す動きと言えます。動員で好調なクラブもありますが、そうでない古参チームもあるのに、女子部を持ってどうなるのか。MLSの動員がより減るのでは?という危惧はありうるところです。
MLSがスポンサーとなるかどうかは別として、W-Leagueがプロ化していく可能性を考えて見ましょう。
上でも述べたように一部には女子代表選手を複数獲得して事実上のプロ化を推し進めているチームもW-Leagueにはありますが、他方モロに地方のアマクラブも混じっていて力量の差は相当にありそうです。プロディビジョン構想というのはそういうアマチームを排除するという発想なのでしょうか。W-Leagueが細々ながら続いていた理由はなによりもコストが低かったことのはずなのです。一応全国リーグの体裁はとっていますが、実態は各ディビジョン内での対戦が主で移動もバス移動。選手も試合給が出るチームも出ないチームもある。選手のほとんどは別に仕事を持っている女性たちです。またはオフシーズンの大学生選手が参加しているためサラリーを出せない(対価を受け取るとNCAA規則違反で大学の試合に出られなくなる)チームもある。プロ化というとそういうアマ選手たちを含むチームは全面的に脱落する。ではどこが残るかというと代表級を雇ってペイが期待できる大都市部のチームだけになる。そうなるといままでのW-Leagueのように地域リーグでチーム数が足りるのかどうか。結局WPSの初期のように遠い遠い都市にチームが点在する全米リーグになる。バス移動が不可能な距離になったらどうするのか。運営費が跳ね上がります。地域リーグのまま=運営コストを抑えたままでプロ化ができるものかどうか。WPSの末期について私はチームが東海岸にチームが集中してバス移動で運営ができる点を評価してきていますが、W-Leagueが長年存続できてきた良いところも同じで地域的にコンパクトだったことのはずです。それがW-Leagueのプロ化でまた「全米規模」を目指したらWPSやWUSAの失敗の轍を踏むことになりそうです。では地域リーグの良さを残したままW-Leagueがプロリーグに転換可能なのかというとこれは微妙。かなりの工夫をこらさないとそうはならなさそうです。いずれにしても頭をやわらかくして計画に臨まないといけないんじゃないでしょうか。固定フランチャイズのリーグ制だとか全米規模の云々という固定観念に縛られると何度やっても同じということになりかねないですね。(男子サッカーもそういう失敗の歴史を経てますが)